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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第五十六話 白嶺と覇王、盟を問う 第三節

──第三節:影の目、揺れる心


会談を終えた天幕の外。

空には薄雲がかかり、陽はすでに傾きかけていた。


斎と白嶺が並び歩く姿を、沙耶は遠くから見つめていた。

背を向けて歩むふたり。


その距離は近すぎず、遠すぎず

──だが、間には言葉以上の何かが確かに存在しているように見えた。


「……あの人は、どこまで独りで行くつもりなのかしら」


胸の奥に、置き去りにされたような感覚。

手を伸ばせば届く気がするのに、それが許されないような、そんな微かな痛みが胸を刺す。


沙耶は小さく息を吸い、目を伏せた。


________________________________________

一方、雲居と篝は、少し離れた場所の岩に腰を下ろしていた。

焚火こそないが、互いに湯を片手に持ち、目は先ほどの会談の余韻を映している。


「……ひやひやしたよ。白嶺殿はああ見えて、容赦ない」


雲居が笑うように言うと、篝も肩をすくめた。


「貴方の主も、なかなか……。姉も珍しく“興味深い”と言っていましたよ」


「“興味”か。“信”ではないのがまた、厄介だな」


雲居の指が、湯の椀をくるくると回す。

やがて彼は言った。


「それでも……あの方が、誰かの目に“試される”姿を見ると、妙に落ち着かない」


篝が静かに目を細める。


「それは……“信じているから”じゃないんですか? 貴方も──沙耶殿も」


その名を聞いた瞬間、雲居の動きが止まった。


「……沙耶が、ね」


風が吹いた。

その風が、なぜかふたりの沈黙に拍車をかける。

篝は湯を飲み干すと、立ち上がった。


「我ら白嶺にとって、この共闘は試金石。

……ですが、貴方たちにとっては、どうなんでしょうね?」


「“何を失ってでも進む”と決めた者に、どこまで“支え”が残るのか──それもまた、見極めのひとつかもしれません」


雲居は返さなかった。ただ、静かに目を伏せたまま、湯を口に運んだ。


________________________________________


風が、天幕の布をはためかせる。

誰もまだ知らなかった。


この共闘の先に待つのが、ただの戦いではなく──

斎と白嶺、ふたりの“信と裏切り”を試す、最後の分かれ道となることを。

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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