第13話 作っちゃった
あれから一週間が経った。クリスの魔法の練習や、身体強化を使った動きを体に慣れさせるために近場の討伐依頼をこなす日々が続いたんだけど、余り俺と離れすぎると魔力の循環が途切れるみたいなので、毎日背負われて移動しながらギルドに通っていた。
「帰ってきたわよー」
「ただいまー!」
「三人ともおかえりなさい!今日はどうでした?」
「おー、今日はボアが数体と、依頼のゴブリンの巣を一つ潰してきたよ」
「立派になりましたねぇ⋯」
二人ともプレートを例の装置に差し込んで討伐証明を出して説明している。森や洞窟などの見通しが悪い場所だと音魔法の特定がぶっ刺さりまくりワロタ状態でやばかった。大凡100mの距離が丸裸になるので、隠れていても静かにしていてもバレバレである。しかも込める魔力を高めればより遠くにも飛ばせるらしく、さながらアクティブソナーのような使い方も出来る。さす姉。
「でしょ!お姉ちゃんすっごく強いんだよ!今日なんかいっぱいゴブリンがいたのにあっという間に倒しちゃった!」
「あのクリスがねぇ。女神様は苦労を見てくださっていたんだな」
冒険者ギルドマスターのドーラスさんもちょうど通りすがりながら感慨深く呟いて温かい目をしている。この人は俺の正体を知っている数少ない一人だ。討伐に堂々と着いていく幼女を不審に思って問い詰められた時に、流石にトップが知らないのは不味いだろうしその方が都合が良いだろうと他言無用でお願いしておいた。
「それではすぐに精算いたしますのであちらでお待ち下さいね」
「ああ、そうさせてもらうよ。二人ともいくぞー」
空いている併設の食事処兼待機所の隅にあるテーブルに着席すると、同じく精算待ちの冒険者たちが手に干し肉やらお菓子やら持って近づいてくる。最近俺の扱いが分かってきたなお前ら、話がしたければ食い物よこせ。
「おつかれさん、お前らもやるようになったなぁ!」
「まぁねぇー!ずっと面倒見てた甲斐があったってもんだわ!」
「面倒って⋯まぁそうだけど。今は私がアリスを見ながらやってんだから勘弁してくれよ」
クリスの膝に乗っている俺は、頬ずりされながら差し出された肉にお菓子に舌鼓を打っている。嬉しいけど食べづらいからやめてくれないか?舌を噛んだらどうする。
「それよりクリスの強さはどうなってんだよ?遠くから見てたけど、あの強度の身体強化を使って現地まで走りっぱなしで戦闘までこなすんだろ?」
「それは今までの鍛錬と、ついてくれた妖精様の賜物だね」
そう言いながらクリスが頭を撫で回してくる。だから舌を噛むからやめろって!
「それにしてもアリスちゃんはくぁわいいな~。どう?俺達と一緒に冒険に行かないか?」
「ヤダ」
「そう言わずにさぁお肉も好きなだけ食べさせるよ~?」
「お姉ちゃん達と一緒じゃなきゃヤダ」
「愛されてんなぁ」
「こんないい子どこで拾ったんだよ⋯そこに行けばワンチャンあるか?」
飯をくれても簡単には靡かんぞ。そもそも妖精としてのお仕事があるからな!恐らく俺とクリスは一蓮托生な関係になってしまったのだろう、ここ最近は半径1mから離れることすら珍しいくらいになっている。
「お前らにゃ私が死んでもアリスは渡さないぞ⋯お、そろそろ私達の番みたいだな」
「それじゃそろそろ行くわね」
「みんなまたねー」
報酬を受け取ってギルドから出た。明日は休みだ、何をしようか?異世界の人達は基本的に週休0日が当たり前で、店が休み=仕入れに行っているor問題があったなので闇が深い。それはそれとして俺がそのルーチンに組み込まれるのは中々に辛い。背負われるのが基本ムーブとはいえ疲労は溜まるのだ。
「明日はどうすっかねぇー、今までは毎日鍛錬と護衛とか雑魚狩りばっかりしてたから何していいかわからないよ」
「私も⋯アリスちゃんのためとはいえ困ったわね」
俺は明日何をするか既に決めている。ここで生きていく上で再重要案件でありライフラインに直結する案件がある。それは⋯
「明日はお料理しよう!」
「料理?なんでそんなめんどうなことするんだよ」
「ご飯に不満でもあったの?」
この世界はダンジョンから色んな物が出てくるお陰で前世にもあった醤油や味噌(!)、胡椒に塩砂糖などの調味料が割と手軽に手に入る。手に入るのだが⋯使い方がヘタクソなのだ!
