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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第十四話 波濤と祈り 前編

潮津口──白嶺海国における最大の軍港。


水門を抱く要塞の塔に、女提督・白嶺しらねは静かに立っていた。艦砲の整備音、荷を運ぶ水兵の掛け声、潮風のざわめき。全てが、この港に根ざした者たちの“呼吸”である。


白嶺は、鉄と潮に育てられた。若くして船に乗り、幾度もの戦を超え、今や白嶺海国の総旗艦を指揮する。


日に焼けた小麦色の肌には、幾度もの航海と戦が刻まれていた。だが、粗野さはない。結い上げられた長い黒髪は海風に揺れ、引き締まった指先や鋭い目元の奥には、静かな気品が漂っていた。


女らしさと男らしさ。柔と剛。どちらにも偏らぬその姿は、兵たちの誇りであり、敵将には畏怖の対象でもある。


男も女も関係ない──この国において力とは、海を制す知恵と度胸だ。


「……なるほど。山の男が、波に刃を振るうか」


報告に目を通しながら、白嶺は笑んだ。葛城軍が潮津口に動きを見せているという。


その総大将は──葛城斎かつらぎいつき


「“陸地の覇者”が、海にまで触手を伸ばしてきた、というわけね」


沙耶と名乗る女が、数日前に港へ潜入していた。身元も素性も割れてはいないが、白嶺は直感的に“こちらを探っている”と気づいていた。


泳がせたままにしていたのは、それもまた“風を読む”うえでの一手。

(言葉の端々、動きの緩急。あれは……陸の人間ではない)


眼下には、数隻の小型艦が展開されている。砲門は既に点検を終え、火薬も補充済み。白嶺は、その場にあった望遠筒を取ると、遠く山影にかかる葛城軍の布陣を覗いた。


──その中に、“彼”がいる。


葛城斎。策謀に長け、冷静で、時に非情な手も選ぶ男だと聞く。


「まだ若い、か。だが……その眼には、歳月では拭えぬ色がある」


指先で、髪を撫でるように耳の後ろへ流した。

「面白いわね。会ってみたくなる男、というのも、そういない」

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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