第16話 入っちゃった
今日は異世界に来てから初めてのお楽しみの日。過酷なトレーニングから解放された筋肉を労り、体調を整える大事なイベントがある。
「ふふんふ、ふんふん、ふーん」
「ご機嫌ねぇ」
「はしゃぎすぎてコケるなよ~」
今まで体の汚れを落とすのは魔法と濡れタオルで拭くくらいで、あとは出先で川や湖があるとそこで水浴びをするくらいだった。流石に長いこと体を冷やすと風邪を引いてしまうし、元日本人としては毎日熱い湯に浸かれないのがしんどかったので思い切って聞いてみたんだ。
すると王都には公衆浴場があるという情報が手に入った!グッジョブ名も知らぬギルドのチンピラA!(※ガンドルフです)
しかも水魔法使いが居れば「水払い」と言うサービスで、自分達で人数分の水を出して個室を割安で使わせてくれるそうだ。神すぎる⋯知れた仲だけで楽しめるのは温泉宿のお高い部屋に風呂があるのを思い出すな。
「私達も風呂に通えるくらいは稼げるようになったしな、これから週一くらいで行くか」
「そぉねー、休みの日に合わせて行けば私の魔力も気にしないでいいし」
「やったー!おっふろ!おっふろ!」
思わず小躍りしながらズンズン突き進んで、ついに~ゆ~と書かれた暖簾が見えてきた。⋯違和感がすごい。駄目とは言わんが、レンガが積まれた家や店が並んでるところにいきなりこれがあると脳がバグる。
「着いたわねぇ、それじゃこの靴箱に脱いだ履物を入れて鍵を取ってね」
「へーこんなふうになってんだ」
「あーね⋯」
鍵に番号が振ってある。これは靴箱の鍵をフロントに渡すとロッカーの鍵と交換してもらえるあのシステムだな?どうせまた他の転生者が広めたんだろこれ、俺は詳しいんだ。まぁわかりやすくていいけどさ。
「いらっしゃいませ!今日はいかがなされますか?」
「個室をお願い。水払いで、三人で入れる家族風呂ね~」
「水適用ですね⋯はい、ではこちらの鍵をどうぞ。お帰りの際はまたここへ寄って鍵の返却とお支払いをお願いします」
「はーい」
なんか既視感すごいけど便利だから良いか。今考えるとスパセンのシステムって画期的だったのかもしれんなぁ。異世界でも無料で入って逃げるなんてセコい事はできそうにないし、あっちの売店では風呂上がりに飲める冷えた飲料とか売ってて結構賑わってるしな。
「じゃあ二階へ行きましょう。アメニティは部屋に備え付けだからね」
「おぉ、やけに詳しいじゃんか?」
「教会の付き合いで何回か来たことがあるのよ。アンタが筋トレしてる間に入ってたわ」
「あー、あの頃は二人分も払う余裕無かったもんなぁ」
「ティナは社会に揉まれてるね!」
「うふふ。そうよぉ?これでも腕っぷしでのし上がってそこそこ偉いんだから!」
なんか恐ろしいことを言ってるな。あんまり詳細を聞くのはよしておこう、触らぬ神に祟りなしってね。触ってなくても祟りみたいなの食らった事例が俺なんだがな。っと、あの部屋かな?
「中々きれいな部屋じゃないか!冷蔵庫までついてるし、下で何か買ってくればいつでも冷たいものが飲めるようにしてるんだなー」
「ええ、でも今回はお風呂だけで泊まらないからその辺の魔晶石は抜いてあるわね」
「ましょーせき」
「私はお風呂に水を入れてくるからねー」
魔晶石か、急にファンタジー要素ぶっ込んできたな。今のところ魔物はゴブリン程度しか見てないし、もっと強いやつからドロップするんだろうか?クリスに聞いてみよう。
「ねぇねぇお姉ちゃん、魔晶石ってなんなの?」
「そう言えば魔晶石は見たことがなかったか。魔晶石ってのは国が管理してる物でな、私は行ったこと無いけど軍隊が出張ってバリバリ戦いまくってる死の森って所があるんだ。そこに出る魔物はクソ強いらしくて、そいつらが死ぬ時に出る物凄く濃い魔素が固まったものらしい」
「ほぇぇ~兵隊さんががんばってくれてるんだ」
「そうだぞ。だから貴族や教会は強い魔法使いを求めてるんだ」
「ちゃんとお国のためなんだね」
「まぁ魔晶石は皆が魔法を使えるから人気はイマイチだけどな⋯。属性は魔力を込める人で変わるけど、温めたり冷やしたり、風を出したり土に埋めて土壌改良くらいしか使えないし。全部魔法使いが居れば事足りるから自分とは違う属性を補うくらいだよ」
「そっかぁ。あたし達はティナが水を出せるから温かいのが欲しいね」
「けど魔晶石は資格やら何やら面倒だからなぁ」
「お湯が貼ったわよ~二人ともおいで~」
準備が出来たようだ。今世初の風呂タイムだ!これは初めての朝飯並のテンションになっちまうぜ。⋯いや、よく考えたら二人と一緒に入るんじゃね?家族風呂って言ってたしな。俺中身男なんだけど、その前にうら若い女性の裸体が二人分もある状態を考えると犯罪臭がしてきたな。
「あ、あたし二人が入ってから一人だけで入るよ!」
「なーに言ってんだ、風呂は初めてだろ?背中とか手が届かないし洗わせろよ」
「長い髪もちゃんとしっかりお手入れしないとね~」
う⋯確かに女性の入浴はやたら時間と手間がかかるイメージがある。特に俺の髪は幼女の割に腰まであるので洗うだけでも面倒そうだな。しかし一緒に入るのかぁ~失念してたなぁ~!
