第12話 試しちゃった
「頼もーぅ!」
「もーう!」
「おはようございます、クリスさん、アリスちゃん」
道中で買ってもらったロリポップを舐めながらギルドの受付に突撃して、ニナさんに声を掛ける。
「おはようございます!」
「いいお返事ね、100点!」
「おはよう!早速だけど報酬の受け取りと、模擬戦すっから修練場の枠を頼むよ」
「はい、討伐分の計算も出来てますのでこちらをどうぞ。お相手はどうします?」
「そこの依頼を取りそこねてあぶれた奴らでいいさ」
「いつものですね⋯はい、ではあちらへお願いします」
促された方向には少し小さめの運動場みたいな場所が広がっていた。冒険者たちはここで先輩の胸を借りたりして切磋琢磨するのだろうか。木人や射的に使うような的もあるし、訓練風景を見てるだけでも楽しそうだねぇ。
「いつものってなにー?」
「私は魔法が使えなかったからその分努力しなけりゃいけなかっただろー?その一つがこれで、暇してる連中に喧嘩吹っ掛けて、身体強化無しで打ち合いとかやってたんだよ。まぁ、今日はちょっと違うがな⋯」
なるほど、クリスは本当に偉いなぁ。強くなるために何でもしてる感じというかストイックってのを地で行ってるね。
「じゃあ今日は魔法を使ってやるの?さっき契約したばっかだよ?」
「大丈夫さ、既にある程度は使い方が分かった。お前は見守っててくれ」
「うん、頑張ってねお姉ちゃん」
抱き締められて手櫛で髪をくしくし梳かれる。あぁ~気持ちええ⋯姉検定3級に認定しよう。
「いつまでイチャついてんだクリスちゃんよぉ!?こっちも暇じゃねーんだけどなぁ!!」
「いや、暇じゃなかったらあそこで項垂れてないだろ」
「危ないからアリスちゃんは私と一緒に見学しましょうね」
数人の男を連れてきたニナさんに手を引かれて、修練場の中央から離れて石で出来た椅子に座る。あの不機嫌そうな男が一番手で名前はガンドルフと言うらしい。
「魔法無しの模擬戦で勝ってるからってチョーシこいてんじゃねえぞ!実戦じゃ最低でも身体強化が出来ねえと話になんねえんだからな!?」
「ああ、それは私が一番分かってる。今日は我慢しなくていいから全力でかかってきな!身体強化!!」
クリスは体から魔力を放出させて、垂れ流しだったそれを練り込むように体に押し留めていく。あれが身体強化か、前は背負われてたからよく見えなかったんだよな。
「なっ⋯⋯お前いつの間に!?そっそれにその魔力量、どうなってやがんだ!」
「なあに、私にもついに妖精が来てくれたってだけさ。それに守るものがある強さっていうのを知った」
クリスが俺に向かってウインクしてきた。おねーちゃんがんばぇーとか適当に応援してあげるとガッツポーズで応えてくれる。姉なのかイケメンなのかどっちかにしろ。
「フン、だがまだ無駄が多いな。格の違いってやつを教えてやるぁぁぁー!!」
「よっと」
「ぁぁぁああ!?」
「キャー、オネエチャンカッコイー!」
木剣を振り上げて突進してきたガンドルフの一撃を半身で避けてから、胸に手を当ててそのまま押し出すように吹き飛ばした。人間の膂力じゃねえぞあれ、しかも全然本気に見えなかった。
「すごい!すごいです!アリスちゃん、クリスさんっていつ妖精がついてくれたの?」
「え、あー、さっき?」
しどろもどろになりつつ教えると、俺の周りに集まっていた男連中がざわついて焦りを見せ始める。
「覚えたばかりであの練度だっていうのか、こりゃウチのパーティーに入れるしかねえな」
「待て待てクリスには前から目をつけてたんだ、こっちが貰う」
「それより次、誰が行くんだよ。最低限いい戦いしなきゃ入ってくれても俺らが格下扱いだぞ」
鼻が高い。異世界よ、これが俺の姉だ。(ふんぞり) 自分でチート無双するよりこっちの方がいいかも知れないな。一戦毎に動きが最適化されていくクリスは実に楽しそうだし、なにかが吹っ切れたように笑いながらいい汗をかいていて綺麗だ。急に始まった勧誘合戦と言う名の組手はクリスの全戦全勝で終わり、その全てを断って俺達は宿屋に戻って来た。
「おかえり~、どうだった?」
「身体強化アリで全員ブチのめして来たよ」
「あの人たちかわいそうだった」
最後辺りは、合気道の達人の勢いで襲いかかってくる連中をちぎっては投げちぎっては投げしていたのだ。お相手さんは途中からヤケクソみたいだったし逆に格の違いを見せつけれたな。
「それは見てみたかったわー、お姉ちゃん強かった?」
「すごかった!こう、シュバッシュバッて」
「ああ、堪能してきたよ。一応他の生活魔法も使えるか試さないとね」
「一通り出来るならこっちの負担が減るからすぐやりましょー」
