第18話 吐いちゃった
「それじゃあ買い出しと挨拶も済んだしそろそろ出発しましょうか」
「荷物は私の収納にたんまり入ってるしいつでも行けるよ」
「どれくらいかかるのー?」
「まず目指すのは北西の交易都市デノンベルジュだな。前は私の足に合わせてもらってたけど、身体強化が使えるし二日もあれば着くだろう」
「そこからまた走って二日くらいで私達の故郷のガレラ村よ」
「えー、じゃあ四日間背負われっぱなしかぁ」
「そう言うなよ。徒歩だと軽く一週間はかかるんだぞ」
「我慢する⋯」
見慣れた街並みを後にして王都の門を出る。此処から先は交易都市との街道なので、人が多い分戦闘も殆無いから最初のレダ村の道中みたいなことは滅多にないそうだ。平和が何よりだけど、それってノンストップで数時間は揺れとの戦いってことだよな?
「ウ”ッオエェェェ」
「大丈夫~?まだ初日なのに慣れないと大変よ~?」
「ごめんなぁ、こんなに長い時間走ることなんて無かったから、ペース配分を考えてたら揺れるの忘れてた」
「だ、だひじょう⋯えれれれれれ」
「駄目じゃねーか!水飲んで横になってな、酔い止めの薬草を摘んできてやるから」
「アリスちゃん体を起こしてカップは持てる?」
「頭がぐわんぐわんしてちょっと無理かも⋯」
ストローさえあれば寝たまま水が飲めるのに、異世界では植物の茎くらいしかないだろう。そんなもの今の状態で口にしたら秒でリバースの自信がある。いや、待てよ?初めてティナが水を飲ませてくれた時は指先から直接水が出ていた。つまり、こうだ!
「ティナ、指からお水出して⋯」
「良いけどカップは?」
「いらない(カプッ)」
「え?」
赤ん坊が母乳を吸うように顎を使ってティナの指を咥える。しょうがないでしょ幼女なんだから。
「あっあっだめ、駄目よアリスちゃん!私はお姉ちゃんなのよ!それなのにこんな⋯」
なんか顔を赤くして悶えてるけど構うものか、冷たい水分を補給しないと間違いなくまた吐く。腰をグネグネさせる暇があったら早く出してくれないか。
「おみふ~まらぁ~?」
「ハッ、⋯どうにかなるかと思ったわ。ごめんね、今出すわね」
おほ~キタキタ!空っぽの胃に魔力が含まれた水は暴力ですぜ!しかもティナの汗ばんで来た指でほんのり塩味がついて美味しい。変態っぽいな?いや、シスター風の巨乳美女に膝枕されながら指チュパキメるなんて十分変態か。
「ちゅっちゅっちゅっちゅっ」
「正気を保つのよティナ、相手は友達の妹なのよ。許されないわ」
「商人が居たから状態異常ポーションを買ってきたけど⋯何やってんだお前ら」
その後はポーションのお陰でなんとか乗り切った。効果が高かったのか、俺が慣れたのか知らんけどさっきよりは大分マシになってきた。今日はなんとか野営地にたどり着いて他の人達と一緒に夜を明かすこととなってよかった。腹が減ったなぁ。
あと、たまにティナが指と俺をうっとりしながら見てるけど、変な性癖に目覚めてしまったのだろうか?指チュパはレベル高いっすよ、しかも一回りくらい歳が離れた娘っこに対して⋯。
次の日は特に問題無く背負われて昼過ぎには別の街に着いた。ここが交易都市って所か?王都ほど高い壁はないけど、門の前に人だかりが多くて結構栄えてる気がする。ちなみに今は通行許可料兼、税金を払うため列に並んで雑談中である。
「やっぱり身体強化使って走ると早いなぁ」
「普通の人はここまでじゃないわよ。鍛えられてる私達だから早いのよ~」
「へー、他の人はどれくらいかかるものなの?」
「まず魔力が保たないから駆け足の速度になるわ。それでここまで片道四日って所かしら?冒険者の下位レベルとか一般的な商人だと、そこまで身体強化が使えないから徒歩で行く事になってもっとかかるわね」
倍の速度で着いたのか、そりゃ酔うって。風が体に当たる感じだと、時速30km以上は確実に出てたからやべーぞこいつら。馬の普通の速度がそんなもんだったか?そりゃ人間の足が主流になってるわけだわ⋯。しかもこの姉達はまだ本気を出していない。この意味がわかるな?
