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夜明けの出撃 F-16のプリフライトチェック


夜明け前の静寂を破るサイレンが、空軍基地の広場に響き渡った。


「スクランブルだ。」石井中尉はコックピットに駆け込んだ。まだ暗闇に包まれたキャノピー越しの空には、東の地平線が微かに白み始めている。コックピット内は計器の影に沈んでいたが、パネルのライトが次々と点灯し、まるで目を覚ますかのように、F-16は活動を始めた。


石井は、シートベルトを素早く固定しながら、深呼吸をした。酸素マスク越しに微かに聞こえる自分の息遣いが、高鳴る心臓の音をかき消す。彼の視線は、まず右側のサイドコンソールに向けられた。


「メインパワースイッチ、バッテリーにセット。」

石井の声が冷静に響く。彼は座席の右側、肘掛けのすぐ後ろにある大きなメインパワースイッチを、指先で確実に「BATTERY」の位置へと回した。カチリ、という明確な感触と共に、パネル全体に電力が供給される。


目の前に広がるヘッドアップディスプレイ(HUD)の透明なガラスには、薄緑色のシンプルなシンボルが浮かび上がり、計器パネルの無数のダイヤルやゲージ、スイッチが、鈍い光を放ち始めた。速度計、高度計、燃料計、そして多機能ディスプレイ(MFD)が並び、それぞれがこれから始まるミッションにおいて重要な役割を果たす。


次に、左側のサイドコンソールに視線を移す。彼の指が、FLCS(Flight Control System)関連のスイッチ群を探す。


「FLCSリレー、点灯確認。」

FLCSリレーランプが緑色に点灯していることを確認した。彼の指が、コントロールスティックの上部にあるFLCS PWR TESTスイッチへと滑らかに移動する。


「FLCSパワー、テスト位置に保持。」

彼は右手でスイッチを「TEST」位置に保持した。すると、フライトコントロールチャンネルを示す四つのABCDライトがオレンジ色に点灯するのを確認する。これでFLCSへの電力供給が正常であることが示された。


機体の油圧システムが作動する微かなヒューンという音が聞こえ、FLCSの自己診断が開始された。コックピットのスピーカーから、システムチェックのデジタル音声が微かに聞こえる。

次々とライトが点滅する中、石井はパネル上部の警告灯ディスプレイを注視した。


「インジケータライトのABCD、点灯確認。」

彼の目は、パネル中央にある4つのインジケータライト、A、B、C、Dへと向けられた。それぞれのライトがオレンジ色に正確に点灯し、システムの状態が正常であることを示している。これらの警告灯は、システムの異常をパイロットに知らせる最初のサインだ。


「エレクトリックシステム、異常なし。」

彼はコックピット左側のパネルに視線を移し、ELEC SYSランプが緑色に点灯していることを確認する。システム電圧と電流が正常範囲内にあることを示している。


「SEC警告灯、点灯確認。」

同じパネルにあるSEC(Secondary Engine Control)ランプが赤く光り、石井はこれが点灯していることを注意深く確認した。この警告灯は、エンジンがセカンダリ制御モードにあることを示し、後のテストで消灯することを確認する必要がある重要なサインだ。


彼は次に視線を上方のキャノピーフレームに沿って配置されたオーバーヘッドパネルに移し、JFS(Jet Fuel Starter)システムのスイッチに手を伸ばした。


「ジェット燃料システム、開始位置にセット。」

石井はJFSスイッチを「START 2」の位置に動かした。すると、わずかな間を置いて、圧縮された空気が放出される「シューッ」という高圧音が機体後方から響き渡り、続いて油圧モーターが作動する「ヒューン」という高い音が聞こえ、メインエンジンが回転を始めた。


石井は目の前のRPM(Revolutions Per Minute)ゲージを確認し、エンジン回転数がゆっくりと上昇していくのを見守る。デジタル表示の数字が2、3、5、と上がっていく。


「20%RPM確認、スロットルアイドル。」

RPMが20%に達したことを確認すると、彼は左手のスロットルを慎重に「IDLE」位置へと進めた。カチリ、という微かな感触と共に燃料供給が始まり、瞬時に「ゴォー」というジェットエンジンの独特の燃焼音が加わった。


エンジンが完全に着火し、F-16の心臓が目覚めたことを告げている。計器パネルの中央にあるRPMメーターは、針が安定して20%を指し示していた。


「燃料フロー、正常。油圧、安定。」

彼は右側パネルの燃料計を見やり、計器が正確に700から1700pph(pounds per hour)の範囲を示していることを確認した。


燃料がエンジンへと適切に供給されている証だ。計器パネル上部の油圧計も正常な範囲を指し示しており、フライトコントロールや降着装置に必要な油圧が確保されていることを確認した。


