第15話 運動しちゃった
タレ騒動から数日、諸々の話し合いが終わった俺達はまた魔物討伐の日々に戻った。しかしこちらをじっと見ている姉と友人の二人の目が少し厳しいものになっている。俺なんかやったっけ?身に覚えがないんだけど、頭から爪先まで二人分のジト目で見られると少し恥ずかしい。
「お前はちっこいからなぁー、ちゃんと体を動かさないと大きくなれないぞ?」
「それにあれだけ食べてるんですもの。最近ぷっくりしてきてない?」
「うぅ⋯」
転生してから半月近くが経過したが、背負われて移動したりでこれと言った運動をしていないので、俺の体は同じ年齢の子供と比べても筋肉量が圧倒的に少ないらしい。更に元からぷにぷにだった俺の体は筋肉がほぼ無いせいで代謝が悪いのだ。食べれば食べた分だけ肉になってしまう。まぁ出されるものを無限に食べてしまう食欲も悪いのだが。
「大体お前は筋肉が足りてないんだよ、そこらの街のガキでもまだ動けるぞ」
「そ、それは生まれたばっかりだからだよ!」
「だったら尚更ちゃんと運動しなきゃ駄目よ。今日から日課でクリスと一緒に鍛錬しましょうか」
クリスとやったら死んでしまうんじゃないか?毎日、朝に腕立て腹筋スクワット懸垂を各1000回以上やってから、俺を背負ってクエストの依頼の場所まで走って往復してる化物だぞ⋯しかも帰ってきたらもうワンセット筋トレする。まぁティナもそれにある程度着いて行ける分同じくらい化物ではあるのだが。
「ヤダー!お姉ちゃんのたんれんはおかしいもん!」
「おうおう傷つくなぁ、お前を守るために鍛えてるんだぜー?」
「あたしは誰かを守ったりしないもん!」
「それでも私達に何かあった時に走って逃げれる体力はいるでしょ~?」
「うぅうぅ」
二人に何かあったときなど考えたくもないが、確かにいざという時何も出来ないのは問題だ。助けを呼びに行くことも出来ないのは忍びないしな。
「わかったよぉ、やる」
「おおー!お姉ちゃんがしっかり鍛えてやるからな!」
「そもそも妖精が体を鍛える必要があるのかも気になるしね⋯」
ティナが怪しいことを言ってるが太ってきているのは事実なのだ。このくらいの年齢だと運動より食事制限の方が効果的だとは思うが、どこに行っても何故か食べ物が出てくるし断るのも忍びない。いっちょやったりますか!
「よし、じゃあ始めるぞー。ティナは補助をしてやってくれ」
「わかったー」
「じゃあ準備運動からだな」
「どうするの?」
「あー、いつもは適当にジャンプしたり手足の筋を伸ばしたりしてるけど」
「じゃあ、こうしよう!」
俺は記憶の中にある夏休みの朝、よく聞いたアレを再生した。
『ラ◯オ体操第一!腕を前から上に上げて、大きく背伸びの運動から!』
「な、なんだこれ!?誰が喋ってるんだ!?」
「アリスちゃん何をしたの?」
「これはあたしの能力だよ!聞いたことがある音を流せるの!」
「それはなんともまぁ⋯面白そうだな」
「それよりやろう!」
ラジ◯体操は中々好評だったようで二人とも寝起きなのに血色が良くなっているな。
「これは暖まるなぁ、これから三人で毎朝やろう!」
「いいわね、これなら時間もかからないし頭がシャキッとするわ」
「うん!じゃあ、あたしは朝ごはんまでゆっくりしてるね」
「お前はこっちだ」
「あぁ!」
「手伝いが必要だったら言ってねー」
連行されてしまった⋯あのキチガイみたいな運動は流石に無理だ!いくら前世が男で子供と比べて根性があると言っても人並みなんだぞ。
「まぁそう構えるなよ。ちゃんとメニューは考えてあるからさ」
「ほ、ほんとぉ?」
「ああ。アリスにはまず縄跳びをやってもらう」
「そんなのでいいんだ、なんだぁ」
「30分な、15分で休憩していいから」
「えっ」
この姉やはり脳筋だった。縄跳びって結構運動量激しいんだぞ?たしか走るよりキツかったはずだ。
「も、もぉ⋯ハァ⋯無理ぃ⋯ハァ」
「まだ最初の15分だけだぞー?これから毎日やるんだから頑張れー」
「う、うぎぎ⋯ティナおみず⋯⋯」
「はい、運動中は飲みすぎないようにね。お腹がたぽんたぽんになると辛いわよ」
「ぐびぐびぐびぐ、え?」
忘れてた!妖精だからか魔法で出した水はやたらと美味しくて飲みすぎちゃうんだよ。
「あー、縄跳びは腹の水が辛いだろうしティナとボール投げでもしてろよ」
「いいの!?やったー!」
「あらぁそんなに私と遊べるのがうれしいの?」
「うん!」
いや違うが?地獄の縄跳びからただのキャッチボールになっただけでありがたいんだが?
「ゼヒ⋯もう⋯やめ⋯ヒィ⋯」
「まだまだ行くわよー、そーれ右、左」
「うわぁ」
この友人鬼畜すぎる、ボールを投げるだけだと思ってたのに、わざと左右に大きく移動しないと捕れない所へ投げやがる。さてはお主も脳筋村の出だな?っていうかマジでキツイ。投げ帰すのも億劫になってきて、捕ったボールを転がすように返しては、また泥のようにボールを追いかける負の連鎖が出来上がってしまっている。
「お、お腹が痛い⋯もう、無理ぃ」
「おー流石にぶっ倒れたか。じゃあ朝はここまでにしようか」
「可愛い子をいじ、鍛えてあげるって楽しいわねー」
今なんて言おうとした?普段そっけない態度取ってるからってやり返そうとか思ってないよなこいつ。しかしこれじゃ朝飯は食べれそうにないな、間違いなく吐く。後で干し肉でもかじらせてもらおう⋯これが太る原因か。そして半月後。
「少し身体つきが締まってきたんじゃない?お腹もぽっこりしてないしねぇ」
「ほんとう!?やったー!」
「ああ、最近は縄跳びとボール投げでも倒れることは無くなったしな」
祝、ダイエット成功!頑張った甲斐がありましたわー、これで好きな物を思う存分食える!まずは子熊亭の新メニューである焼肉食べ比べセットで色んなタレを味わってだな⋯。
「じゃあ明日から私と同じ一時間分やろうか」
「えっ」
「大丈夫大丈夫、ボールと縄跳びじゃ飽きるだろうし色々思いついたからさ!」
その後追加されたのは木剣での素振りと打ち合いだった。俺は妖精なんだが?