「やっぱりお姉ちゃんたちすごいね」
「だろお?やっぱり最後に信じられるのは筋肉だよなぁ」
「私は魔力操作でどうにか着いていってるけどクリスは本当に身体強化の強度が高いわ」
「なんでだろうね?あたしの高い魔力がお姉ちゃんにも伝わってるのもあるけど、ティナも高い方だよね」
「私は小さい頃から魔法を使って鍛えられてるから⋯もしかしたらクリスもずっと鍛錬してたから普通の人と比べて体に魔力が馴染んでるのかも知れない」
「筋肉と妹は裏切らなかったってことだな。っとそろそろ私達の番だ」
毎日やってる地獄のような筋トレにそんな効果があったとは。俺にも魔力があるみたいだしそのうち背負われなくても走って追いかけたいところだ。しかし圧倒的な歩幅の差がなぁ⋯後数年はこのままかもしれん、おぶさり系妖精始めました。
「ようこそデノンベルジュへ。ご用向きは?」
「故郷へ行くのに通るだけだ。明日には出ていくよ」
「短期滞在っと⋯冒険者と司祭と家族ね。通って良し、面倒事を起こすんじゃないぞ」
「あいよー。ここも久しぶりだし少し見て回るか」
「向こう側は食材が出る飽食迷宮があるし、珍しい食べ物があるかもね」
「ほーしょくめいきゅう?食べ物?」
「ここから更に進んで隣国イクーモノにあるダンジョンよ。日持ちしないお魚とか、普段食べられない物もここなら多少出回ってるの」
「おさかな!食べたい!」
「今日は焼き魚が食える店に行くかー。さて、どこがいいかな」
その日は街に漂ういい匂いに誘われて魚介類が人気の店にたどり着いた。ここは宿屋も経営してるらしいので一泊してから出るらしい。そして夕食時、お品書きみたいな木片にとんでもないことが書かれてるのを発見してしまった。
「カニがある!あれ食べたーい!」
「珍しいわね⋯冷やせる水魔法使いでも居たのかしら」
「アリスはカニが好きなのか?せっかくだ、皆でカニ鍋をつつくか」
「やったーーー!」
まさか異世界で鍋を食えるとは!しかも高級食材のカニ!これは嫌でもニコニコしてしまうだろう、なんたって元日本人だ。血潮の半分は海産物で出来ていると言っても過言ではない。もう半分は米。
注文から10分ほどすると俺達の卓に鍋が運ばれてきて、底には昆布が沈められているのが見える。水炊き形式か?いいじゃないか、転生者はこういう所でいい仕事をする。つけダレは⋯この柑橘類のツンとした香りはポン酢か!これもダンジョン産なのだろうか、とても良く分かっている組み合わせで期待が出来るな。
「お待たせしました、こちらご注文の蟹鍋セットになります」
「おーきたな、それじゃ具材を入れていくから先にそれでも齧って待ってろよ」
「お鍋はすぐ食べられないけどこの待つ時間もオツな物よねー」
いや、あの⋯まぁそんな気はしてた。ここ異世界だもんな?鍋があったと言ってアレがあるとは限らない。そう、米がない。代わりに来たのはパンだった。なぜ?Why?こっちじゃ鍋はポトフの上位互換的な感じなのか?
「もそ⋯もそ⋯」
「久しぶりに見たわねその顔、アリスちゃんの美味しくない時のやつ」
「今まで何度もパンは食べてたろ、何が不満なんだ」
もちろん不満顔MAXである。そりゃあ体を構成している物が半分無くなったらこうもなりますわ。だって鍋とポン酢でパン食えっつーんだぜ?合う合わないっていうかありえんだろ、そのうち隣国の食材ダンジョンを死ぬほど周回してやらねばなるまいて。
パンをやっつけた時には既に具材が煮えていて、なんとか俺の機嫌は戻っていった。三人でカニやブリ、謎のきのこに白菜などの野菜類を平らげて一応は満足したので今は今後の予定を相談中である。
「昼間に表を歩いていて知り合いを数人見かけたんだ。奴が出る季節だから山に入れなくて出稼ぎに来てるんだと思う」
「私も見たわ。どうやら今年は少し早かったみたいね」
「いつもは違うの?」
「毎年秋が来ると食い物を求めて活発になる山の獣を喰らいに出てくるんだ。だけど今年は例年より活動範囲が広いみたいだな」
「山に入るのを諦めてここまで来なきゃいけない村の人達を思うとやりきれないわ。冬に備えて薪も集めなきゃ行けないのに⋯」
「お国の人達は何もしてくれないの?強い人が多いんでしょ?」
「リスクが高すぎるんだ。それに死の森もこの時期になると活発になる。こっちに割いてる労力なんてないんだろうな」
クリスの父親の仇はそんなに強いのか、国軍が敬遠するほどとは⋯気を引き締めよう。そもそもどんな奴だ?そう言えば二人ともあんまり情報を話してくれないな。トラウマになってると可哀想だしその時まで待つか。
「それじゃあ絶対に倒してあげないと、だね」
「冒険者も好んであんな田舎の危ない山には来ないだろうしな。私達がやるしかない」
次の日に備えて早めに休むことにした。復讐を成し遂げられれば姉達の胸のつかえが取れ、村に活気が戻る。一挙両得ってやつだな、絶対に失敗はできない。俺に出来ることは着いていく以外にあるだろうか?せめて邪魔にはならないようにしよう。




