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「ふざっけんじゃないわよ!!」

「落ち着いてユキ!病院だからここ!」

「落ち着けるわけないでしょ!?この元凶!アンタ、なに涼しい顔してんのよ!?」


救急外来のベッドに寝かされながら、私は壁の向こうで親友のユキが激昂している声を聞いていた。きっと止めているのはエミだ。話の内容からして、きっと涼哉が来ているのだろう。


「何でそんな飄々とした顔で呑気に歩いて来てるのよ!?もっと焦りなさいよ!アカリが死ぬところだったのよ!?」


普段は温厚だけれど、怒らせると誰より怖いユキが激怒し続けている。

もう少し声を小さくしてもらえないかなぁ。他の患者さんもいるのだから、迷惑になるようなことはしないで欲しいなぁ。……なぁんて、私はやけに冷静なことを考えていた。でも。


「……やっぱり、そうなんだなぁ」


涼哉は、私が生きようが死のうが、興味がないみたい。

反論する声は聞こえてこないけれど、激昂しているユキの言葉から察するにそういうことのようだ。


「……なんだか、もういいや」


最近全然眠れなかったし、疲れちゃった。

私はぼんやりと目を閉じて、そのまま眠りに落ちた。




***




救急外来の待合室で、ユキは憎むべき一人の男と対峙していた。後ろではハラハラした様子のエミが、ユキを抑えるように、もしくは支えるように、服の背中を掴んでいる。


「……はぁ、馬鹿らし」


シャワー上がりなのか、しっとりとした髪の毛をかきあげて、涼哉は面倒くさそうに吐き捨てた。


「発見してもらえると分かっていてのリスカで、ためらい傷なんだろ?同情ひこうとするわざとらしさを感じるよなぁ」


薄い笑みすら浮かべ、淡々と言い捨てる男を、心底殴りつけてやりたくなる。

しかし病院内で新たな患者を作るような真似をしたら嫌がられるだろうし、下手したらユキが暴行した人間として抑えられて連れ出されてしまう。それではアカリに付き添うことができなくなるので、振り上げそうになる腕をなんとか堪えた。


「あんた最低ね!そこまで追い詰めたことに対する罪悪感とかないの!?責任感じなさいよ!」

「……なんで?」

「は?」

「なんで俺が責任感じなきゃいけないわけ?俺が殺そうとした訳でも、死ねって言ったわけでもないんだぜ?自分でやったんだろ」

「……あんたオカシイよ」

「はぁ?なにが?」


さも面倒くさそうに返す男が信じられない。大学で過ごしている時は、多少嫌な奴で性格が悪いとは思いつつも、ここまで酷くはなかった。


「あの子、言ってた。私は涼哉に愛されていない。涼哉は譲くんのことしか考えていないんだって、すっごくつらそうに!」

「へぇー」


どうでも良いと言わんばかりのおざなりな相槌。


「アンタ……ッ」


涼哉は自分がどれほど酷いことをしているか、を分かっていないのだろうか?こいつに人間の感情はないのか?

そう思いながら、ユキは怒りのままにアカリから聞いていた内容を思い返しながら、目の前の男に怒りをぶつけた。


「アカリ、言ってたのよ。涼哉は私が譲くんと仲が良いから、()()()()()()()私と付き合ったんだ、私のことは、好きどころか()()なんだ、って。……アンタ、友達優先も程々にして!?()()にそんな意味不明な()()()させるような行動は慎みなさいよ!」

「へぇ?……よく分かってるじゃん。思ったより賢いんだな」

「え?」


どこか愉快そうに呟かれた言葉は小さすぎて、ユキには聞こえなかった。だから、ユキは懇々と説教するつもりで、さらに口を開いた。涼哉の態度を改めさせるために。


「え?まぁ、とにかく、ちゃんとあの子を大切にして。というか、ちょっとは優先しなさいよ」

「……つまり、アカリは、俺が譲優先で、アイツと一緒にいられないのが嫌だったってことか?」


バカにしたように響く()()()という二人称が苛立たしい。こいつは状況を分かってるんだろうか?

エミはどんどん増幅してくる怒りのまま、こんな時ですら美貌が際立つ目の前の男を怒鳴りつけた。


「それだけってわけじゃないけど、それも大きな理由よ!いつもいつもアカリとの約束をドタキャンして譲くんの誘いばっかり優先してるんでしょ!?信じらんない!あの優しいアカリが、譲くんさえいなければって思ってしまう、って泣いてたのよ?どれだけ追い詰められていたか、分かりなさいよっ!!」


興奮と怒りと悲しみで目に涙を浮かべながら、ユキは懇願を込めた罵倒を叩きつけた。激しく投げつけられた言葉を受け取り、数秒吟味した後で涼哉は「なるほど」と頷いた。


「なるほどな、……わかった」

「よかった……。じゃあ、アカリのところに案内す」


了承の言葉にほっと安堵し、ユキがくるりと背を向けて涼哉を先導しようとした、その時。


「じゃ、別れるよ」

「…………え?」


ありえない言葉に、時が止まった。

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