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青嵐2030 第二章「電磁の霧中 - 初動と電子の戦い」


午前5時25分、電磁波の嵐は南西諸島上空を急速に覆いつくしていた。那覇基地の管制塔では、レーダースクリーンがノイズにまみれ、通信は断続的に途切れ、混乱の極みにあった。

「方位270、距離10マイルのF-15!応答せよ!」管制官が叫ぶが、無線からは砂嵐のような雑音しか返ってこない。通常であれば瞬時に識別されるはずの味方機も、IFF(敵味方識別装置)が機能不全に陥り、ただの光点としてしか認識できなかった。

統合幕僚監部。空将補・佐久間彰は、苛立ちを押し殺しながら、航空総隊司令部(三沢基地サブリンク含む)への指示を繰り返していた。「電子戦態勢Bに移行せよ! 全周波数帯域で対抗策を実施、妨害波の特定を急げ!」

佐久間の指示は、すでに各方面に伝達されていた。電子戦――それは、現代戦において、目に見えないが最も重要な戦場の一つだ。電磁波を制する者が、戦場を制する。中国軍は、そのセオリーを完璧に実行に移してきた。

日本のほぼ中央に位置する浜松基地。その広大な滑走路を、特異な形状の航空機が離陸許可を待っていた。川崎C-2輸送機をベースに開発された、電子戦支援機EC-2である。機体後部には巨大なレドームと多数のアンテナが張り巡らされ、その姿はまるで未来の怪鳥のようだった。

「浜松タワー、エンジェル1、テイクオフクリア!」

管制官の声と共に、EC-2は重々しいエンジン音を響かせ、滑走路を加速していく。機内は、電子戦担当官たちの緊迫した声で満たされていた。数十台のモニターには、無数のグラフ、波形、そしてデータが目まぐるしく表示されている。

「敵ジャミング波形、特定急げ! 周波数ホッピングを確認!」

「我々のECM(電子妨害装置)を最大出力。ターゲットは広域妨害波だ!」

彼らの任務は、敵の電磁波攻撃を解析し、その妨害を無効化する「見えざる壁」を築くことだ。EC-2の電子戦担当官たちは、膨大なデータと格闘しながら、まるでパズルを解くかのように、敵のジャミングパターンを解読していく。彼らの専門的な知識と長年の経験が、この見えない戦いを左右する生命線となっていた。機体の揺れも気にせず、彼らはコンソールに食い入るように集中していた。

一方、遥か北、三沢基地から飛び立った4機のF-35Aは、静かに南下を続けていた。その中には、新城悠の搭乗する「ナイトホーク11」も含まれる。電子戦の嵐が吹き荒れる中、F-35Aの真骨頂が発揮されつつあった。

「隊長、ノイズレベルが上がっています。敵のジャミングが相当強い」新城が報告する。

「ああ、だが我々のステルス性は健在だ。彼らには我々が見えない」編隊長の冷静な声が返ってくる。

F-35Aは、その高度なステルス性能により、敵のレーダー波をほとんど反射しない。加えて、内蔵された高性能センサーとECMシステムは、敵の妨害波を逆手に取り、状況を把握することを可能にする。新城は、電磁波の妨害が、むしろ自機のステルス性能をさらに際立たせていることを実感した。HUDには、断片的ではあるが敵のジャミング源の方向が示され、彼の周りを覆う電磁波の海の中で、まるで隠密行動を取っているかのような感覚に陥った。

「沖縄方面へ増援転進。低空を維持しろ」編隊長が指示する。新城たちは、沖縄本島を目指し、速度を上げて南へ針路を取った。

その頃、那覇基地上空では、速水健吾率いるF-15J改編隊が、視界の悪い中で索敵を続けていた。無線は途切れがちで、管制塔からの正確な指示は望めない。頼りになるのは、自機のレーダーと、長年の訓練で培われた感覚だけだった。

「隊長、レーダーに反応あり! 複数、低速、方位280!」後席のWSO(兵装システム士官)が叫ぶ。

速水は即座に機体を旋回させ、レーダーが捉えた反応に集中する。それは、紛れもない敵性反応だった。

「WL-10だ。あのUCAVどもめ!」速水は憎々しげに呟いた。IFFは相変わらず機能不全。しかし、その機影と軌道は、先ほどのブリーフィングで示されたWL-10型UCAVの特徴と完全に一致していた。

「交戦規定クリア! AIM-9X、ロックオン!」WSOの声が響く。

速水は躊躇なくトリガーを引いた。F-15J改の翼下から、熱を追尾する短射程空対空ミサイル、AIM-9Xが火を噴き、夜空を切り裂いてUCAVへと向かっていく。

午前6時03分、尖閣諸島南東の空域に、新たな脅威が出現した。

「注意! 中国空軍J-16戦闘爆撃機編隊、捕捉!」

沖縄上空を監視していたE-767早期警戒管制機(AWACS)のクルーが叫んだ。AWACSは、電子妨害下での対応モードへと移行しており、限られた情報の中でも、その強力なレーダーで広大な空域を監視し続けていた。画面には、複数のJ-16が、まるで空の壁のように迫ってくる様子が映し出されている。

「那覇のF-15Jに警告! J-16編隊が接近中!」AWACSの管制官が、ノイズ混じりの無線で必死に呼びかける。

速水健吾のF-15J改編隊は、既にWL-10型UCAVとの交戦を終えていた。ミサイルの発射音と、UCAVが爆発する閃光が、まだ彼の網膜に焼き付いている。しかし、新たな脅威の報告に、速水は即座に対応した。

「全機、AIM-120Dによる牽制配置につけ! 距離を取ってミサイルレンジ外からロックオンしろ!」

F-15J改の機首が、J-16編隊の方向へと向けられる。AIM-120Dは、視程外射程の空対空ミサイルであり、その射程の長さは敵への牽制には十分だった。しかし、この牽制が本物の空戦へと移行する可能性は極めて高い。

その時、米海兵隊F-35B(普天間所属)2機が、速水たちの編隊に合流した。米海兵隊のパイロットが、慣れた様子で無線で呼びかけてくる。

「イーグルワン、マリンフォックスツー。我々がバックアップする。共同で制圧するぞ!」

日米の連携が、限定的ではあるものの開始されたのだ。**Joint Tactical Network(JTNT)**はまだ完全に機能しているわけではなかったが、無線と目視による連携は可能だった。

そして、航空自衛隊全体に、一つの指令が下された。

「全機、**『戦技モード』**に移行! 対中国戦想定の即応戦術を適用せよ!」

それは、単なるスクランブルではない。防空任務から、明確な交戦と制空権の確保を目指すための、戦術的な移行命令だった。パイロットたちの心に緊張が走る。だが、その緊張の中にも、長年の訓練で培われた自信と、祖国の空を守るという覚悟が、静かに宿っていた。

南西の空に、激しい戦いの序曲が鳴り響き始めていた。電磁の霧が濃くなる中、見えない敵と、見えない妨害との戦いが、本格化しようとしていた。


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