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「いやあれは……牽制だろ」

「やっぱそうだよなー!優しさじゃないわなぁー!」


再びガバッと机に突っ伏した俺に、ヨシキは「まだそんな夢見てんのかよ」と笑った。


「もう二度と涼哉に近づかないようにしてんだろ。まぁ、やってるのが割と善行の部類だから良いけど」

「思考回路がヤベェよなぁ」

「あれも狂人だからな」


真顔の評価に俺も笑ってしまう。確かにその通りだ。普通じゃない。


「でも……そんなヤベェ奴らとトモダチをやめられない時点で、俺らの負けだよなぁ」


しみじみ負けを認めていると、ヨシキも真っ赤な顔で静かに頷いている。お互い良い感じに酔っ払ってきたようだ。


「なんなら奴らのために、俺たち無駄に動き回っちゃってるし」

「別に感謝もされねぇのに」

「あいつらと一緒に馬鹿やれて楽しめるのが、楽しいんだよなぁ」

「お互い以外とは付かず離れずのあいつらと、()()()できるってことに、周りに優越感抱いちゃったりしてる時点で負けだよな」


たしかに。

あいつらが魅力的すぎるのがいけない。


俺たちは愚かにも、あんな魅力的な人間たちの一本内側のラインに入れることが、嬉しくて仕方ないのだ。




「ってかさ、最近あいつら一緒に登校してくるよな」

「うん」

「譲、家帰ってなくね?」

「あー、かもな。知りたくないけど」

「察してしまう俺たち」

「oh……」


何があったか知らないし知りたくもないが、最近の涼哉は妙にギラギラしているし、譲は妙に……、なんというか、色っぽい。

いつ見ても疲れたような顔で、くったりとしているけれど、気怠げに動く仕草がとんでもなく艶かしい。

なんとなく理由の一端を察している俺たちは、敢えて確認もせず、揶揄いもせず、ひたすら口を噤んでいる。


そして最近の涼哉は恐ろしいほど上機嫌で、これまで以上に譲にかかりきりである。ついでに、譲が他者と少し会話するだけでも割って入るほどの、凄まじい独占欲に取り憑かれているのだ。


そんな涼哉に束縛され、自由を制限された譲は、酷く、……酷く、幸せそうだ。


「ゆず、早く帰ろ」

「せっかちかよ。落ち着け馬鹿、……わりぃ、また今度な」


俺たちと数分話していただけで、涼哉は不機嫌そうに呼び戻しにくる。だが、涼哉の腕に引かれて去っていく時も、譲は幸せそうに微笑んでいるのだ。


朝だってそうだ。

譲はいつも眠そうな顔で現れ、掌をつねって眠気を飛ばしながら講義を聞き、必死にペンを走らせている。根が真面目だからなると言う選択肢はないのだろう。おそらくその()()である男は、隣で突っ伏しているのに。


「おい、おきろ。授業終わっちまったぞ」

「ん……ゆず……」


呆れ果てたと言う顔で、涼哉を小突いて起こしながら、眠そうな声で呼ばれた己の名前に満足げに唇を歪める。

そして昼食後に、眠そうな涼哉そのままコテンと膝に頭を預けられても、譲はペシリと額を軽く叩くと、ため息一つで受け入れる。


「ほんと、勝手なやつ」


そう言いながら、まるで愛し合う者同士が夜通し愛を交わし合った後のような、妖艶に満たされた顔をするのだ。




中学時代から見慣れたはずの笑顔なのに、こちらの胸がどきりと高鳴ってしまうことすらある。涼哉の視線が怖いので、()()()は起こさないけれど。


「譲って、なんか色っぽいよな」


ノーマルなはずの男達も、最近そんなことを言っている。そのせいで余計に涼哉は気が気ではないのだろう。涼哉の束縛は強くなる一方だ。


でも、周りのそんな反応すら、分かってやっているのかもしれない。

譲は賢くて、酷く計算高いから。


「最近涼哉が理不尽なんだよねぇ」

「そんなの昔からだろ」


この間は、俺たちに向かって惚気にも似たことをのたまっていたので、あまり深入りはせずあっさりと返した。適度な距離感こそ、こいつらとの友人関係を保つ秘訣だと俺たちは知っているのだ。


「んー、そうかなぁ?」


納得していない顔の譲が諦め混じりに笑う。困ったように、けれどどこか嬉しそうに。


「お前ら以外の友達と話してると、ヤキモチ焼きやがるんだよねー」

「……へぇ」


他の人間と話した後は、一体どんな夜を過ごしているのか。正直聞きたくない。

なにせ、最近の譲は、ぐったりと気怠そうな日が多く、少し襟が引っ張られると痛々しいほどの紅い痕が、数え切れないほどに散らばっているのだ。


譲がどこかへ行ってしまわないか、不安で不安で仕方ない涼哉を見て、困ったように笑って見せながらも、いつも満ち足りたように眼を細める。

やっと、安寧が得られたとでも、言いたげに。


これは、譲が涼哉に与えた()なのだろうか。

一見すれば、罰を与えられているのは譲だ。

自由を制限され、人との交流を断たれ、意思を許されず、まるで所有物のように扱われる。

けれど、それを、譲は望んでいたのかもしれない。




「……ま、あの二人の関係なんて、俺たちにはどうでもいいんだけどな」

「そうそう、平和であってくれればそれでいいのよ」


俺たちは祈りと共に新たな酒缶を開けて乾杯する。


なんにせよ、昔からの仲間たちからすると、二人の()()()()など、今更の話だ。

だが巻き込み事故だけは、ほとほと勘弁してほしい。



俺たちは、あいつらと友達でありながら、安穏と暮らしたいだけなので。



おしまいです。お付き合い頂きありがとうございました!

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