石井はコックピット右側のパネルを見やり、先ほど点灯していたSEC警告灯が消灯していることを確認する。


「SEC警告灯、消灯確認。」

計器パネルには、各種警告灯が一瞬で消え、システムが全て正常に動作していることを示していた。彼の額には、微かな汗が浮かんでいる。

石井は深呼吸をし、最後の確認を終えた。


「エンジン準備完了、確認。」

彼の手はジェット燃料システムのスイッチに向けられたまま、すぐに次の操作に移る準備をしていた。彼の隣に座る田中大尉が、次のチェックに移る。

田中大尉は、大きく息を吸い込んだ。ここからが、より繊細なシステムの確認だ。


「キャノピー、ロック。」

彼は頭上にあるキャノピーハンドルを下げ、ガラス製のキャノピーがしっかりと閉じるのを確認した。ガチャン、という重厚な音が響き、キャノピー越しに見える基地の風景が、一層の緊張感を与えた。正面には、HUDと主要な飛行情報を表示するディスプレイがある。ディスプレイの横には、高度計と燃料ゲージがあり、これらも田中大尉の鋭い目でチェックされた。


彼は、緊張感を和らげるために深呼吸をしながら、次の手順に移る準備を整えた。

田中大尉は、右手でフライトコントロールスティックを軽く握りしめ、その感触を確かめた。


その下には、油圧と燃料供給システムのステータスを示す小さなディスプレイがあり、緑色のライトが全て正常を示していることを確認した。


機体は滑走路に向けて準備を整え、エンジンの轟音が静かな夜を切り裂く。田中大尉は、正面のディスプレイに表示されたFTIT(Fan Turbine Inlet Temperature)を確認し、それが650度以下に収まっていることを確かめた。


右側の計器パネルに目を移し、ノズル開口率が94%を超えていることを確認した。

田中大尉は、機体のコックピット内のチェックリストを一つずつクリアしながら、最後の確認を行った。彼は、メインパワーをONにし、各種ライトとスイッチが正常に動作していることを確認した。その後、キャノピーを閉じ、しっかりとロックされていることを確認した。


左側パネルの「PROBE HEAT」スイッチに手を伸ばした。スイッチをオンにすると、目の前の液晶ディスプレイに**「PROBE HEAT」のCAUTION灯が消灯**するのを確認し、次に「FIRE & HEAT DETECT」スイッチをテスト位置に動かした。


彼の目は一瞬の間に計器盤の隅々まで走り、ENG FIREとOVERHEAT警告灯が正常に点灯するのを見逃さなかった。


続いて、中央パネルの「MAL & IND LTS」(Master Annunciator and Indicator Lights)テストボタンに目を移す。


彼は赤色のスイッチを慎重に押し下げると、メーターの針が各指標に沿って動き出し、**すべての警告灯と警報灯、音声メッセージが作動することを確認した。**田中大尉の指は、滑らかに各スイッチを操作し、次々とチェックを完了していく。


「OK、エンジンはセカンドモードでも正常に応答しているな。」

彼は少しだけ安堵の息を漏らし、次のステップに進んだ。左手で「THROTTLE」レバーを操作し、右手で「FLCS PWR」スイッチをオンにする。


エンジン回転数を85%まで上げた後、ノズルの開き具合を示すNOZ POSメーターに目を移し、その数値が10%以下であることを確認した。


これはアフターバーナーを使用しないアイドル状態でのノズルの開度を示す。彼の耳には、エンジンが一段と高らかに唸り声を上げる音が響いていた。


「次はEPUチェックだな…。」

彼は再び計器盤に視線を戻し、「EPU GEN」スイッチのテストを行い、緑色の表示灯が正常に点灯することを確認した。


これはEPU(Emergency Power Unit)システムが健全であることを示す。ここで一旦、スイッチをオフに戻す。


パイロット席の右側には、さまざまな調整用のダイヤルとボタンが整然と並び、その中には「YAW TRIM」や「PITCH TRIM」のダイヤルも含まれている。


田中大尉はこれらを手際よく調整し、各部のトリムが正しくセットされているかをチェックした。エンジンがセカンダリモードでも正しく応答するか確認するため、右手でENG CONT(Engine Control)スイッチを「SEC」(Secondary)に入れる。


