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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第十三話 軍師登場──雲居悠仁、策の座へ

季節はまたひとつ巡り、葛城斎が家督を継いでから三年が過ぎていた。


あの初陣の日。未熟ながらも鮮烈な策で敵を退けた少年は、今や“若き覇者”として周囲に一目置かれる存在となっていた。


火鉢の熱が薄い軍議の間。その片隅で、雲居 悠仁(くもいゆうじ)は静かに立っていた。視線は地図に向けられていたが、その目は“その先”を見ていた。


(……あれが、葛城斎かつらぎいつきか)


まだ二十代そこそこの若さ。だが、その佇まいは歳月では得られぬ“何か”を纏っている。悠仁はその背中を見つめながら、胸中で静かに唇を噛んだ。


――戦場では、策も信念も、時に命より軽い。

それは、彼が“学んだ”ことだった。


彼はかつて、ある小国の軍師見習いであった。しかし、その主君は民を犠牲にする愚策を強行し、国を滅ぼした。


自らの策を否定された苦悩、民を救えなかった後悔。それらを抱えて放浪した果てに、彼は“葛城”に辿り着いた。


若き当主、葛城斎。

冷静で、非情を厭わず、だが人としての線を決して越えぬ――と、噂される男。


(私は……この人の下でなら、また策を練れるかもしれない)

そう思ったからこそ、ここにいる。


「──三日後、我らは白嶺海国の陸路拠点・潮津口を叩く」


軍議の中心。斎の声が響いた。その言葉に、周囲の将たちがどよめく。


「潮津口を、か……」「港の要害を正面から攻めるのは……」

疑念と慎重論が交錯する中、斎は一つひとつの声を黙して受け止める。


「──失礼。口を挟ませていただいてもよろしいでしょうか」


場に割って入ったのは、雲居だった。声に驚いた将たちが振り返る。若輩の口出しに、数名の老臣が眉を顰める。


「貴様……誰に断って……」


「よい。申せ」

斎の一声で場が静まる。


(……やはりこの人は、聞く耳を持つ)

雲居は心中で静かに息を整えた。


「潮津口は確かに要害ではありますが、防備は港の東方に偏重しています。西に位置する“逆巻峠”の小道を用いれば、軽装の山兵による奇襲が可能です」


「山道など、まともに通れるものか」「大軍など到底無理ぞ」

ざわつく声の中、悠仁は一歩、地図へ近づいた。


「ですから“小隊”で良いのです。動きは早く、夜を使って遮断。補給線を断ちます。敵が動揺したところで、本軍が正面より圧力をかけ……」


「挟撃、というわけか」

斎が言葉を継ぐ。その口調は既に、悠仁の策を“咀嚼”していた。


静まり返る軍議の場。その中で、稲生 彰人が口を開いた。

「……理に適う策と見ます。殿のお考えとも、通じるものがあるかと」


言葉は穏やかだったが、眼差しは静かに悠仁を見据えていた。

(……この男、只者ではない。殿に通じる“眼”をしている)


斎は、小さく頷いた。


「雲居。三日で仕上げよ。潮津口は“白嶺の喉”──ここを斬る」


軍議の間に、ひとつ風が吹いた。若き策士の“第一歩”が、音もなく確かに刻まれた。

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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