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覇道の果てに、王座は泣いた  作者: 望蒼
序章 ──群雲の時代
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第十話 骨に刻む名

夜の闇に包まれた丘の上。こには、簡素な木の墓標が静かに立っていた。

葛城斎かつらぎいつきは、その前に立っていた。ひとり。


風も声もない、ただ無音の空間。

火の明かりも持たず、斎は長い沈黙の末に、ようやく口を開いた。


「……我が策に殉じてくれた、お前の忠義、忘れぬ」

その言葉は、墓標ではなく、自身の胸の奥に向けられたものだった。


「記録には残さぬ。だが――刻む。骨に、心に」

足音がひとつ、背後から聞こえた。稲生彰人いのうあきとだった。何も言わず、隣に立つ。


二人は並んで、墓標を見つめていた。


「阿曽原殿がいた場所、俺にはまだ……重い」

稲生が呟いた。


「お前が背負わねばならぬ重さではない」

斎は言った。


「だが、いずれ――この国を背負うなら、いくつも刻むことになるだろう」

「……刻む?」

「そうだ。書き記すのではない“刻む”のだ」

斎は拳を握る。


「傷として残る。その痛みで、道を誤らぬために」

稲生はその横顔を見つめていた。言葉ではなく、静かに――その決意を受け止めていた。


「それが……覇道か?」

「違う。だが、覇道を行く者には、それしか残らぬ」


風が吹いた。墓標の木が、かすかに軋む。


「行こう。朝には出る」

斎は背を向けた。


稲生は、彼の背を見送り、ひとつだけ墓標に向かって深く頭を下げた。


「――御苦労さまでした。……斎を、支えてくださり、ありがとうございました」

その声は、夜の風に溶けていった。



【次回予告】(幕間)「沙耶記──影の記憶」

◆――お読みいただき、ありがとうございます。


登場人物たちの言葉や生き様に、少しでも感じるものがあれば嬉しいです。

ご感想・ご意見など、お気軽にお寄せください。


次回も、どうぞよろしくお願いします。

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