表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
43/66

第四十三話 盟と陰

夜の風が潮の香を運び、港町の仄暗い小屋の中で、雲居悠仁(くもいゆうじ)は静かに湯を啜っていた。


斎の密命を帯び、白嶺海国の野営地に到着して数刻──

海の女の笑い声が、戸の向こうからふっと洩れた。


「まさか、あなたが来るとはね。斎殿じきじきではないのかい?」


入り口に立っていたのは、日焼けした肌に白い羽織を纏う女──白嶺、その人だった。


「……主より、他に遣わせる者はおりませぬ」


「ふふん、よく吠える。で、話ってのは“火の始末”?」


白嶺はどかりと雲居の正面に腰を下ろし、湯呑を自ら注いだ。


「天義とやらとの舌戦が終わったら、伊火(いほ)がうちをつついてくる。

その火を、こっちに向かせるつもりじゃないのかね」


「……読まれておりましたか」


「そりゃ、海を守るってのは“読まれる前に読む”のが仕事よ」


白嶺の口元に笑みが浮かぶが、目は鋭いまま。


「だが、斎殿の考える“共闘”ってのはどういう形?

一時の結びつき?それとも──布石か」


その問いに答える前に、傍らから静かな声が割って入った。


「共闘とは言え、利あらばすぐ解ける……そういう類のものではあります」


弟・(かがり)が、文の束を持って現れた。

小屋に入ると、彼は淡々と雲居へ向き直る。


「我らが求めるのは“背中を預けられる”相手ではありません。

火の流れを変え得る、その一点」


「……心得ております」


雲居は一礼し、静かに紙を一枚差し出す。

そこには、斎が雲居に口述させた、白嶺への協力依頼の文が記されていた。


篝は一瞥し、すぐに目を逸らす。


「……まるで“戦局を盤面で見るかのような文”だ。……策士の文だな」


白嶺はそれを横から覗き込み、頬杖をついた。


「で、我が白嶺に求められるのは“伊火を抑える”ってだけ?」


「いえ──“焚く”ことも、選択肢にございます」


その一言に、白嶺が笑った。


「……あは、気に入ったよ」


立ち上がると、白嶺は窓の外、海の先に目をやる。


「──この海を守るのは私だが、それを動かすのは、うちの弟よ」


その言葉に、篝が僅かに肩をすくめる。


「姉上……また、余計なことを」


「だって、事実じゃない。

あなた、見た目は冴えないけど、詰め将棋は得意でしょ?」


「“冴えない”は余計です」


白嶺はにんまりと笑い、雲居へ向き直る。


「──私が了承したってことにしいていいわ。

あとは篝が“火を焚く”かどうか決めるさ。だけど一つだけ言っておくわ」


白嶺は湯呑を掲げた。


「我が弟を、見くびらないで。あなたの主のような怪物相手にも、きっと面白いことをするわよ」


湯の熱気の向こうで、篝は微かにため息をついた。


「……斎殿も、我が姉君も、同じように“面倒な人物”ですね」


雲居はそのやりとりを見て、ふっと目を伏せた。


──この者たちもまた、斎様の“策”に組み込まれている。


その地図の広さに、思わず胸が冷えた。


(やはり、我が主は……戦を“駒”ではなく、“大局”で見ておられる)

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