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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第二十六話 神代院攻略  前半

霧がすべてを覆い隠していた。

まるで山そのものが意思を持ち、侵入者を拒んでいるかのように。


神代院――霊峰と呼ばれる神域に築かれた宗教国家。


数多の神殿と修道場が点在し、山そのものが防壁となっている。

そこに住まう信徒は、教主・天瀬(あませ)を「神の声を継ぐ者」として崇め、命すら捧げる。


「……戦いではなく、信仰そのものが武器。やりにくいわね」


山間に潜む岩陰から、真柴 沙耶(ましばさや)は目を細めて呟いた。

装いは黒装束。


気配を殺し、霧に溶けるように進む。


彼女は単独で神代院周辺に潜入していた。

霧の奥には隠された関門と祭殿、それを守る狂信者たちの気配がある。


(天瀬……あなたが“神の声”なら、私は“影”で抗ってみせる)



一方、前線本陣。

連合軍を率いる斎いつきと白嶺は、地図を囲みながら睨み合っていた。


「この霧の奥に伏せられている軍勢、相当数いるでしょうね」


白嶺が眉をひそめた。


「陽動で霧を散らし、正面を揺らす。その間に、沙耶が動く」


斎は静かに駒を指で押し出した。


「ふうん……あなた、あの子を本当に信じてるのね」


白嶺は微笑む。その頬をなびく髪が撫でた。


「信じているというより……彼女は“私の目”だ」


そう呟いた斎の顔には、普段の冷徹さが薄れていた。


その表情を、傍らの雲居がじっと見ていた。



しかし、戦局は斎の想定以上に難航していた。


「敵は、動かぬ……いや、祈りをもって我らの進軍を呪い封じているのか……」


伏兵の配置がことごとく先読みされ、幾つもの部隊が霧の中で孤立した。

稲生

のように現場で陣を率いる存在がいない今、斎の策が機能しきれていない。


「……阿曽原も、稲生もいない。あの位置を任せられる将が、今は……」


斎の言葉に、雲居はそっと目を伏せた。


「ならば私が動きます。殿の策の意図、私が最も理解している」


「いや、お前までを失えば……」


言いかけて、斎は筆を握ったまま止まる。

そこへ戻ってきた沙耶が、幕舎の帳を開けた。


「……拠点一つ、燃やしました。信徒の群れを攪乱できるはず」


その言葉に、斎と白嶺が一斉に振り返る。


「影が、戻ったか」


斎の唇に、かすかな安堵が滲んだ。

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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