表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
24/66

第二十四話 波濤と祈り

白嶺の笑みと共に夜風が幕舎を撫でていった。

彼女が去った後も、そこにはかすかに潮の香りが残っていた。


「……ずいぶんと、賑やかな訪問だったようですね」


静かな声が帳をくぐって届く。


入ってきたのは雲居 悠仁(くもいゆうじ)

続いて現れたのは、真柴 沙耶(ましばさや)だった。


沙耶は茶の香りがまだ残る室内を見渡し、溜息をついた。


「白嶺、ですね。……何を話していたのです?」


斎は特に表情を変えず、簡潔に答える。


「ただの挨拶だ。共闘の礼もあったようだ」


「随分と馴れ馴れしい“挨拶”でしたね」


雲居が控えめながら少しだけ眉をひそめる。

斎は湯を啜りながら答えなかった。


「……殿。あの女、悪い人ではありません。

けれど、貴方を“面白い”と見て近づくような人です。警戒は、しておくべきです」


沙耶の言葉は静かだったが、明らかに含むものがあった。


「……信頼はします。戦の腕も、判断も見事です。

ですが……乱されるのは困ります。今の貴方には、とくに」


斎はその言葉にだけ、ふと視線を向けた。

だが、それに何も言わず、筆を取って再び紙に向かった。


「──心配には及ばぬ。私の足元を乱す者など、そうはおらぬ」


沙耶は何か言いたげにしたが、すぐに押し込めるように唇を引いた。

一方で、部屋の隅にいた(かがり)は、溜め息をつきながら天を仰いだ。


「……まったく。姉上が少し“楽しまれる”と、こうして私が後始末に追われるのです」


沙耶と雲居が目を合わせ、どこか同情のような視線を篝かがりに向けた。


「ご苦労なさってるのね」


「ええ、本当に……」


帳の外では夜風が再び吹き、戦の前夜の静けさを運んでいた。

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