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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第五十五話 盟火、交わるとき

葛城本陣の外れ、ひとりの男が馬を降りた。


「……久しいな。斎殿に伝えよ、“白嶺より、影が参じた”と」


黒衣に銀糸、整った顔立ちに冷気をまとう──白嶺提督の弟、篝。

その言葉に兵が駆け去ったのを見送り、篝はふうと息を吐く。


「相変わらず……息苦しいな、葛城の陣は」

_______________________________________


天幕。


斎と雲居の前で、篝が書状を差し出した。


「“燕水の渡し”での会談をご提案します。

護衛は五十まで、武器は弓まで。中立の地として妥当かと」


斎は黙って文を読み、淡々と頷く。


「応じよう。盟か敵か──語らいで定めよう」


「姉も、その返答を望んでおりました」


儀礼を終えると、斎は天幕を後にし、場に残ったのは雲居と篝だけとなった。

________________________________________


天幕の外。


焚火のそばで、湯を啜るふたりの影。


「斎殿、お変わりありませんね」


「それを評価ととるか、警戒ととるか」


「両方です。──だが、我らにとっては悪くない」


篝は湯の椀を両手に包み、炎を見つめた。

雲居も視線を落としながら答える。


「伊火国の動き、見えていますよ。……白嶺も、共闘を模索していると?」


「互いに、欲しいものがある。利が交わるなら、手も交わる」


しばしの沈黙。

火のはぜる音だけが、間を埋めた。


「──姉は言っていました。“非道の覇王、見極めるには良い頃合い”と」


「……望むところです」


雲居の言葉に、篝が目を細めて笑った。

________________________________________


その夜。


沙耶は、斎の天幕を遠くから見つめていた。

篝と斎が灯火のもとに並ぶ姿が、幕の隙間から見える。


言葉はない。ただ、信頼にも似た静かな気配が流れていた。


沙耶は小さく息を吐き、踵を返す。

声はかけなかった。


(……私は、あの背にもう、触れられない)


夜の風が、髪をさらりと揺らした。

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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