第二十五話 対峙と策謀
──幕舎の奥、わずかに火の灯る空間。
「随分と親密な様子でしたね」
真柴沙耶が、半ば冗談のような声音で斎を見やる。
だがその目は、冗談だけではない。
斎は、静かに湯を口に運んだ。
「……何を言いたい」
「いえ。ただ“葛城斎”という男が、意外と人たらしなのかもしれないと思って」
「……違う。私は私の意志で話したまでだ」
斎がそう言うと、幕の外からもう一人が入ってくる。
雲居悠仁である。
「沙耶殿、白嶺殿の件で何か?」
「少し、姉として話をしに行こうかと」
その言葉に、雲居が小さく眉をひそめる。
「……気をつけてください。あの方は、なかなか一筋縄ではいきません」
「そうね。でも、ああいう“魔性の女”って、案外わかりやすいものよ」
沙耶は笑って幕を出ていった。
雲居は苦笑し、斎の方へ視線を移した。
「……何か、あったのですか?」
「いや」
斎は茶を啜っただけだった。
*
──方そのころ、白嶺の私室。
火鉢に手をかざしながら、白嶺は湯を啜っていた。
「沙耶殿、ですか……。やはり、警戒されているようですね」
篝かがりが溜息交じりに言う。
「当然だろう? あの子からすれば、弟をたぶらかす女に見えただろうさ」
「斎殿は“弟”ではないでしょう」
「うーん……でも、年下で、真面目で、冷たいふりして繊細……可愛いじゃない?」
白嶺の笑みに、篝は頭を抱えた。
「姉上……我が白嶺海国の名誉のため、発言を慎んでください……」
「冗談よ。──でも、私はあの男の“器”が見たい。信じるだけの価値があるかどうか」
その目に宿る光は、戯れではなく、真剣なものだった。




