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「ガヤオさん! ガヤオさん、起きてッス!」
カルナディアの勇者ガヤオは宿屋のベッドで眠っていたところを、仲間の半獣人ネココに揺り起こされた。
「んー、何だよ?」
「大変ッス!」
「はー? もしかして、魔王軍が攻めてきたのか!?」
ガヤオが慌てる。
「違うッス。ガヤオさんのお嫁さん募集に、3人も応募があったッスよ!」
「ななな、何ー!」
一気に眼が覚めた。
「ホ、ホントか!?」
「本当ッス! 今、3人とも持たせてるッスよ! 1人ずつ話してみるッス!」
「ええーっ、今!?」
いざとなると震えてきた。
「ほらほら! 早く着替えるッス!」
ガヤオはネココにパジャマを脱がされた。
パンイチ状態だ。
「お洒落するッスよ!」
「おおお、お洒落!? 俺、勇者の服しか持ってない!」
「仕方ないッスね、いつもの格好でお見合いするしかないッス」
「あわわ、あわわ!」
分かりやすくパニクったガヤオは、ネココに勇者服を着せられ、歯を磨いてもらった。
「剣と盾も忘れてないッスね?」
「ああ。ど、どうしよう! 俺、お見合いなんて初めてだから、何を喋ればいいのか分かんない!」
「今さら付け焼き刃は無理ッスね。素のガヤオさんを見てもらうッスよ!」
「そ、そうか…そうだな!」
「あと、見た目が猿っぽい人は居ないッスからね! 贅沢言ったらダメッスよ!」
「あのな! 俺のタイプは桃太郎の猿じゃない! それにそもそも、あいつは俺の嫁じゃないだろ!」
揉めながら、2人は宿屋の外に転がり出た。
20代半ば、グラディエーター風の筋骨隆々な大柄女性が待っている。
「1人目のムッキータさんッス!」
「ムム、ムッキータさん!?」
マッスルポーズでシックスパックの腹筋を見せつけるムッキータに、ガヤオは眼を白黒させた。
「おい! これ、やっぱり格闘技大会と勘違いしてないか!?」
「勇者殿! 相手にとって不足なし!」
ムッキータが太い両腕を挙げ、ファイティングポーズを取る。
「ほら、見ろ! 彼女、戦う気満々だぞ!」
「頑張るッス!」
ラウンド1!
カーン!
「おりゃぁぁぁー!」
「わー!」
ムッキータの怒涛の拳打を、ガヤオはスモールシールドで防いだ。
「やるわね、勇者殿!」
「褒められてるッスよ、ガヤオさん! 褒め返すッス!」
「どわー! そんな余裕ない!」
「まさか、あたしに、この奥義を使わせるとはね!」
ムッキータが両腕を広げ、全身からオーラを昇らせた。
「くらえ! 爆殺ムッキー拳!」
「ぎゃわー! 『殺』とか入ってる技はダメだろ! おお!?」
ムッキータの必殺技を受けたと思いきや、ガヤオの身体はすでに半透明になり、当たり判定が無かった。
そして、全身をミョーン感覚が走っている。
「な!? あたしの爆殺ムッキー拳が効かない!?」
ショックを受けたムッキータが、ガクッと片膝を突く。
そこでガヤオの周りの景色が変わった。
眼の前に、ピンクの忍者装束を着た10代後半の、かわいい娘が立っている。
「やったー! 助っ人呼び出しの術、成功ー!」
彼女が大喜びした。
「アタシ、くのいちの桜! よろしくね!」
桜が右手を差し出す。
「俺はガヤオ。カルナディアの勇者だ」
危うくムッキータの必殺技を逃れたガヤオは、まだハラハラしている気持ちを落ち着かせつつ、ピンクくのいちと握手した。
「これから、あのお城に忍び込んで巻物を盗ってくるの。それがアタシの中忍昇格試験よ」
桜が背後に見える和風の城を指した。
「そ、そうか」
よくは分からないが、とりあえず頷いた。
今回はあまり早く帰ると、またムッキータと戦わされるかもしれないので出来るだけ、ゆっくりしたい。




