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013 群れる狼④

 任務結果の報告後、寝泊まりのためアリアに割り当てられたのはセシリアの部屋だった。

 もとから二人部屋だったのだろう、二段ベッドが置かれれいる。その下段でアリアは、抱えた膝に顔を埋めていた。


 ――何やってんだろ、私。


 ネクサスでは、規律を乱した者は懲罰室という場所に入れられる。通常ならアリアもそうなるはずだった。場合によっては、そもそも入団自体できなかったかもしれない。しかし、そうはならなかった。

 また、トロワだ。彼にまたアリアは助けられたのだ。

 だが、同時にこうも言われた。


『考える時間はあげますよ。でも、僕としてはやっぱり帰って欲しいんです。死んでしまっては元も子もありませんからね』


 ぐうの音も出なかった。


 溜息を吐き、壁にもたれかかった。すると、


「――大丈夫?」


 上段から逆さに覗き込むセシリアと目が合った。


「……大丈夫です」

「う〜ん、そうは見えないけど」

「大丈夫なものは大丈夫なんです! たしかにちょっと……、悩んでますけど……」

「悩みって?」


 膝の下で組んだ手に力が入る。


「私、ここにいていいんですか? 私みたいな自己中、ただのお荷物ですよ……」


 視線を逃がし、吐き出すように呟いた。眠くないのに、身体が、瞼が重い。


「お荷物かぁ……。なんか今のアリアちゃん、昔のトロワ君みたい」

「……え?」

「トロワ君ってさ、昔からよく落ち込む子でね。何かあると、殻にこもるみたいにそうやってたっけ」

「……そう、だったんだ。あ、そういえば」


 重要なことを忘れていた。


「賭けの結果、まだあの三人組に言ってなかった」

「一緒に行こうか?」

「いえ、元はと言えば私が突っかかったせいですから」


 身体を引きずるように、アリアは部屋を後にした。虚ろな表情を浮かべ、灰色の通路を伝い歩く。

 一歩、また一歩と踏みしめる度に、あの親子が脳裏に浮かんだ。


 人が死んだ。呆気なく、無残に、それもひどく惨たらしく。身体も、心も弄ばれて、あんなの人の死に方じゃない。一歩間違えれば、私もその仲間になっていた? 見ず知らずの誰かが死んだだけでこんなにも辛いのに、私も操られて人を殺すようになっていた?


「そんなの、嫌だよ……」


 自分を保つだけでもアリアは精一杯だった。理解したくない現実が、重く背中に纏い付いていた。だからこそ、得た功績に縋るしかなかった。あの三人組からのトロワへの謝罪こそが、まさにそれであった。


「――あ」


 例の男が、開いた扉から出てきた。三人組の一人、アリアを殴ろうとした小太りの男だ。


「ねぇ」

「……ん? お前、生き残ったのか?」

「当たり前でしょ! で、約束忘れてないでしょうね? 倒したわ、ちゃんと一体」

「そうか、すごいもんだな……」


 アリアは両手を腰に手を当て、ふんぞり返った。


「でしょ? じゃあトロワ君への悪口、撤回してよね!」

「もちろんだ。悪かった……」

「そうそう、それでいいの。で、あと二人は?」

「……ない」

「なに?」


 刹那、俯いた小太りは吐き出すように叫んだ。


「――いない。もういないんだよ!」

「……え?」

「俺たちも任務があったんだ。お前らとは違う、日帰りのやつがな。そこであいつらは俺を庇って……。チクショウが!」


 小太りはコンクリートの壁を殴りつける。微かに赤く染まったそこには、遺体安置所と書かれていた。


「俺たちは、元軍人だった……。戦争が終わって、帰るための路銀も仕事もなく、兵士崩れとして各地を転々としてきた。そんな俺たちを拾ってくれたのがネクサスだったんだ……」


 彼は膝から崩れる。壁に縦一文字の赤い線が書かれた。


「……あいつら、お前との賭けを喜んでたよ。まとまった休みが手に入るから久しぶりに故郷に帰る、ってよ……。でも、でもよぉ……、死んじゃ意味ねぇじゃねぇか! クソ! クソ! クソォ!」


 すすり泣く彼はユラリと立ち上がり、腫れた目でアリアを見た。


「あの時はすまなかった……。これはあの二人の分だ。俺はネクサスを抜ける。お前は、こうなるなよ……」


 小太りはこの場を後にした。横に広い彼の背中は、暗い影を纏っているように見えた。


「なによ、それ……」


 目眩がした。足がもつれ、壁にもたれかかった。


「悪いことしたんなら……、せめて悪者でいなさいよ!」


 あの人たちは、ただ生きていたかったんだ。いつ死ぬか分からない。だからこそ怖かったんだ。死ぬ原因になるかもしれないものが。トロワには関してはまだ分からないが、厄物なら避けたくもなる。当たり前の事だった。なのに私は――


「――自分の価値観ばっかで、人の事なんて分かろうともしなかった。私ってホント、バカ……」


 顔を覆った右手の隙間から、雫が滴った。

 そんな時、もはや聞き馴染んだ声が聞こえてきた。


「――アリアさん」

「聞いてたの? トロワ君」

「……すみません」

「ううん、こっちこそ、ごめん。ねぇトロワ君、聞いてたってどこから?」

「それは……、ごめんなさい僕のせいで――」

「――違うよ! 私のせい……。私が、君を殺しかけた……」

「ッ、違っ……! ……いえ、そうかも、知れませんね」

「……ありがとうトロワ君。あのさ、お願いがあるの」


 改めてアリアはトロワと向き合う。勇ましさを内包した赤い目で、誓う。


「私は死にたくない。でも、誰かがあんな死に方するのも絶対嫌だ! お母さんだって見つけたいし、もしお母さんがエンブリオになっているなら、私が倒す! だから強くなりなりたい……。私がやるの……、私がやらなくちゃいけないの! 教えて、どうやったら戦える? どうやったら、あの力が使えるの!?」

「……引き返せませんよ。後悔、しませんね?」

「……うん。臨むところよ……!」

次  回 【足踏み①】


文 字 数 1846字(空欄含む)

読了時間 目安4分

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