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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第九話 戦火の果てに

軍議の間に、冷たい風が吹き抜けた。


軍図の上に置かれた駒を、葛城斎が静かに動かす。

その指先は、まるで剣のように迷いがなかった。


「敵はこの峡谷を抜けてくる。その要を封じるには、ここに一隊を据えるしかない」


その指先が示した地点は、地形上、敵勢の圧を一身に引き受ける危険な場所だった。


沈黙が軍議を包む中、重々しい声が上がる。


「……その任、我にお任せくだされ」


名乗りを上げたのは、阿曽原一成(あそはらかずなり)


沈着な双眸に、わずかな揺らぎもなかった。

斎は一瞬だけ、視線を逸らした。


「……分かっているな。あの位置は――」


「承知の上。殿の策とあらば、我が命など惜しくはありませぬ」


その言葉に、家臣たちの間に緊張が走った。

稲生は眉を寄せ、何かを言いかけたが、斎は静かに手を上げてそれを制した。


※※※※


戦の刻が訪れ、火の海のような戦場で、阿曽原は真正面から敵を受け止めていた。


「押し返せい!一歩も退くな!わしらが殿の楔ぞッ!」


火矢が空を裂き、大地が震える。

その身を盾に、味方を逃がし、敵を喰い止める。


敵将の副官を屠った瞬間、阿曽原の体にも火が這った。

部下たちが叫ぶ中、彼はなお剣を振るい、敵の中心へと躍り込んだ。


――そして、阿曽原 一成は、戦場の炎に沈んだ。


※※※※


敵は策にかかったのだ。

伏兵、攪乱、包囲――


私が描いた絵図は、確かに敵を飲み込み、崩していった。

そして、阿曽原の部隊は……その場で、全てを引き受けた。


私は軍陣の奥で、報を受けると静かに地図を見下ろした。

指先で、ひとつの駒を退かす。


「……ありがとう。阿曽原」


誰に届くともない、独り言だった。


戦が終わった。策は成功し、敵は壊走した。


だが、勝利の凱歌は、誰にも歌われなかった。

戦後の報告が続く中、稲生は私の前に立ち尽くしていた。


「……殿。あの戦、阿曽原殿の犠牲が――」


「わかっている」


私は稲生を見上げ、言った。


「それでも、誰かが楔にならねばならなかった。あの場所は……」


言葉の続きを、私は飲み込んだ。


「私が選んだ。そうであろう?」


稲生は、答えなかった。

ただ、拳を強く握りしめて、黙っていた。



その夜、私は一人で、戦地に建てられた仮の墓標の前に立っていた。


誰もいない。


「……我が策に殉じてくれた、お前の忠義、我が覇道に刻む」


そして、低く、誰に聞かせるでもなく呟いた。


「泣くな。耐えろ。──覇道を貫くならば、涙など捨てろ」


【次回予告】「烽火、そして友と」

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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