困る探検部
「あの日から休暇取ってる…そうですか…」
内出屋くんが、ひたすら問い詰めてやろうとした探検部の顧問。
解放から即時で職員室に飛び込んだが、当然のようにいなかった。
都合よく逃げたのか、何かそれに関わる用事が別のところであるのか。
副会長の言った、1週間以内で関係者を揃えないと退学もある、という話。
副会長に何の権限があるのか、それが可能なのかは、かなり疑問符が付く。
しかし、あの場で全くのハッタリを言うのか、というと。
……ありえそうなのが怖い。
とはいうものの、それがあってもなくても事実を確認はしなくてはいけない。
自分の名前でいいように動画配信されてるというのは、気分がよくないからだ。
当然である。
だが、しばらく倒れていたのもあり体力が思うほどない。
解放初日は、無理をしないことにしてそのまま寮に戻り寝ることに。
「…なるほど、そんな動画のせいでこじれてるのね?」
「顧問もいないし疑惑は晴れないし、今部活動の要請がないことを祈るだけですよ、ほんとにもう」
部室。
城戸センパイは色々話しても理解は3割といった印象。
疑いたくはないが、部活全体に疑惑がかかってる様子もあったので、多少情報を出しながら様子は見てみるべきだろう。
完全に出席していない部長にも、そういった探りは入れたいが、そっちはそもそも登校していないのでそれもできない。
実際、見た事がない。
「でも、そんな動画あるなら記念に保存する方法探さないといけないかな!?」
「法律守って!」
許可されたサイトの動画以外はたいてい著作権に抵触する恐れがあります。
「とにかく、その動画作った人と、それに出てるもう一人、探さないと俺が危ういわけです」
「あの捜索情報に出てた人だよねえ? 名前忘れた」
「上増名木って書いてありましたよ、それそのものが、もう偽名としか思えないですが」
「どおりで、見た事ない人だったわけだよねえ」
「どこまでが関係者なのか、とにかく顧問に会わないとはっきりしないんで…本当に、見かけたらお願いします先輩」
「あいよん」
部内はこれで良し。
改めて職員室を朝っぱらから聞きまわる。
どうやら、結果としては書類がないだけであの話はみんな隠していない。
そして、おそらく牢屋に放り込む際に生徒会が手をまわしたのだろうか、数日の欠席についても教員には報告済みとされていた。
ここまではいい。
ここまでは。
一番の問題は、動画が有名になっているのが、ここの生徒でも話にのぼることだ。
もはや、内出屋くんが様々な色眼鏡で見ることは避けられない。
クラスだけでも、話を聞くには好奇の目に耐えなくてはいけない。
内出屋くんにはなかなか耐え難い空気にもほどがある。
しかし…。
ちゃんと調べているという実績作り、だけではないが。
人を使っていろいろ回せる立場でないからには、聞きまわらないといけない。
彼の感性からすると、つらい。
「みたよー!あれ本当にどうやって撮った?後でまた教えてよ」
「あれ出来るなら、私も入ろうかなあ探検部」
「普段目立たないのに、あんなセンス隠してるなんて憎いなあ!」
勘弁してくれえ!
内出屋くんは人に話しかけるたびに苦痛が伴う思いで聞きまわる。
別の学年まで行くと、自分が目立ちたがりだという噂をさらに後押しする羽目になりそうなので、出来れば避けるように同学年で聞きまわる。
内容はもちろん、動画の編集が得意そうな学生、または隠しカメラに詳しそうな学生。
救助したはずの女性、そしてあの白い……女性については、顧問に聞くのを優先したほうがたぶんいい。
もしくは、あれだけはっきり見ているのだから、自分でもう一度見ればわかるだろうという考え。
そうやって情報を聞くと、一人引っかかる人物はいる。
生徒会執行部書記、玖珠恵世華呼。
先日、スマホ音声だけで会話していた、彼女だ。
タイピングとコンピュータ知識、プログラム、怪しい機器類と聞けば彼女がまず、というほどには強いらしい。
中学のうちに国家試験をいくつも取得した天才児として有名なのだとか。
なぜこの学園に。
だが、彼女を暫定的に怪しむなら、生徒会の自作自演ということに。
まぁ、そこは頭に入れたうえで慎重に行こう。
そこに行きつこうとするなら、罠がないはずはないのだから、いきなりはいけない。
そこに行きつくような証拠を逃さないことだけは、心がけながら…。
「今日はなんだか目立つでござるね、内出屋どの?」
「お前は呼んでない」
考えている最中の、この間の悪さ。
不自然なこの口調。
熨斗毘珠呼。
入学時から席が隣でちょっかいをよくかけられる、いわば悪友。
口調も語尾も作ってる感じしかしないが、彼女に関して言える特徴は、役に立たないの一言のみ。
勉強も飯も忘れものも、他人に頼ることしか考えていないというスタイル。
口調も、たぶんアニメに感化された程度だろう。
「内出屋殿が休んでる間、消しゴム借りる相手がいなくて苦労したでござるよ? どうしてくれるでござるか?」
「忘れるな」
「昼食も忘れておなかもすかせたでござるよ?」
「学食に行け」
「お財布も忘れたでござるよ? たった今」
「取りに帰れ!」
これが毎日続いてみろ、殴りたくなるから。
そういう応対しかもうできないのが今の内出屋くん。
しかし、スマホを面倒そうに取り出してサクサク操作。
「学食の電子食券の無料券いま送ったぞ、もう今日は付きまとうな」
「いやぁ、友達は持つものでござるなぁ内出屋どのお!」
懐かれるのは、そういうことをするからだ。
「それはそうと、見たでござるよあの動画」
「ニヤつきながら今だけはその話をするな、機嫌が悪いんだその件で」
「授業中なのにもう一つ投稿されたのは、予約投稿なのでござるか?」
「なに!?」
思わず振り向いて肩を掴んで聞こうと思ったが、思いのほか彼女が近すぎて肩をぶつけて倒れこんでしまう。
「……もうもう、普段お世話になっているからって、こんなのを人前でしたいなんて、困った内出屋どのでござるなぁ」
「…早く手を放せ…」
倒れてごめんで済ませればいいものを、頭を掴んで胸にうずめて離そうとしない珠呼。
「これで普段の借りを返してるつもりになるなよぉ珠呼ーっ!」
「お金にしたらすごい金額になる大サービスではないですかぁ、むしろこっちが得させているのでござるよ」
「…後輩は普段こんなプレイで楽しんでるんだね…」
「その声!?」
多分間違いなく、探検部の城戸センパイ。
どういうタイミングで一年の教室に来るんだろうか?
「ちがいますよ! これを楽しんでいるように見ないでください!」
「こんなシチュと柔らかさを楽しまない殿方、いるわけがないでござるよねえ?」
「だから手を放せ!」
確かに柔らかいけど目が見えないくらい埋めなくていい!
むしろ何されているのかと慌てる勢いの内出屋くん。
「……まぁそのままでいいや…みんなに聞いて、動画の見方やっとわかったんだけどさあ」
「よくないですけどね!?」
「聞いたのより増えてるのよ」
「それたった今聞いた気がする…です」
「それで新しい方なんだけどね、これ…異歴図書館の入り口映ってない?」
「…え!? ちょっと待ってくださいどういう動画ですかソレ!」
「それと、投稿者コメントで今日中に生放送でここまで行くって書いてるんだよ」
「ちょっと、ちょっと待って、何考えてるんですかその投稿者!?」
「「名前はお前だよ」」
「違うって言ってるでしょ!」