表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/108

ペルシャ湾沿岸――

焦げるような陽射しと風に舞う砂のなか、艦艇部隊の警戒通信は断続的に鳴り響いていた。


「293隻の戦闘部隊艦艇を有する我がアメリカ海軍は、世界最強の艦隊であり、現代の無敵艦隊だ」


統合参謀本部の海軍大将がモニター越しに吐き捨てるように言った。


「だが、我々が警戒しなければならないのは敵の潜水艦や航空機ではない。最も恐るべきは機雷攻撃だ」


参謀席の別の将校が頷く。


「第2次世界大戦後の戦史を見ても、50年の朝鮮戦争では10隻、65年のベトナム戦争で1隻、91年の湾岸戦争で2隻が機雷によって失われています」


「機雷の基本構造は200年前からほとんど変わらない。ハードケースに爆薬、信管、設置具――これだけだ。陸上地雷の海中版とも言える。単純で安価、だからこそ厄介だ」


指揮所内の大型スクリーンには、フリーゲート艦「サミエル・ロバーツ」が触雷した瞬間の映像が再生されていた。爆発の衝撃で船体が跳ね上がり、吃水線下に巨大な破孔が開いていた。


「イラン製の旧式係維式機雷、SADAF-02です。磁気センサーではなく、接触型。値段はおよそ2000ドル」


「その安物が9000万ドルの艦を機能停止に追い込んだわけか……」


「湾岸入口で2隻のフリーゲート艦が触雷。沈没は免れたが、両艦とも大破。航行不能です。上陸作戦への支障は避けられません」


「加えて、この海域にはロシア製の沈底感応式機雷UDM-Eの存在も示唆されています。あれは645キロの炸薬を搭載しており、巡洋艦でも一撃で切断される」


次に映し出されたのは、ドックに上架された強襲揚陸艦「トリポリ」の艦首部。


15メートル四方の鋼鉄外板が、まるで花弁のように内側へとめくれ上がっていた。破孔からは艦の竜骨が骨のように露出し、何かの大型機器の破片、ねじ曲がったギアと配管、垂れ下がる配線、どす黒いオイルが血液のように床へと滴り落ちていた。


「日本の海上自衛隊による掃海支援が不可欠です」


「だが、極めて危険な海域だ」


幕僚の一人が地図を指差す。


「現地で使用できる陸上基地の確保が各国の非協力により困難です。現在、強襲揚陸艦3隻を母艦とし、掃海任務を遂行していますが、これでは専用掃海艦と比較して機動力・効率共に不十分」


作戦室に沈黙が広がった。敵の高性能な艦艇や戦闘機よりも、泥に沈んだ一発の機雷のほうが、遥かに恐ろしく、予測不能なのだ。


「安物の機雷が世界最強艦隊の喉元を掴むとはな」


その場にいた全員が、苦い沈黙の中、現代戦の皮肉を噛み締めていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