絶海の要塞
大西洋は、太陽の光を受けて鈍く輝いていた。その広大な海原の中央に、人類の知と技術の粋を集めたかのような巨大な浮遊体が静かに鎮座している。それは、もはや「艦隊」と呼ぶにはあまりにも巨大で、むしろ洋上に浮かぶ移動都市と表現するのが相応しい。国防長官の言う「シーベース」が、今、ここに具現化されつつあった。
マホガニーの重厚な机を囲んで座る面々の前に、プロジェクターが煌々と光を放ち、最新鋭の海上基地の三次元ホログラムを映し出す。中央に威容を放つは、最新鋭の原子力空母「ヘラクレス」。その甲板には、F-35JFS統合打撃戦闘機がずらりと並び、V-22ティルトローター機が特徴的なローターを折りたたんで待機している。その周囲を囲むように、イージス艦が何隻も配置され、あたかも空母を守る堅固な盾のようだった。
「我が海軍は、実質上旧ソ連の崩壊により、海洋では無敵の海軍となった。この力をベースに、海から陸地への力の投射、シーストライクパワーをより一層強化していく必要がある。」
国防長官の声が、会議室に響き渡る。その言葉には、揺るぎない自信と、未来への明確なビジョンが込められていた。
「具体的には、独立遠征能力を備えた、海軍、海兵隊統合作戦部隊を造成し、これらの戦力によって海上基地化、シーベーシングを実現する。これにより、たとえ戦域に近い外国領土に基地が確保できなくても、任意に海上基地を造り、作戦を持続的に実施可能となる。」
プロジェクターの映像が切り替わり、今度は揚陸艦艇と戦闘艦艇からなる「遠征打撃群(ESG)」、そして兵員、装備、物資を満載した大型輸送艦や遠征艦艇からなる「海上事前集積群(MPG)」が、それぞれシーベースに合流するシミュレーションが映し出される。それらが一体となることで、洋上に巨大な軍事拠点が形成されるのだ。
大統領首席補佐官が身を乗り出した。
「もう少し具体的に説明をしてもらえないか。」
国防長官は頷き、続けた。
「実際にシーベースを構成するのは、空母やイージス艦を核とする空母打撃群(CSG)、海兵隊を積んだ揚陸艦艇と戦闘艦艇からなる遠征打撃群(ESG)、そして軍事作戦を支援、維持する兵員、装備、物資を満載した大型輸送艦や遠征艦艇からなる海上事前集積群(MPG)です。主としてこれら三種の機能艦艇が任務に応じて複数洋上に集結し、海上基地を構成することとなります。」
国家安全保障問題担当大統領補佐官が、補足するように口を開いた。
「補足させていただきます。海上からの攻撃を実際に担う兵器も開発配備しております。例えば、空母に搭載をする統合打撃戦闘機(F-35JFS)あるいはV-22ティルトローター機。また、新型の強襲揚陸艦(LHA)や新型貨物弾薬補給艦(T-AKE)などです。」
F-35JFSの映像が、模擬的な敵地上基地を精密爆撃する様子を映し出す。V-22は、海兵隊員を乗せて迅速に展開し、敵対勢力を制圧していく。新型強襲揚陸艦からはホバークラフトが発進し、海岸に兵員と物資を揚陸する。その光景は、まさに「力の投射」という言葉を体現していた。
統合参謀本部議長が、それまでの攻撃的な話から一転、防御に焦点を当てる。
「今までのお話は主として攻撃能力に関するものでしたが、進出した部隊を防御する能力、シーシールドについても触れさせていただきます。言うまでもなく、海上に建設された基地は艦隊の集合体です。つまり艦隊防空能力の向上ということになろうかと思います。今や艦隊の脅威は、攻撃機が搭載する対艦ミサイルや航空爆弾だけではなく、海面すれすれをマッハ三クラスで飛翔する超音速巡航ミサイル、ステルス攻撃兵器、誘導爆弾など、多彩にわたっています。いずれも探知が難しく、その飛翔速度も亜音速から超音速へと移っているため、迎撃の対処時間はますます短くなっています。」
会議室の空気が、一気に引き締まった。攻撃能力がどれほど優れていようとも、防御がなければ脆弱である。
大統領次席補佐官が、やや懐疑的な表情で問いかけた。
「実際アメリカ以外の国の軍隊でそのような高性能な兵器を所有しているところが実際にあるのかね。」
統合参謀本部議長は、はっきりと答えた。
「すでにロシアでは、トマホーク級を超えた巡航ミサイルが開発されております。高射砲で撃墜可能な亜音速のトマホークと違い、マッハ3前後のスピードを誇るシースキミング型の超音速巡航ミサイルで、従来型の対空ミサイルでは迎撃困難と見られています。また、欧州においても、現在『ナブル』と呼ばれる同クラスの巡航ミサイルが開発中です。」
マッハ3。その数字は、通常の常識をはるかに超える速度だ。対処時間が短いという言葉が、重く響く。
大統領特別補佐官が、危機感を募らせた表情で尋ねる。
「対空防衛能力の向上のため、どのような努力をしているのかね。」
統合参謀本部議長は、自信に満ちた口調で応じた。
「はい。最も力を入れているのは、艦隊防空ミサイルシステムの能力向上です。ただ、全くゼロベースでの開発は期間、資金ともに現実的ではありませんので、スタンダードミサイルSM-2をベースに、AIM-120 AMRAAMの弾頭部のアクティブレーダー技術を併用し、二段式ミサイルにすることにより、射程を80キロから倍の160キロまでのばすことに成功しました。ロケットモーターの尾部ノズルが可動するため、その機動性と運動能力は非常に優れたものとなっており、高速で飛翔する対艦ミサイルを十分に撃破できる能力を獲得しております。」
SM-2をベースに、現存する技術を組み合わせることで、新兵器の脅威に対抗する。その説明に、会議室の誰もが安堵の息を漏らした。だが、統合参謀本部議長の脳裏には、まだ見ぬ脅威、予測不可能な未来の戦場がちらついていた。
シーベースは、確かに未来の戦争のあり方を変える。しかし、その「無敵」の称号が、いつまでも続く保証はどこにもない。常に進化し続ける脅威に対し、技術と戦略で優位を保ち続けること。それが、彼らに課せられた永遠の課題なのだ。
窓の外では、太陽がさらに高く昇り、大西洋の青が深みを増していた。絶海の要塞は、今日も静かに、そして力強く、その存在感を示している。しかし、その静寂の裏には、飽くなき技術の探求と、絶え間ない防衛努力が横たわっているのだった。
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