ここでのミスは命取りだ。各計器の数値が異常なく安定していることを一つ一つ確認する。


「次はSECチェックだ」と呟きながら、MAL & IND LTSテストボタンを押し続ける。すると、前方パネルの各種ライトが点灯し、異常がないことを知らせてくれる。


ENG FIREとOVERHEAT警告灯が正しく点灯しているかを確認し、問題がないことを確認した。


続いて、FIRE & OHEAT DETECTテストボタンを押す。炎と過熱の検出システムが正常に機能していることを確認し終えると、OFFにしておいた。


次のチェックに移るため、TEST位置にスイッチを入れ、PROBE HEAT警告灯が点滅するのを確認する。これは、空気の温度センサーが正常に作動していることを示している。問題がなければ、再びPROBE HEATをONにして、警告灯が点灯しないことを確認する。


エンジンの調整を確認するために、SEC警告灯が消え、NOZ POSが94%以上開いていることをチェックする。


この時点で、エンジンが適切に機能していることを確認できた。ENG CONTスイッチを「PRI」(Primary)に戻し、ガードを下げて、エンジンの制御が通常モードに戻ったことを確認する。


次に、NOZ POSを確認し、それが10%以下であることを確認する。これはエンジンの推力調整が正常であることを示している。


続けて、スロットルをミリタリー(アフターバーナー無しの最大推力)へと動かし、RPMの安定を確認する。RPMが85%に達したら、直ちにIDLEに戻す。


ここまでのチェックが完了したら、スクランブル発進の準備が整ったことを実感する。


SECチェック中にスロットルを操作する必要があるため、車輪止めが適切に設置されていることを確認する。


「ホイールチョーク、ヨシ!」と、無線で地上クルーに指示を出すと、視界の隅にいる整備士が迅速に動いているのが見えた。


右手のスロットルレバーを握りしめ、その周囲に配置された計器やスイッチを一瞥する。データリンク(DL)のスイッチがオンになり、緑色のランプが淡く光っているのを確認した。


このシステムを通じて、敵機の動きや味方機の位置情報が瞬時にコックピットへと伝わってくる。パイロットはこの重要な装備を信頼していた。


続いて、酸素供給システムのバルブを確認する。緑色の酸素供給バルブは、供給率を示すダイヤルとともに機体の下部に配置されており、必要に応じて調整が可能だ。


このバルブが正常に機能していることを確認し、呼吸器に異常がないことを確かめる。


右側のコンソールには、エンジン始動システムが整然と並んでいる。「START 1」と記されたスイッチに目を向け、エンジンが完全に始動しているかを確認する。


その隣には、電子戦装置(ECM)のスイッチがあり、今回は使用しないためオフにしている。


コックピットの中央に視線を移すと、多機能ディスプレイ(MFD)があり、これからの飛行計画やナビゲーション情報が表示される。


「UFC」(Up Front Controller)と呼ばれるアップ・フロント・コントローラーのスイッチ群もあり、これらを操作することで詳細なデータを調整することができる。


スイッチをオンにすると、画面に文字やシンボルが浮かび上がり、機体の現在位置や飛行経路がリアルタイムで更新される。


右側のディスプレイには、機体の各種状況を示す計器が並んでいる。燃料流量計は「FUEL FLOW」と表示され、燃料が正確に供給されていることを確認できる。


隣の「RPM」の計器は、エンジン回転数を示しており、針が微妙に揺れているのが見える。これはエンジンが正常に稼働している証拠だ。


さらに、ノズル開度を示す「NOZ POS」の計器にも目を向ける。針は安定しており、エンジンの推力が確実に機体に伝わっていることを示している。


計器盤の上部には、燃料供給の調整ダイヤルがあり、「ENG FEED」と書かれている。これを操作することで、燃料の供給量を細かく調整できる。


エンジン始動の準備が整ったら、パイロットは左側の計器群を再確認する。こちらにはMMC(Modular Mission Computer)のスイッチがあり、これをオンにすると、機体の全システムが稼働を開始する。隣には、航法システムのスイッチもあり、これらを調整することで飛行経路や目的地を設定できる。


視線を上に移すと、エンジンの状態を監視するためのパネルが見える。プローブヒーターのスイッチがあり、これをオンにすると、計器が温度を示す目盛りを少し上げる。隣にはエンジン回転数を調整するためのスロットルがあり、緊急時にはこのスロットルで即座にエンジンを停止できる。


すべてのチェックが完了し、コックピット内の全てのライトが正常を示している。二人のパイロットは、滑走路への誘導を待つばかりとなった。


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