「やっぱりお風呂はいいかな~、なんて⋯」
「あんなに楽しみにしといて今更それはないだろ、いいから行くぞ」
「あぁ~」
脱衣所に引っ張り込まれてしまった。こうなると体格で勝てないから抵抗ができない。もっと筋トレをがんばって逃げ回れるように精進せねば。絶対勝てる気がしないけどな。
「脱いだ服は後で洗浄をかけるからそこの籠に入れてね」
「あいよ、アリスも早く脱げよ?」
「あ、う、え、あ」
「何固まってんだよ、脱げないっての?じゃあ脱がしてやろうか!」
「ぎゃあー!」
一瞬でスッポンポンにされたんだけど!ワンピと上下の肌着を同時に脱がされたんだけどどうやった!?っていうか二人とも一糸纏わぬ姿で目のやり場に困る!そうか、他に誰も居ないから体にタオルを巻く必要がないのか!ぬかった!
「おー中々広いな!石鹸とかヘアオイルもあるし、至れり尽くせりってやつだ」
「ここに毎週来れるならハリになっちゃうわよね」
「んん⋯」
「何モジモジしてるの~?先に頭と体を洗うからこっちにおいで~」
ついに始まってしまった⋯そこから先はされるがままで、俺の体は一瞬で綺麗にされていく。
「やっぱり子供のお肌って綺麗よねぇ、ツルツルのツヤツヤで触ってるだけで楽しいわ」
「ちょっどこさわって、んぁっ!アハハハハ!」
「そーれそーれココがええんか~?ほれほれほれ!」
「アハハ、やめキャハハハハ!」
なんか楽しい。二人をそういう目で見てたのが少し情けなくなってきたな。俺達は家族なんだ、気にすることはないじゃないか?いつも一緒に居るんだし今更って感じだけどな。
「もーやめてよー!お返しに背中を洗ってあげようと思ってたのに!」
「私はやってないからお願いしようかな」
「えっ、私も洗ってほしい!」
「ティナはいじわるしたから後でね」
「はーい⋯」
やはり姉は懐が深いな、常日頃くっついて過ごしてるだけあって包容力がすごい。っていうか背中が広い⋯。これはアレか、俺の目線が下がってるせいで大きく見えるんだな。それにしてもいい筋肉してるなぁ、獰猛な猫科みたいな無駄が無くて鍛え抜かれた身体だ。
「すごい⋯いつも乗ってるけど、全然固くない⋯」
「そうかー?バランスよく鍛えてるからかな?」
「私も!早く!早く!」
姉の背中を流し終わってティナに取り掛かる。が、これはなんともコメントしづらいな。
「なんかぐにゃぐにゃだね⋯」
「なっ!わがままボディと言いなさい!女の子は多少お肉がある方が人気があるのよ!?」
ティナは普段ローブを羽織っているが、実は脱ぐとすごい。ぽっちゃりとまでは行かないけど、それなりに肉が付いた実に女性らしい身体だ。もちろん胸も結構大きめで俺の所見ではFかGはあるように思う。なんせ腋からチラチラ見えるくらいデカい。ちなみにクリスはCくらいの安心安全普通サイズで実によろしい。
「はーやっと終わったよぉ」
「ご苦労さん、じゃあ入ろうか」
「体が冷えちゃうしね~」
やっと湯船につかれる。この瞬間を待っていたんだ!
「う"あ”ぁ~効くぅ~」
「お前オッサンかよ⋯でもこれは気持ちいいなぁ~」
「ホントね、いくら洗浄と水で体を拭くだけで良いって言っても、この疲れが解けるような気持ちよさは堪らないわ」
それな?やっぱ風呂はいいねぇ、人類の生み出した文化の極みだよ。温まると筋肉の弛緩作用があるとか、血流の改善効果があるとかだったか?心の洗濯とも言うしこれが毎週あると思うと楽しみである。そう言えば気になることがあったな。
「このお湯はどうやったの?ティナってお水か氷しか出せないんでしょ?」
「火の魔晶石が外の装置に仕込まれてるのよ。壁の穴から水が装置に流れ込んで行って、そこにある魔晶石で温められて戻ってくるんだって。操作はここの板から魔力を流してやってるの」
えっそれって湯沸かし器では?割とハイテクな機構使ってんな異世界。いや、店自体が転生者の仕事だとしたら内部まで徹底していると思うべきか。なにはともあれよくやった。もしも会うことがあったら焼肉のタレを進呈しよう、もう死んでる可能性は高いだろうけど。
「へえー、すごいねぇー⋯」
「とろけてるなぁー」
「普段がんばって鍛錬してるしね。こんなに気に入るならもっと早く連れて来ればよかったわー」
逆上せないように少し早めに上がってから、体を拭いてヘアオイルを塗ってその日は宿屋に帰りぐっすり眠った。ああ、こんな幸せが続くなら死んで良かったな。
前世の俺はロクな死に方じゃなかったらしいし、今回はもっと快適に生きれるよう頑張ろう。まずはQOLをガン上げするために金策のタレ開発をしようか。




