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「そ、そうか?」

「そうだよ、ぜってぇ譲の方が怖いって」


ヨシキとの意見の相違に、俺は首を傾げる。


「譲……あいつ、最近やたらと涼哉と仲良しの後輩に威嚇しまくってたからさ、怖くて部活これなくなったやつとかいるんだよ」

「まじかー。たしかに、笑顔で向けられる殺気も怖いよなぁ」

「俺はあっちの方が怖かった」


うっすら青くなっているヨシキに苦笑する。

ヨシキは譲と、俺は涼哉といる時間が若干長いから、という理由のほかに、お互いに苦手な分野が違ったようだ。


「涼哉みたいに明らかに不機嫌でキレてるのもヤバいけどな」

「まぁ」


そう続けて、でもどっちもヤバいからなんとも言えねぇなぁと思った。


「涼哉に威嚇されてた後輩は、まぁわりと図太かったから、譲に直談判して殺気を解消してもらってたぜ」

「あいつはまぁ、立ち回りもうまいし、落ち着いて良かったな」


涼哉も譲も、相手に直接言えば良いのに、相手の周りにいる人間に殺気を向けるのだ。傍迷惑すぎる。本当にやめて欲しい。


「涼哉のそばにいた後輩たちは、わりと真面目で素直な良い子ちゃんが多かったからなぁ。……まぁ涼哉の好みなんだろうけど」


ポツリとヨシキが呟いた台詞に、俺は思わず吹き出して「あー」と呟く。面子を思い返して、顔を覆った。


「涼哉の好みって譲っぽいってことだろ?俺らから見ると、全然譲と似てねぇけどな」

「まぁな。……でも」


酒を片手に黄昏れる俺に、ヨシキが悟りを開いた賢者のよう表情で頷いた。


「涼哉には譲がそう見えてんだろ」

「まじかよ、こわ」

「恋は盲目ってやつだろ」


よく聞くフレーズで簡単にまとめて、新しい酎ハイを開けるヨシキに、俺はうーんと唸りながら首を捻った。恋、かぁ。


「恋。恋ねぇ……あれが恋だと定義するなら、俺、恋したことねぇわ」

「恋にもいろいろあるだろ。あれ()恋ってことでいいじゃん」

「なるほど」


割り切りが良い親友の言葉に納得して、手の中の酒を一気に飲み干す。度数が低いとは言え、だいぶアルコールが効いてきた。久しぶりに人心地つけたからなぁ。思考もゆらゆらとあやふやで、気分が良かった。


「そういえばさ、アカリちゃんのこと聞いた?」


ヨシキが思い出したように口にした名前に、俺はパチパチと目を瞬いた。


「え?アカリって、涼哉の元カノの?」

「そうそう、自殺未遂した元カノのアカリちゃん」


すごい説明をされてしまって可哀想だが、事実でしかないのがより可哀想だ。アカリちゃんは、気がきく良い子で、可愛くて優しくて、たしかにちょっとメンタルは弱いけど、幸せになるべき女の子だった。それなのに。


「あんな男に入れ込んで可哀想だったよなぁ。で、どしたの?」


しみじみと言った俺に、ヨシキはニッコリ笑って吉報をくれた。


「3個上の先輩と付き合ってたんだけど、卒業と同時に結婚するらしいぜ。出来ちゃったらしい。いや、授かっちゃった、か?」

「まじか!へぇ、おめでたい話が続くなァ。後輩も授かり婚してなかった?」

「そうだな」


パチパチと気の抜けた拍手をしながら、俺は何度も頷いた。男性不信とか人間不信になってもおかしくないのに、よくぞ幸せをつかんだ。よかった。偉いぞアカリちゃん。


「いやぁー、テニス部の風紀が乱れてるのは明らかに涼哉のせいだよなぁ」


額に手を置いて参ったなぁと呟けば、ヨシキは「まぁ俺らには実害ないけどな」と言いながら笑う。


「あのへん、みんな涼哉に喰われた後じゃね?」

「涼哉に捨てられたのを慰めてるうちに『やっぱり男は優しくて真面目で一途が良い』ってなるやつな」


凄く迷惑な話である。部活の風紀はアイツのせいで乱れすぎだ。


「処女喰いは罪深すぎるから途中でやめてたけどな、涼哉」

「最初の頃は、来るもの拒まずだったからなー、涼哉。でもまぁ、譲に『純情を弄ぶのはやめろ』って言われたからやめただけっぽいけど」

「普通に酷い。普通に最低」


頭を振りながら言い放つ。本人の前では恐ろしくてとても言えないが、本当に最低の屑野郎である。本人の前では言えないが。


「あとは、本気になられて後始末が面倒だから、だろ。まぁ、結局どんな女も本気になっちまって、どうやってもトラブルメイカーだったけどな」

「かー!ありえねぇ、クズすぎる」

「なんであんなクズ男が、あんなにモテるわけ?理不尽では?俺らこんなに良いやつらなのに、彼女いないし」


泣けるぅ、と泣き真似をしてみせたら、ヨシキがまた仏のような顔で俺の肩を抱いてきた。


「それは、あんなにクズで最低な野郎だと分かりながらも友達を辞めていない俺たちにも言える」

「言えてる~!」


トントンと宥めるように背中を叩かれて机に突っ伏した。本当にその通りだ。なんであんなのと縁が切れないんだろう。


「譲も面倒見良くて優しくて良いやつ……みたいなふりして、たいがいヤベェやつだし!」

「興味のない奴に対する興味のなさヤベェよな。たぶんたとえ目の前で死んでても興味ないもんな、あいつ」

「なんなら屍すら利用するぞ」


これは比喩的な意味で、だ。もしも目の前でリアルに人が死んでいたら救急車を呼んだり、心臓マッサージなんかもするかもしれない。そのへんは勇気もモラルもある男だから。

そのへんの共通認識があるヨシキは、俺と同じような顔で笑って肩をすくめた。


「……比喩だぞ?」

「わかってるよ、トモダチを犯罪者だとは思っていない」


互いに確認しあい、カシャンと粗雑な音をたててグラスをぶつける。何度目かの乾杯をしながら、腐れ縁の友人達に対して散々な評価を口にし、俺たちは乾いた声で笑い合った。もう笑うしかない。


「なぁ、涼哉の()()()()の可哀想な子達の中でもさ、わりとマトモでガチ可哀想な子達って、譲がなんやかんやキューピットして、幸せになってるじゃん?」

「……うん」


俺が長年の疑問を口にすると、ヨシキもへにゃりと口を歪めて嫌そうに頷いた。


「あれってさ、どう言う意味なんだと思う?」


どう言う意味って……そりゃあ、なぁ?

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