第十六話 神代院攻略 霧中の戦略 第一部
白嶺海国との戦が終わったのは、十日前のことだった。
葛城軍は小規模ながら戦果を挙げ、港湾の一角を焼き払った。
だが白嶺軍もまた、沈着冷静な撤退と制海権の一部確保により、痛み分けの形で戦線は膠着。
戦が終わったと誰も言わなかった。
──始まりの、火種にすぎぬと。そして、その火は思わぬ方向へ飛び火した。
神代院──。
白嶺と葛城の争いを「神の怒り」と説き、教主・天瀬の命により“布教文”が各地にばら撒かれた。
葛城領周辺では、村々に“神罰”の名目で神代院の密偵が潜入し、信仰を拒んだ民“異端”として消し去った。
「これは、宣戦布告だな」
斎はただ静かに地図を見つめた。
その目に宿るのは、怒りではなく──冷たい確信。
「“正しさ”の皮をかぶり、民を狩る者こそ……最も許されぬ」
そう言った斎の声に、沙耶と稲生はわずかに目を見開いた。
やがて斎は、沙耶へ視線を向けた。
「……潜ってくれ。神代院の内側を、この目で知りたい」
沙耶は短く頷いた。返事はそれだけだった。
だが、その瞳に宿る光は、明らかに“過去”を映していた。
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