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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第四十二話 正義、地に立つ

──天義国・王都、聖輦殿(せいれんでん)


白玉を敷き詰めた広き大廊に、王・多岐川顕真は静かに立っていた。

左右に控える重臣たちの表情は固く、重苦しい沈黙が殿内を包む。


「……王自ら戦地に立つなど、断じて許されませぬ」


一人の老臣が膝を突き、声を震わせる。


「我らが理は、王が地に降りては保たれませぬ。

斎という男に乗せられ、“正義”そのものが試されることになりまするぞ」


顕真は応えず、白と金の戦鎧に手を触れる。

それはかつて若き日、幾度の戦を駆け抜けたときに着たものであり、今や象徴として祀られていた“儀礼の鎧”であった。


「……正義とは、地に降りねば届かぬ」


顕真の声は低く、よく通った。


「斎が問うておるのだ。“理想”とは果たして、剣を取らずして為せるのかと。……ならば我が信ずる正道、地に降りてこそ答えよう」


別の家臣が進み出る。


「王よ……あの葛城斎は、あくまで“勝つための理”を持つ男。

王の“正しき理”が、踏み躙られる恐れがございます」


顕真はその言葉に、微かに目を伏せた。


「斎は道を選ばぬ。だが──“道を築いて”おる。

ならば、我が信ずる正道は……それを越えねばならぬ」


彼の瞳には、静かなる炎が宿っていた。


──出陣の日。

青の軍旗に金の鳳凰を掲げた天義軍が、王都を進む。

その中心、白と金の鎧に身を包んだ王・顕真の姿は、まさに“理の象徴”であった。


集まった民衆が、ひざまずき、声もなくその姿を見送る。


顕真は馬上からその顔々を見渡し、微かに頷く。


「この剣は、民を守るための剣──」


「……たとえ、覇道の者に踏みにじられようとも、正道は折れぬと知れ」

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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