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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第二十八話 神代院攻略 聖域に風鳴りて

白嶺海国軍の上陸は、朝靄に紛れて始まった。霧深き神代院の山間、裏手にある湖から小舟に乗じて白嶺の傭兵団が上陸を試みる。


指揮を執るのは、当主・白嶺(しらね)本人。日焼けした肌に潮風を纏い、風を裂くような鋭い声が戦場に響いた。


「焙れ! 弓兵、火矢を左手の社に向けて放て! 一撃で怯ませなければ、霧に呑まれるぞ」


焔を帯びた矢が空を裂き、信仰の象徴である社殿の屋根に着弾する。爆ぜた音と共に、聖域の一部が黒煙に包まれた。


「……まったく。神聖な地だの、言いながら自爆してくるとは」


白嶺は眉をひそめるも、口元にはどこか高揚が滲んでいた。


「姉上、楽しそうですね……」

すぐ傍に控える弟・(かがり)が呆れた顔で嘆息した。


「仕方ないだろう。あれだけ真っ直ぐに、現実を打ち据える人間は久しぶりだ」


その「人間」とは──葛城 斎(かつらぎいつき)。彼女の視線は、遠く霧の向こう、正面突破を図る葛城軍の陣へと向いていた。



斎は、軍議図の前で策を練っていた。

「……霧は読めぬが、風向きは読める。火と策で導け」


雲居が補給線と霧流の推移を分析、沙耶が山伏信仰に基づく社の配置を割り出し、斎の指示で燃やすべき拠点が決定されていく。


「敵の神子殿、祭祀場に繋がる抜け道があるわ。そこを制すれば……」


沙耶の言葉に、斎は頷き筆を走らせた。その筆跡は乱雑だったが、言葉に迷いはない。


「白嶺殿とは連携を……いや、同時に討ち入りとしよう。多少のズレは構わぬ。むしろ……」


 ※


白嶺陣。


「……あの男、合わせる気はなさそうだね」

白嶺は不敵に笑い、弓隊に前進を命じた。


「構わない。こっちは海で鍛えた連中だ。火矢であの“神の柵”を焼き尽くせ!」


矢が放たれ、信仰の障壁を成す木組みが次々と崩れていく。霧の中、祈りを捧げ突撃する信仰兵に、傭兵たちは最初怯んだものの──


「神に祈るなら、来世でしろ」

傭兵隊長が一喝し、刀が抜かれ、血が撒かれる。



その頃、天瀬は奥殿にて最後の祈祷を行っていた。


「我が命を以て、神の御前に道を築かん……」


だが、彼の祈りは沙耶の焚いた火によって燃える拠点に遮られ、信仰の根は切られた。


「──信仰は剣ではない」

霧の奥で、葛城斎の声が響く。


「剣は、現実にしか振るえぬ。故に、俺は信ではなく策を取る」



神代院、陥落。夜の陣営で、斎は白嶺の前に立った。


「共闘、感謝する。あなたの火矢がなければ、あの祭祀場は落とせなかった」


「ふふ、礼には及ばない。……にしても、噂ほど冷たいだけの男じゃなかった」

白嶺はからかうような笑みを浮かべる。


その横で、沙耶の目が細められる。

「この女……斎を見て楽しんでる」


影のように呟かれたその言葉に、篝が溜息をひとつ。


「……姉上、また何か余計なこと考えておられるのでは」

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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