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目の前に扉がある。ところどころ錆びて赤茶けた、私の身長の二倍はあろうかという頑強そうな鉄の扉である。横幅も広いが、かろうじて縦に延びる長方形を呈している。表面には、どこの国のものとも知れない文字が羅列している。それらは鋭い刃物で刻み込まれていて、まるで扉を封印しているかのように見えた。
少し身を引いて、全体を眺めてみる。扉の両側からはさらに倍以上の高さの壁が延びていて、積み上がった石の接合部には苔が生し、上へいくほどに蔦が鎖のように壁を縛りつけている。
塔のようなその建造物の周囲には、何もない。ただ真っ白な地面が広がり、あたりに立ちこめる霧がそれ以上のものを私の視野に入れまいとしている。霧の中に何かの影が映っていることもないので、ここにはこの塔以外おそらく何もないのだろう。
──私はなぜ、ここにいるんだろう?
そう考えたのはだいぶあとになってからで、この時点では『塔の中を見てみたい』としか思わなかった。まずそういった好奇心を抱かせる不思議な力が、この塔にはあったのだ。注意深くあたりを探るでもなく、扉の向こうに何が待ち構えているのかを想像するでもなく、私は扉の把手に手をかけた。