ヒロインには向かない
王太子を誑かして婚約破棄を目論んで王太子の婚約者に冤罪を吹っかけようとして逆に断罪された馬鹿な聖女と、冤罪を吹っかけられそうになって逆に聖女を断罪した王太子の婚約者である聡明な公爵令嬢のお話。後味は良くないし読み心地も良くないのでご注意くださいませ。
とある王国での、王立学園の卒業パーティーでのことだった。
「オールストン公爵令嬢、お前との婚約を破棄する!」
王太子が、オールストン公爵令嬢ミッシェルに指を突きつけてそう言った。
王太子の隣には、数年前に聖女の神託が下されたことによりロビンソン男爵家に養女として迎え入れられた少女ルーシャが佇んでいる。王太子とルーシャの周りには複数の高位貴族や名家の令息たちが集まり、ルーシャを守るようにミッシェルを睨みつけていた。
ミッシェルはルーシャに視線を向けた。ルーシャは男たちに守られながら、ミッシェルに対して底意地悪げに微笑んでいる。
ルーシャというのは、女子生徒たちの間ではすこぶる評判の悪い少女だった。貴族に迎え入れられて既に何年も経っているのにいつまでも礼節を学ばず、気安げに男子生徒たちに話しかけては夢中にさせる。
婚約者である女子生徒たちは、ルーシャの聖女という立場から強くものを言えず泣き寝入りするしかない。ルーシャが原因で解消された婚約も少なくないという。
そうやって男たちに取り入っていたルーシャは、ついには王太子まで陥落させたらしい。ミッシェルに対峙する王太子は、得意げに顎を上げている。
「オールストン公爵令嬢、お前の悪事は既にお見通しだ! 何よりも尊重するべき聖女であるルーシャに対して、酷い嫌がらせをしていたそうだな! しまいには亡き者にせんと刺客を送り込むなどと、断じて許しがたい! 神妙に罪を認めろ!」
いささか芝居がかった様子でそうのたまう王太子に、ミッシェルはそっと嘆息した。パチンと音を立てて扇子を閉じる。
「わたくしが罪など犯していないことは、王家より遣わされた監視役が証言してくださいますわ。行っていない罪を認めることはできませんが、婚約破棄のご要望はひとまず認識を致しました。正式なお話は、両家の当主を交えて致しましょう」
言って、それは美しいカーテシーをする。喚く王太子とルーシャに構わず、ミッシェルはその場を後にした。
***
結局、王太子とミッシェルの婚約が解消されることはなかった。王家の調べにより、ルーシャが王太子や他の男子生徒たちに惚れ薬を盛っていたことが判明したためだ。
ミッシェルの献身的な愛で己を取り戻した王太子からの誠意ある謝罪をミッシェルはにこやかに受け入れ、事件を乗り越えた未来の国王夫妻は仲睦まじい姿を貴族や国民たちの前に見せた。
同時に、ルーシャが何の力も持たない偽聖女だったことが判明する。ルーシャは己を聖女と偽って国民を騙した罪と、王太子を誑かして国家転覆を企てた罪により、処刑されることになった。
その処刑の、三日前のことである。ミッシェルは、ルーシャの収容されている牢獄を訪れた。
ルーシャは王妃になどなれずとも、聖女としてそれなりに手厚い待遇を受けていたはずだ。王太子にちょっかいさえかけなければ、偽聖女だなどと判明することもなかっただろう。
未来の王妃である公爵令嬢に冤罪まで吹っかけて、これほどの騒ぎを起こして何がしたかったのか、ミッシェルは問うてみたかったのだ。
牢獄を訪れて、ミッシェルは護衛と看守を下がらせた。騒げばすぐにでも駆けつけられるだろうが、普通に会話をするぶんには聞こえない程度の距離だ。
そうしてミッシェルは、偽聖女ルーシャと対峙した。
環境の悪い牢獄に入れられて、ルーシャは憔悴しているかと思われた。けれどルーシャは薄暗い牢獄の中で、粗末な囚人服を着て、それでも美しかった。
風呂になどろくに入れていないはずなのに汚れた印象はなく、良いものだって食べられていないはずなのに窶れた印象もない。備えつけの古ぼけた木製椅子に美しい姿勢で座って、僅かに開かれた明かり取りの窓から空を眺めていた。
「ごきげんよう、ルーシャ様」