ほとんどの料理方法がかけて焼く、塗って焼く、一緒に煮込むのが一般的で細緻に溢れた味というものが存在しない。まぁ今並べた調味料ならだいたいそれで正解なんだけど、地球育ちの記憶がある俺には不満がある。
「もうしょっぱいだけのお味は飽きたの!」
「そう言ってもそれでパンを食うからいいじゃないか」
「詳しいレシピもシェフから買ったり弟子入りしたりで一般には出回らないしね~」
「だいじょーぶ!あたしにいい考えがある!」
「少し不安になるな⋯」
その日の晩飯は肉団子入り野菜スープにパンだった。味付けは塩と胡椒だ⋯⋯こんなのばっかりだもんなぁ。そして次の休みの日、俺達は宿屋の厨房を借りてあらかじめ買ってあった材料を広げて眺めている。
「それじゃあはじめます」
「何でも良いけど火を使うなら私かティナに言えよ?」
「そこにいる店主のおじさんでもいいけど危ないからね~」
今日は保護者同伴での簡単クッキング~いえードンパフ。さーてまず始めに取り出すのは、ニンニクと生姜。これをおろし金で擦って擦ってペーストにしてー、そこへ砂糖と醤油と蜂蜜と味醂⋯はないからワインでいいや。あとは白ゴマと唐辛子を細かく砕いたものを入れて。
「これでよし。あとはこれを少し焼いて!お酒が無くなるくらいでいいよ!あとついでにお肉も焼いて!」
「なんでそんなに手際が良いんだよ⋯実は有名な料理人だったりするのか?」
「まぁまぁまぁお料理が出来たのね!じゃあお肉は私が担当するわね」
合わせた材料から少し水気が飛び、肉もいい感じに焼き上がった。これこれ、この匂いだよ⋯日本人なら誰もが口にしたことがあるだろうこの調味料。その名も!
「完成!焼肉のタレ~!」
「タレ?ソースみたいなものか、いい匂いするなぁ~」
「これはお腹が空くわねー!さっそく味見しましょう。お肉に付けて食べればいいのね?」
んまーい!この甘みと辛さ、そして香ばしさが渾然一体となったニクらしい味!(激ウマギャグ) やはり焼肉と言ったらこれだろ。市販品と比べると少し物足りないけど手作り感で十分カバー出来る。あぁ米が欲しい⋯ダンジョンから出ないのだろうか、これは要チェックだな。
「おいしい!おいしい!」
「こりゃ美味いなぁ!ちょっと辛いけどそれが酒に合いそうだ!見てたけど、どれも保存が効く物だったよな!?持ち歩けると飯が楽しみになるな!」
「ん~、つくってから一週間くらいだったかなぁ?冷たい所なら大丈夫だよ」
「マジか!おいティナ、氷で保存して持ち運ぼうぜ」
「確かにこれなら休みの日に作り溜めしといていいかも!こんな美味しい物が作れるなんて天使ちゃんねぇ~」
あんまり褒めるのはやめてくれ、俺はたまたまレシピを知っていただけで自分が食いたいものを再現しただけだしな。それより離れたところですごい物欲しそうに見ている人がいるんだが。
「あ、あのう⋯それを一口、いや、一舐めだけでいいので譲ってくれませんか!?」
「あー悪い悪い忘れてたわ。あんまり簡単に作れたもんで」
「それじゃ追加でお肉を焼くから皆でご飯にしましょうか」
その日は急遽焼肉パーティーが開催されてしまった。外にもタレの香ばしい匂いが広がっていったらしく、やれそれは何だ食わせろと客が押しかけてきて大変な思いをした。
俺は地べたに座り込んでひたすら生姜とニンニクを擦る作業、クリスはそれを受け取って残りの材料と混ぜ合わせフライパンで酒気を飛ばす。ティナも肉を焼くだけの奴隷と化していた。店主は店主で、付け合せの調理や配膳でてんてこ舞いだった⋯。バイト代は貰った。
迂闊に知識チートすると駄目だな。まぁ俺が欲しい物を作り出しただけで、市場を荒らしてるわけじゃないから小出しにしていくか。そんな事を考えつつその日は眠りについた。タレで肉をたっぷり食べて満足した次の日の朝。
「お願いがあります!」
「「「はい?」」」
「あのヤキニクノタレのレシピを売っていただけないでしょうか!」
宿屋の店主が綺麗なDOGEZAを決めていた。こっちでも土下座するんだぁ誰が流行らせたんだよ。
「えぇー、あたしが食べたかっただけだよ?」
「それでも!あの味は肉を焼いて食べるなら全員が美味いというポテンシャルがあります!どうか!どうか!」
「あははは!確かに美味かったけどそこまでか!どうするアリス?お前が作ったもんだし自分で決めていいんだよ?」
「そうね、私達も火を通すくらいしかお手伝いしなかったしねー」
あーどうすっかなぁ、こっちは焼肉を食いたかっただけなんだよなー。まぁ発明したわけじゃないし少なめの値段でも良いんだけど⋯あ、そうだ。良いこと思いついた。
「それじゃあねー、お願いがあります!」
「お、お願い?いいでしょう!金貨なら即金で30枚お出し出来ます!」
随分と金持ちだなこのオッサン。いや、宿屋って水か火属性で強くないと出来ないんだっけ?自分で獲って来れるから肉の仕入れとか料理のコストが下げれるなら儲けもするか。
「お金はほしいですがレシピをあげるだけだと、どっちももったいないでしょ?」
「では、そのお願いとは一体⋯」
「一緒に商売をしましょう!」
知識チートはしないと言ったな?あれは嘘だ。




