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来た時よりも少し早く扉の前に到着した私は、その場で両手をあげて飛び跳ねた。その扉には、白い布切れがしっかりと結ばれていた。やはり道中は何も見つからなかったが、〝扉は一つ〟〝塔は円形〟という二つの事実が明らかになった。ということは、この塔の中はかなり広いだろう。私はますます塔の内部が気になった。
しかし問題は、この扉をどうやって開けるかだ。しばらく悩んだ末、軽くノックしてみた。開かないので、次いでドンドンと強く叩く。しかし、開かない。それもそのはず、私は初めに扉に向かって体当たりしているではないか。こんなことで開くぐらいなら、その時とっくに開いている。
少し苛立ち気味に、把手を上下に揺さぶった。すると、ガコンと音がして把手が引き抜かれた。一瞬『しまった』という意味合いの感情を持ったが、予期しなかった新たな展開に気分を高ぶらせた。
引き抜かれた把手は、扉に挿し込まれていた四つの部分の先端が違う形をしていて、丸、星型、三角、四角に象られている。扉に空いた四つの穴も、覗くと奥に把手の先端と同じ形でそれぞれ窪みを作っているが、手にした把手の向きから、どうやら左右とも上下が逆に差し込まれていたようだ。
それに気付くやいなや把手を持ちかえ、その先端と穴の奥の形が同じ向きであることを確認したのち、嬉々として、しかし慎重に把手を穴に挿し込んだ。ガチャッ、と金属同士がかみ合った感覚が手に伝わってくる。──これでついに扉が開く、と確信した。しかし、扉は意外な反応を示した。
どこからか──とはいえ扉からに違いないだろう──ブーンと地鳴りにも似た音が響いたかと思うと、扉に刻まれた文字が光を帯びはじめてきた。把手から手を離して後ずさり、その様子を眺める。
眩しいくらいに輝く文字は、不思議なことにそれぞれが好き勝手に動き出した。好き勝手に、というのは仕組みを知らなかった私のそれこそ勝手な解釈であって、実のところちゃんとした意味を持って動いていたのだ。動きを止めた文字は今や文字ではなく、四つの絵を描き出している。おまけに、扉の中央には絵を四分割するように横に切れ込みが入り、そこで光は消えた。
不思議な絵だ。四つに共通しているのは、円と線で描かれた人間だと思われる形の絵だけだ。ここは一つ一つ、順に見ていこう。
左上の絵は、大きな人間が丸いものを胸に抱えていて、その中にとても小さな人間が入っている絵だ。左上隅には丸い印が刻まれている。
右上の絵は、大小さまざまな人間たちが走っているように見える。それぞれが何か違うものを手に持っていたりする。この絵にも、右上の隅に三角が刻まれている。
右下の絵は左上とよく似ているが、丸いものを胸に抱える人間の横には、もう一体の人間が寄り添っている。やはり右下に印があり、この絵は四角だ。
左下の絵は、前に腰を曲げた人間が二体。その手からは一本の線が下へ垂れている。左下には星型の印がある。
それぞれの隅に刻まれた印は、把手と扉の穴の中に見たものと同じだ。位置も同じだったと思う。確認しようとしたが、把手はすでにどうやっても抜けなくなっていた。