ミッシェルから声をかけられて、ルーシャはゆるりと振り返った。ミッシェルの姿を認めて、やはりゆるりと微笑む。
ひどく美しい笑みだった。
「やあ、ごきげんよう。良い天気だね」
ミッシェルは少しばかり驚いた。ルーシャの口調が、知っているものと随分と違ったからだ。
「あぁ、今さら様づけだなんて要らないよ。あなただって、わたしを丁寧な呼び方などしたくはないだろう」
「……では、ルーシャさんとお呼びしても?」
問いかければ、ルーシャは面白そうに眉を上げた。
「わざわざ訊くのか? 相変わらず、反吐が出るほどお育ちがよろしいね。好きにしなよ」
「あなたは、その……、学園時代と、随分と印象が違うのですね」
「印象?」
心当たりがなさそうに首を傾げるルーシャに、ミッシェルは問うた。
「そのような言葉遣いではなかったように思いますが」
「あぁ、あれ。ちょっとくらい馬鹿っぽくて舌っ足らずなほうが男受けが良いんだよ。けっこう得意なんだ、男にはこの程度の媚び売りくらいできないと、殴られるだけだったからね」
ミッシェルはそっと息を飲んだ。また問う。
「それは、今世のお話でしょうか。それとも前世でしょうか」
「あぁ、やっぱりあなたも異世界転生者か、そうだろうなと思っていたよ。この世界ってさあ、乙女ゲームの世界だよね、一時期だけ流行ってたやつ。乙女ゲームなのに攻略対象に婚約者がいるって、馬鹿みたいな設定だったよね」
ミッシェルの問いには答えず、面白がるようにルーシャはそう言った。
「あなたも、……ルーシャさんも、転生者ということですか。であればなぜ、このようなことをしたのです」
「こんなこと、とは?」
「わたくしに冤罪をかけたり、己を聖女と偽ったことです。危険であることなど、理解できたはず」
ふふ、と声が聞こえた。ルーシャが笑っているのだ、と気づくのに、しばらくかかった。
「ルーシャさん……?」
「ふ、ふふ……ふふ……。いや、失礼。偽聖女ね。なるほど、そういうことになったのか。ふふふ……」
訝しむミッシェルの前で、ルーシャが笑いすぎて滲んだ涙を拭う。
「あなたはもう少し他人を疑うことを覚えたほうが良いね。わたしは正真正銘の、神託を受けた本物の聖女だよ」
「ですが、教会があなたの聖女認定は偽りであったと発表しておりましたわ」
「あなた、まさかそれを信じたの? 馬鹿をやらかしたわたしが邪魔になったから偽聖女ということにしただけだろう。あなた、そんなに騙されやすくちゃ心配だよ。もしかして、他にも騙されていることがあるんじゃない? 未来の王妃なんだっけ、頑張ってね」
いかにも他人事の口調で、ルーシャは笑みを含んで言った。
ミッシェルは混乱した。ルーシャは偽物ではなく本物の聖女だという。
「ならば尚更、なぜわたくしに冤罪など被せようとしたのです。もちろん適性を判断する期間は必要でしたでしょうけれど、聖女であるあなたが本当に望むのであれば、正規の手続きを踏めば王太子の婚約者のすげ替えはありえない話ではありませんでしたわ」
「あぁ、だって別に王太子を愛していたわけじゃなかったし、王妃の椅子が欲しかったわけでもないもの」
言葉を失うミッシェルを前に、ルーシャがくすくすと笑う。やはりどうしたって、美しい笑みだった。
「あんなの、ただのゲームじゃない。せっかく乙女ゲームの世界に転生したのだもの、ゲームを楽しまなくちゃ。ベットしたのは自分の命で、婚約破棄と断罪が成功したらわたしの勝ちで、失敗したらわたしの負け。あなたもわたしも転生者だったのだから条件はイーブンだ。結果はあなたが勝って、わたしが負けた。それだけ」
何でもない口調で、ルーシャは言った。自分が三日後に処刑されることすら、どうでも良いようだった。
「まあでも、あなたが勝ってくれて良かったよ。王妃だなんて面倒くさすぎて絶対にごめんだし、王太子だって恋に浮かれて事実を見誤るような男を好きになれる気はしなかったしな。うっかりわたしが勝ちでもしたら、戦利品を持て余すところだった」
そもそも、とルーシャは首を傾げた。
「わたしはねえ、ヒロインには向いていないんだよ」
うんざりとした口調で、ルーシャが言う。