そして検証が始まった。身体強化は既に使えたからよし。収納は俺の魔力量が原因なのか所持数と容量、どちらもかなり多かった。洗浄も問題なかったし、俺が知らなかった照明と時感知も使えたので驚いた。ちなみにそれぞれ蛍光灯レベルの明かりと時計の機能だ。
「後は妖精の属性依存の魔法ね⋯アリスちゃん、音魔法って書いてたけど何が出来るの?」
ふむ、ここで俺の出番か。使えそうなのは契約時に頭へ流れ込んできているが、俺に聞くより先駆者に教えてもらったほうが早いのでは?なんせこちとら妖精歴0日のぺーぺーでして。
「んーいくつかあるけど他の人は知らないの?」
「私が知ってる限り音魔法自体が初耳なのよー。教会でも火水土風の四属性の使い手しか見たことがないし?多分あなた以外に居ないと思うわ」
なんと。俺はレア妖精だったらしい。まぁ体がデカかったりして普通の幼女とほぼ変わらないんだが、これはノールジュがいらんことしたせいだな。なんせ元人間ですし。
「そいつはいいな、贅沢を言えば汎用性が高い土か殺傷力が高い風がよかったんだけど、アリスが珍しい妖精だって言うなら面白そうだ!」
「そうねー私もすごく興味があるわ。じゃあ今ここで使えそうな魔法を教えてくれる?」
非殺傷系の魔法はこれと、これか。
「んー、特定と音爆弾かな?Lv1の魔法だし詠唱はいらないみたいだよ」
「聞いたことがない魔法ね⋯クリス、やってみて」
「おう。特定!ってなんだこりゃ!?壁の向こうが透けて見える!」
特定は魔力を乗せた音波を飛ばして帰ってきた反響で周囲の状況を把握する魔法だ。使い続ければ透視しっぱなしで行動できるらしい。
「おおおおコレは便利だなぁ、割と遠くまで手に取るように分かる」
「へぇー、索敵系の魔法かぁ。私達はそういうの持ってなかったから使い勝手良さそうね~」
「そんじゃお次は、音爆弾!」
バァンッ!
「「「ぎゃあっ!」」」
突然目の前で爆発音がした。説明する前に使われてしまった。音爆弾は非殺傷とは言うが、指定した場所に込めた魔力の量で音の大きさが変わる爆弾を設置する対鳥獣用の魔法なのだ。今のは指先に集中して発動したので即爆発した。耳が⋯⋯
「なになに!?暴発でもしたの!?」
「い、今のが音爆弾だよ⋯⋯」
「なんて音だ⋯ティナのビンタ並の衝撃だった」
とりあえずこんなところか、他の魔法は危険なので実戦で試すしか無いな。後はティナが何の用で教会に行っていたのか気になるから聞いてみるか。
「そういえばティナはなにしにいってたの?」
「ちょっと念入りに釘を差しにね。ついでに記録も消してきたの。そのことについてアリスちゃんにお話があるわ」
「なんのおはなし?」
「⋯正直に言うわね。私達は最初、あなたを流入者として教会に引き渡すつもりだった。お金に困ってたのもあるし、二人じゃ面倒を見れるかも分からなかったから」
「そ、そんな!でも、あんなに優しくしてくれたのに」
「それはな、家族ならステータスチェックの費用がタダになるからなんだよ」
今までは演技だったっていうのか。いかん、泣きたくなってきた。このまま二人を信じていいのか。俺はどうなるんだ?このままじゃ孤児院行きで普通の人としては暮らせない。逃げたとしても誰かに拐われてしまうかもしれない。
「そう、だったんだ」
「でもね?ここ数日でアリスちゃんがとってもいい子だって分かった。言うことはよく聞くし、危ないこともしない」
「それに私の妖精になってくれたしな。お前には感謝してるぜ?これで人並みに生きられる」
「おかげで私とクリスの稼ぎでもあなた一人を食べさせるくらいは問題なくなったわ。前は私が教会の少し面倒な仕事をして食いつないでたから」
「ああ、そのことについては謝る。だがこれからの私は違うぜ?ガンガン稼いでティナの分も楽させてやるよ!」
ここでお別れじゃないのか?
「あたしは⋯ここにいてもいいの?」
「当たり前だろ!じゃなきゃこんな話せずに売るかそこらに置いてってるよ」
「少なくとも私達はあなたと一緒に居たい。それにね?女神の誓約はお互いが心から信頼してる人同士じゃないと成立しないの」
「じゃあ、じゃあ!」
「だから、その、改めて⋯これからもよろしくな!」
「⋯!うん!よろしくね、お姉ちゃんたち!」
良かった。これで本当の家族になれた気がする。家族か⋯全然覚えてないけど前世の俺はそんなに家族愛ってものに恵まれてなかったような気もする。今世は幸せになりたいな。せめて殺されて終わりにはならないくらいに。
「あと、さっきの教会の人は人質を取って脅しておいたから大丈夫だからね」
やっぱ逆らってはいけない。




