表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/34

「え?い、ま、……なん、て?」


思いもかけない言葉に固まって振り返る。隣ではエミも同じように硬直して、真っ青になっていた。けれど、美貌の男は冷たい目のまま、「別れるよ」と繰り返すだけだ。


「俺には手に余る。それなら、優しくて一途で、ずっと一緒にいてくれる男探せよ」

「な、なに言ってるの!?これからは、アカリをきちんと大事にすればいいでしょ!?」


思いがけない方向に向かってしまった話し合いに、動揺が隠さず体が震えた。そんな馬鹿な、そうではなくて、涼哉は反省してアカリをきちんと彼女として大切にするべきで、そうなるようにユキは必死に説教した、のに。


「無理だから、それ。そういうのを望むんだったら、アイツは俺じゃないヤツと付き合った方がイイと思うよ。じゃね」

「ちょ、ちょっと待って!ねぇ、ごめん!ごめんなさい!私が言ったことが気に障ったなら謝るから!今別れるなんてことになったら、あの子……」


さっさと帰ってしまいそうな涼哉に、ユキは慌てて駆け寄り縋り付く。ただでさえショックを受けて落ち込んでいるアカリが、涼哉から別れを告げられでもしたら、今度こそ、本当に……。


「……知るか」

「え?」

「譲を()()()()()()と思ってる女のことなんか知るかよ、って言ったんだよ」

「……なっ!?」

「今日来たのだって、あいつが行けって言ったから来ただけだ。次はもう来ねぇぞ」

「アイツ?」


さっきの()()()とは違う響きに、ユキは思わず鸚鵡返しに問うてしまった。答えなど分かり切っていたのに。


「譲だよ、譲。物凄い剣幕で、今すぐ行け!って」

あいつ。それが誰を指すのか、本当は言われずとも分かってしまう自分がユキは嫌だった。


「あいつに言われなかったら、来なかったさ。譲がアカリを気にかけてるのは気に入らねぇけど、家から叩き出されたから仕方なく来たんだよ」


おそらくは無意識に、ふわりと浮かぶ柔らかい微笑。会話の内容とはかけ離れた穏やかさは、その名前を口にする時特有のものなのだろうか。


アカリを呼ぶ時と同じ、冷たい指示語なのに、ふくまれるのはどこか柔らかで優しい響き。

同じ言葉が、こうも違って聞こえるものだろうかと、呆れてしまいそうなくらいだ。


「アカリもお前らも、勘違いしてるだろ。()()()がいなかったら、俺とアカリが上手くやっていけるとか。……ありえねぇな。あいつがいなくなったら、ココから俺もいなくなる。そんだけだよ」


()()()()


それは、大学から?それとも、……この世から?


淡々としていながらもどこまでも深い暗闇を思わせる言葉に、ぶるりと背筋を震えが走った。


「……あ」

「じゃあな」


腕から力が抜けて、涼哉はあっさりユキの手を振り払う。引き留める力もなく、ユキは呆然と涼哉を見送った。やっぱ女はめんどくせぇなー、なんてふざけたことを呟きながら、なんの躊躇いもなく病院から出て行く後ろ姿を。



「……ユ、キ」


後ろからエミがとん、と肩を叩いてきた。


「行こう、アカリのところ」

「……うん」


心細さと恐怖感に、エミとユキは無言で手を繋いで暗い廊下を歩いた。


「無理、だね、あれは」

「うん」


小さく囁いて、頷き合う。

かすかな震えを抑えながら、絶望的な気持ちで手を強く握り合った。


「……アカリに、なんて言おう」


ポツリと聞こえたエミの言葉に、ユキも俯く。余計な真似をしなければ良かった、と思いながらも、どのみち無理だった、とも思った。


あれは、無理だ。

無理だよ、アカリ。

あなたじゃ、無理だ。

あなたには、無理だ。


あの男は、狂っている。





***





「結婚かぁ~みんな着実に人生の階段のぼってるなぁ」

「ふふっ、譲くんはどうなの?」

「おれぇ?俺はいつも通り、王子の尻拭いに奔走してて相手が見つかんないんだよねぇ」

「大変だねぇ」


嘘ばっかり。

昔から王子様の後始末、のふりをして、せっせと()()()()()()()をしていたくせに。


「王子様をお任せできる相手が出来たら、俺にもカノジョできるかもしれないけどな」

「そんな日、来ないと思うなぁ」

「えー!まじ!?俺一生彼女出来ないじゃん」

「あははははっ」


軽口を叩き合いながらも、アカリは自分たちの()()()を眩しい気持ちで眺めた。ちっとも邪気のなさそうな、少年のような笑顔に目を細める。


「譲くんは頑張って王子様の手綱を握っててよ、その方が被害は広がらないと思うから」

「ははっ、アカリちゃんに言われると説得力がやばいなー。ほんとうに元気になってくれてよかったよ。あの時は、アイツがごめんな」


いつものように、王子様の代わりに頭を下げる譲くん。真摯ではあるけれど軽妙で、手慣れた謝罪のセリフに、()()()としては苦笑しか浮かばない。


「ううん、もう平気だから。それに、譲くんがこっぴどく叱ってくれたおかげで、傍若無人な王子様もちょっと考えを変えたみたいだし」

「あー、それでアイツ、途中で女の趣味変わったのか……一応選ぶようになったのか……?いやそれもどうだよ……まぁでも死人は出なかったから……いいのか……いや良くないだろ……」

「ふふっ」


ぶつぶつと呟く譲くんの首筋には、角度によってはギリギリ見える位置に、ぐろいくらいのキスマーク。ほとんど傷のような赤黒い所有印は、きっと王子様からの牽制だ。


「……ねぇ、譲くんは今幸せ?」

「へ?」


黒髪・二重のつぶらな瞳・身長差十センチメートル・声が女子にしては低い、つまり男子にしては高い・なで肩・指が長い、などなどの条件すべてに当てはまる目の前の綺麗な青年は、悪魔のような王子様の恋のお相手だ。


「ん?まぁ、普通に幸せだけど?」

「そっか。……よかった」


最近『王子様の被害者の会』への新規参加者がいないということを鑑みるに、おそらく、王子様の傍迷惑な恋は実ったらしい。

噂によると男の子すら毒牙にかかっていたらしいから、本当に酷い。猛毒を持つあの王子様の悪行がストップしたのなら何よりだ。


「私も今幸せだから、譲くんも幸せだったら良いなって思ったの。私の幸せは譲くんのおかげだから」

「えー?いや、俺がやったのは、マサ先輩を紹介したくらいだけど?」

「そんなことないよ。学園の平和は譲くんの手腕にかかってるんだからね」

「へ?」


不思議そうな譲くんに私は自分が一番綺麗に見える顔で微笑んだ。


「地獄の魔王みたいな王子様を、ちゃんと捕まえておいてね」


願わくば永遠に、あの悪魔を解き放つことのないように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