「わたしは今ここにルーシャとして存在しているけれど、じゃあこの肉体に入るはずだった本物のルーシャの魂はどこに行っちゃったの? って話だよねえ。乙女ゲームの中では転生者だなんて単語は出てこなかったしさ、本物のルーシャとわたしのルーシャでは考え方も性格も全く違う。わたしは本物のルーシャみたいに良い子じゃないし? やっぱりどうしたって中途半端だったね、このゲームは」
「どうして……、せっかく転生したのであれば、しっかり生きれば良いではありませんか」
「誰が頼んだの?」
ごっそりと感情の抜け落ちた声で、ルーシャが問うた。
「転生させてくれだなんて、誰が頼んだの? わたしはね、日本で、死にたくて、死にたくて、死にたくて、でもね、死ぬのは恐いんだ。恐いんだよ。だから死ねなくて、でも死にたくて、死ぬことができない臆病で弱虫な自分が本当に嫌いで、死にたくて、死ねなくて、だから毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日あぁここにトラックが突っ込んで来ないかななんて思いながら道を歩いてでもそんな都合の良いことは起こらなくて、わたしね母親に殺されたんだよ、父親にレイプされてるわたしに母親が嫉妬してわたしを刺し殺したの、だからようやく死ねて、死ねて、死ねて、終わって、終わって、死ねるって、終わるって、幸せだったのに」
ぴたり、とルーシャは口を閉ざした。
ふう、と嘆息する。その憂いを帯びた表情すら美しかった。
吐き捨てる。
「なのに転生しちゃった」
ルーシャは微笑んだ。
「わたしね、ヒロインには向かないんだよ。神様が本当にいるのか知らないけれど、神様ってば完全に人選ミスだよねえ」
ははは、と乾いて笑う。
「ヒロインってさあ、どんな生き物だろうね。まあ男性主人公の場合でも似たような境遇なことが多いけれどさ、大体は共通しているよね、家庭で虐待を受けていたり、貧乏だったり、そうじゃなくても何かしら問題を抱えていたり。家庭に問題がないと思ったら、学校で苛められていたり、苛めとまではいかなくても何かしら社会に馴染めなくて浮いていたり、居場所がなかったり。物語の主人公やヒロインって、そういうマイナスからのスタートが多い。ストーリーの中で自分に足りないものを得て成長していくのが物語になるのだから、当然のことではあるのだけれど」
つらつらと連ねる。
「わたしね、ヒロインには向かないんだよ」
ルーシャは言い切った。一つの希望も持たない、乾いた声で。
「何かの本だったか論文だったか忘れたけどさ、こういう話は知ってるかい? 虐待を受けた子どもってね、大人になってから、男であればDV男になりやすくて、女であればDV男に引っかかりやすいんだってさ。教育ってのは感染だから、同じように虐待も感染するんだよ。虐待を受けた子どもが逆境を撥ね除けて健気で前向きに生きられて、ある日『理解ある彼女ちゃん』『理解ある彼くん』と出会って愛されてまっとうな人生を手に入れて幸せになれるだなんて、そんなわけがないじゃない。まともに育てられなかった子どもは、まともな人間にはなれないんだよ。特に女なんかはうっかり失敗すれば子どもを抱えることになるんだから最悪でさ、ろくでもない男に引っかかって被DV女かワープアのシングルマザーになっていずれ自分も子どもを虐待するようになるの」
ルーシャは言い切った。自分の考えに一切の疑問を持たない声だった。
「だから、ヒロインには意味があるんだよ。まともに育たないはずの環境でも、誰かに愛される程度にはまともに育つことができるくらいに強い女の子だから。だから、わたしはヒロインにはなれないんだよ」
えーっと、と何かを思い出すように。
