第五十七話 鬼門に潜む声
――第一節:火と灰の国にて
火山が噴煙を上げる。
遠くで鳴るのは雷か、それとも地のうねりか。
荒野に立つ一人の男の足元に、灰が積もる。
乾いた風が吹き抜け、その灰は舞い、地に広がる。
「……景宗様。南の監視塔より、報せです」
岩肌の上に膝をつき、男が告げる。
その声に応じたのは、火を背に立つ武者だった。
黒部 景宗。
鬼門州を束ねる覇者。
一振りの大太刀を背に、燃える山を静かに見据えていた。
「葛城が、また一つ国を屠ったそうです。天義すら……」
「見ていたか?」
「……は?」
「燃える火の中で、奴は自分を見失っていなかったか、ということだ」
報せを携えた若者は、言葉を詰まらせた。
その問いに、答えられる者などいない。
ただ、黒部は呟くように口を動かした。
「葛城の“非道”は──ただの悪ではない。
己が壊れると知りながら、壊れることを選び進む……“そういう者”だ」
若者は、怖気がした。
黒部 景宗が、他人の名を、敬意をもって語るのは珍しい。
「……いかがなさいますか。動くのですか」
「まだだ」
「しかし──」
黒部は、静かに腰を下ろした。
燃える山を見上げるその眼差しは、過去を映していた。
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