第二十三話 共闘の刃、神を斬る
神代院本殿──
その巨大な石造りの門が、激しい震動と共に崩れ落ちた。
「突入! 神託の間を制圧せよ!」
葛城軍の前衛が、霧を割って突進する。
同時に、白嶺軍の陸戦部隊が山側から斜めに食い込むように進撃していた。
「連携、完璧……ね。斎、なかなかやるじゃない」
白嶺は戦場の背後に立ち、砲声と剣戟の響きを聞きながらつぶやいた。
その隣で、篝が頷く。
「葛城軍、第三陣が回り込みに成功しました。教主の本殿は目前です」
「それじゃあ、決着を見届けに行くとしましょうか」
*
一方、神殿内部。
葛城斎は、剣を抜くことなく、ただ一枚の書簡を掲げていた。
「神託も、祈りも、もはやこの戦では剣より軽い。──投降せよ」
対するは、神代院の副司祭。
血の滲む法衣を纏い、震える手で剣を構えていたが、斎の言葉を聞いた瞬間、力なく膝をついた。
「……神は、我らを……見捨てたのか……」
「いや。神が見るならば、“民の血”ではなく、“未来の秩序”を見るだろう」
その言葉に副司祭が涙を流したとき、神代院は、静かに、そして完全に陥落した。
*
戦のあと。山の風が霧を払い、空には月が浮かぶ。
白嶺は、崩れた石段に腰掛け、葛城斎の姿を見つけた。
「お疲れさま、葛城の殿。見事だったわ」
「……貴女も」
短く返す斎。白嶺はその横顔を眺め、ふっと笑った。
「ねえ、私たち、意外といい戦友になれるんじゃないかしら」
「利があれば、味方に。害があれば、敵に。──それが覇道だ」
「でも、ちょっとだけ期待してた。あなたなら、ただの覇者じゃない気がするのよ」
そう言って白嶺は立ち上がり、背を向ける。
その風に乗って、濡れ羽の髪が舞った。
「また会いましょう、葛城斎。戦場か、あるいは……玉座の前で」
その姿を見送りながら、斎は声も表情もなく、ただその場に立ち尽くしていた。
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