「知ってる数値でも虐待の件数は年間で20万件、まあでもデータに表れるのなんて氷山の一角だろうから潜在的にはたぶん200万件くらいはあるんじゃないかな知らんけど。で、子どもの数が1400万人でしょ。ざっくり子どものうち7人に1人が虐待されている計算になるよね。じゃあ、その中で誰かに愛される程度にまともで全うな人間になれるのがどのくらいかって話でしょ。虐待されてまともに育たなかった自己肯定感の低い人間に近づいてくるなんてろくでもない人間ばっかりに決まってるんだから、幸せになんてなれるわけがないし。ってなると、まともに生きられるのなんて多く見てもきっと虐待されたうちの100人に1人いれば良いほうで、子ども全体で考えると700人に1人くらいかな。それなりの規模の高校の生徒数よりちょっと少ないくらいだね。だから、ほどほどに身近でほどほどに共感しやすいから創作になり得るんだよね。普遍的なテーマだ」
ここまで一気に言い切って、はたとルーシャはミッシェルに向き直った。
「ねえちょっと、聞いてる?」
「え、えぇ……。聞いておりますわ。」
さんざんに好き勝手なことを喋りながら、ルーシャは微笑んだ。
「で、わたしはヒロインになれるほど強くはないんだ。わたしはね、ヒロインには向かないの。救い出してくれる相手なんていない。いなかった。自分で自分を救えるほど強くもなかった。『理解ある彼くん』でもいたら何か変わったかな? 判らない。わたし自身がろくでもないから、結局のところ何も変わらなかったかも知れない。地獄の先には地獄が続いているだけ。他の人が何の価値も見いだせないことすら、わたしには贅沢なことなの。だからね、死んで、死んで、死ねて、終わって、死ねて、終わる、だから、終わるって、わたし、やっと、幸せだったのに」
ルーシャは吐き捨てる。唾でも吐くように。
「でも、転生しちゃった。神様って本当に見る目がない。だったらこの無意味な人生でちょっと遊ぶくらい別に良いでしょ。まあそれなりに楽しかったし、このろくでもない、生きる価値もない、さっさと死んだほうが世のためひとのため自分のためなわたしがなんだか物語のヒロインになったみたいで馬鹿らしくて気分が良かったし、そこそこ滑稽で面白かったから満足したよ」
それからふと、ルーシャはミッシェルに微笑んだ。
「あなた、わたしのお遊びに付き合ってくれたね。ありがとう。楽しかったよ。前世ではねえ、苛められてて友人もろくにいなかったから……。自分でさ、知らないおじさんに声をかけてお金を貰えるようになるまでは遊びなんか一つも知らなかったし。知ってる? 虐待されている子どもってね、苛められやすいんだよ。子どもはね、苛められてもやり返してこない、弱いものを見分けるのがとっても上手。わたしはね、子どもって大っ嫌い。わたしは生きるための対価として親からの暴力を受け入れているのに、他の子どもたちは何の対価も払わないまま生きているんでしょう。自分が生きていることを疑問に思わない表情を見ると、とーっても苛々する。大っ嫌い。でも、あなたのことはちょっとだけ好きだよ。一緒に遊んでくれたからね。ふふ、負けちゃった。負けちゃった。終わりだ終わりだ。ゲームオーバーだ。ふふ、ふふふ……」
「この世界で」
ミッシェルは、ここでようやく口を挟んだ。
「なーに? お友だちちゃん」
「この世界で、生き直そうとは思わなかったのですか」
ルーシャはきょとりと瞬いた。思ってもみないことを言われたようだった。
「嫌だよ、生きるだなんて面倒くさい。それにね、今世だってろくでもないよ。今世のわたしはね、八歳で男に足を開いたの。相手は産みの母親の彼氏でね、そうしないと母親にもその彼氏にも殴られるから。それにね、わたしを引き取った男爵にも、その息子にも足を開いたよ。そうしないとご飯をくれないから。一応は聖女ってやつだったはずなのだけれど、この世界ってあんまり信仰心は薄い感じ? まあそうじゃなきゃわたしを偽聖女だなんて言わないか」
「そんな……」
「ほら、わたしってこの見た目でしょ。男がよく釣れるんだ。妻子のある男が女の子を引き取るだなんて、最初からレイプ目的に決まってるじゃないか。若い娘のいる女と結婚する男もね。女の子が父親や兄、弟とか、母親の彼氏や再婚相手にレイプされるだなんて、日本でも珍しい話じゃないでしょ。あなた、そういうお友だちは周りにいなかったタイプ? ご飯を食べるために知らないおじさんに足を開くだなんて別の世界のことだと思ってるひと? きっと前世でもお行儀の良い、お金持ちで恵まれたおうちに生まれたんだろうね。ふふふ、悪意には気をつけてね。いかにもあなた、騙されやすそうだから」
言ってルーシャは、あぁそうそう、と手のひらに拳を打ちつけた。
「あなたはこの乙女ゲームをどのくらいやり込んだの? あれね、小説版で学園卒業後のストーリーがあるのは知ってる? わたしはね、本物の聖女だって言っただろう。あなたはわたしのお友だちだから、特別に教えてあげるね。あと半年くらいでこの王国の地下深くにむかーしに封じた大悪魔が復活するらしいから、頑張って再封印してね。わたしはもうこのゲームを辞めるけど、あなたはまだ遊ぶんでしょ。聖女のわたしがいないとこの世界はちょっとそこそこそれなりに困ったことになると思うけれど、まあ大丈夫なはず、たぶん、きっと、もしかしたら。なーんてね、ふふふ。人間ってわりと滅びないし愛と勇気があれば大丈夫だよ。まあ最悪どうにもならなくたってちょっと世界が滅びるだけだし、別に良いでしょ。頑張ってね」
心底どうでも良さげに言ったルーシャの手には、いつの間にか小瓶が握られていた。ミッシェルの視線に気づいたのだろう、軽く振ってみせる。
「あぁこれはね、毒だよ。死ぬためのね。いま魔法で引き寄せたの。お友だちと会えたのが嬉しくって色んなことを喋っちゃったし、処刑を邪魔されちゃったら嫌だから、もうここで死んじゃおうと思って。わたしは臆病だから、臆病だから、臆病だから、なるべく苦しくない、眠るように死ねるやつを選んだの。魔法のある世界って素敵だね」
「どこから……、この牢獄には、魔法封じがかかっているはずですが」
「嫌だなあ、わたしは神様からの神託を受けた聖女だよ。人間の作る魔法封じなんて、最初から利くわけがないだろう」
にこ、とルーシャは微笑んだ。無邪気で、美しい笑みだった。
「さようなら、ミッシェル。もう記憶を持ったまま転生だなんてしたくないけれど、というか転生だって絶対にしたくないけれど、もしもうっかり転生しちゃったら、この記憶がなくってもまた遊んでね」
「お待ちなさい、ルーシャ!」
ミッシェルは叫んだ。背後で、護衛たちが近づく気配がする。
小瓶の蓋を開けるルーシャの動きには迷いがない。間に合わない。それがミッシェルには判った。
「おやすみ、ミッシェル。わたしはこのゲームをいち抜けするよ。あなたの勝ちだ。敗者は勝者を称えるのが礼儀と聞くから、こう言っておこうかな」
ルーシャは毒入りの小瓶を祝杯のように掲げて、心から楽しそうに微笑んだ。
ひどく、ひどく、美しい笑みだった。
「Congratulations!」
これは、、誰が、、誰が読むんだ、、、? 誰向けの小説、、?? わたし向けです、すみません。性癖バリバリの小説になってしまったぜ。
ところでこの手の小説を書くたびに適当な名前をつけているのですが知らない間に名前が被ることがありそう。そっと気づかないふりをしておいてください。
わたしは読むときにはいにしえの少女漫画みたいな健気で素直で可愛らしいヒロインが大好きなのですが、自分で小説を書こうとすると地獄のような性格のヒロインになってしまいます。人間とは自分に足りないものを求めてしまう生き物なのです。悲しい。
あと本編で話題に出ませんでしたが、ルーシャが「惚れ薬を盛っていた」という部分も王家の嘘です。ミッシェルは気づいてない。王家は王太子が馬鹿をやった事実を認めたくなかったので、ぜーんぶ何もかもルーシャが悪かったことにしました。
この作中で、ルーシャは「神様」と言っています。わたしの他の作品では「神様」という呼称をなるべく使わないようにしているのですけれど、ルーシャは自分を転生させた神様が大っ嫌いだし神様を軽んじているので「神様」という呼称を使っています。という地味なこだわり。
【追記20250221】
活動報告を紐付けました。何かあったらこちらに
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