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二−8 バイヨンヌ

 ペランと二人で歩くこと数分。

リシャールとルーに追いついた。

リシャールの機嫌もなんとか良くなり、とりあえず4人で腹ごしらえということになった。

 食事を提供する店はほとんどが、小さく屋台風の立ち食いスタイルで、店内で座ってゆったり食事ができる場所といえば宿屋だ。

バイヨンヌの宿屋も食堂が一階にあり、2階で宿泊するというスタイルになっている。

 リシャールは食事は楽しくがモットーらしく、腹に流し込むだけの食事を嫌がる所がある。

戦場で過ごすことが多く、戦場以外での食事にこだわるのはなんとなく分かるが、そういう所は、めったにそう見える事のない、貴族の王子らしい所だなう。

 適当に広めの宿屋に入ると、オーダーをしながら奥の広いテーブルを陣取る。

いくつかの食事を持ってきた店主の男にシードルの事を聞いてみた。


「シードル? そんな酒は無いな。けど、前にサガルドア飲んだ客がそんな事言ってたな。原材料が同じじゃねぇかって聞かれたけど、オレには分からなくってな。捕鯨漁の荷積みにサガルドを入れたりしてるんだが、エールより、調子がいいって、船乗りの間じゃ人気なんだぜ?」

「え、捕鯨? ここって、クジラ獲ってるの? 」

「ジャン。クジラ知ってるのか? 俺でも海であったこと無いぞ? すげぇデカい魚なんだろ? 」


思わず声に出てしまった疑問に、リシャールが驚いている。

見たと言ってもテレビで見たとは言えない。


「え? あー。うん。本で読んだ? おれも見たことは無い。 」

「おいおい、でっかい魚って、それってまさか、リヴァイアサンじゃないか! ああ、あ、悪魔のアレだぞ?? 」


ペランが慌てて椅子から立ち上がった。

 そのせいでベンチ型の椅子に二人並んでいたルーの体が反動で揺れ、手に持っていた肉がべチャリと机に落ちたが、ペランを一瞥しただけで、再びその肉を食べる。

 リシャールも我関せずと、エールを喉を鳴らしながら飲んでいる。

この様な場合、ペランを相手するのはポールなのだが、今はいないので、この件初耳のおれだ。


「え? なにそれ、クジラって悪魔なの? 」

「お前、リヴァイアサン知らないのかよ。 その海獣に飲み込まれたらもう、そこは地獄の入り口なんだぞ! そ、そんな海獣を獲ってるのかよ! 」


ペランが信じられないという顔で唾を飛ばしながら言うと、店主は豪快に笑った。


「そりゃ、そうだろう。あんな大物取れるのはオレ達くらいだ! ああ、そうだ。騎士のだんな、港にはもう行ったのか?」

「おう。」

「だったら大きな船を見ただろう。おれたち自慢の船さ。アレででっかいクジラを仕留めんだよ。クジラは肉も食えるが、クジラのひげと油が万能だ。そうだ、クジラ肉がちょうどあるぜ。喰うか? 」

「ああ。食ってみたいな。」


 ずっと黙っていたルーが口を開く。

それを聞いて店主が嬉しそうに厨房に行く姿を見て、ペランが慌ててルーの胸ぐらを掴む。


「るるる、ルー!! お前、なんてことを!! リヴァイアサンなんて悪魔を食ったら、オレたちが地獄そのものになるかもしれねぇぞ!! 」


必死の形相のペランが何だかおかしかった。


「ペランって時々かわいいよね。」

「ジャン!! お前、何いってんだ! オレたち天国に行けなくなるんだぞ!! 」

「元より天国なんて興味ねぇよ。地獄でサタンとかいうヤツにあったら、1戦交えてやりゃいいんだ。押し黙らせてやるよ。」


 リシャールがものすごくかっこいい顔でそんなセリフを吐く。

しかし、ペランにはその格好良さは分からないらしく、今度はリシャールの胸ぐらを掴んでゆらゆらと体をゆらしてる。


「り、リシャール! お前と言うやつは! なんて、罰当たりなんだ!! 神様オレはコイツらとは関係ありません! どうかお慈悲を! 」


そう言いながら天に祈るペランを他所に、テーブルに運ばれてきたクジラ肉を3人で貪る。

それはベーコンの様に塩漬けしていぶされていて、想像したものとはちがったが、味は悪くなかった。


「悪魔うめぇな。」

「ああ。意外と油がのってるな。」

「おれ、初めて食べたよ。」


「そりゃ、そうだろ!! 何度も食べてたまるかよ。お前らほんと、知らねぇからなぁ! オレだけ食わないで、天国(Paradis)行くんだ。 」


「わっはっはっは! こっちの小さい兄ちゃんの方が普通の反応だな! 気に入ったぜ、あんた達。騎士辞めら、ウチで漁師にでもなると良い。オレの予想じゃ、クジラの需要は今後もっと来るぞ。 」

「あぁ。漁師も良さそうだな。船は好きだ。まぁ、そん時が来りゃ、よろしく頼むよ。」


 リシャールがいつもの様にエールを飲みながら適当に返事をしている。

ペランはいつの間にか少し離れた席に移ってしまい、知らんぷりを決め込んでいるようだった。


「そうだ。クジラで忘れてた。さっき言っていたお酒、なんて名前だったっけ、それ、今ここにはないの? 」

「ああ。サガルドアな。悪いが、切らしてる。ピレーネ山の村とか、パンプローナ産のやつを買ってるんだけどよ、今年はあんまりこっちに回って来なかったんだ。オレもまだ一口も飲んでねぇ。 」

「・・・作りゃ良いんじゃねぇか? ここで作りゃ、そのまま船に載せれるだろう。これからクジラ漁が盛んになりそうなら、需要もあるんじゃねぇ? 」


 リシャールはなんということもない顔で、的を得たことを言う。

ぽかんとした顔で聞いていた店主の顔が、少し真剣な顔になった。


「・・・なるほど。そりゃそうだな。ふむ・・・。」


 考え込む店主に、リシャールが「酒」と催促する。

店主が慌てて厨房に入ったところで、ポールとダニエルが店に入ってきた。


「始まってんな。・・・何食ってんの? 」


ポールはテーブルの上に乗っているクジラ肉を珍しそうに見ているので、先程のペランの様子を話すことにした。


「ポール、ペランが面白いんだ。クジラのこと リヴァイアサン だって言うんだよ。」

「クジラ? まさかこの肉クジラなのか? 食えんのか? 」


それにリシャールが答える。


「ああ。結構うまいぜ。まぁ、でも主には油のほうが使えるらしい。」

「油ですか? 」

「ああ。肉にもそこそこ油がある。どんくらいデカいのかは知らねぇけど、そいつ確か家くらいの大きさがあるんだろ? それから取れると考えると、商売にはなるだろうな。ちょっと、臭そうだが。」

「まぁ、魚ですからねぇ。ふーん。」


そう言いながら、ポールとダニエルがルーの隣に座るとクジラ肉をつまんでいる。

リシャールとポールは時々商売の話をしていたりする。

曲がりなりにもリシャールは公爵だ。

 このバイヨンヌなど、近年制圧した街にいた従来の領主たちを排除し、組合を容認するという、半ば民政に近い状況を作っている。

 それが民には良いが、教会や封建貴族からは批判の対象となっている様なのだが、本人全く気にしている様子はなく気にするこちらが拍子抜けする気分だ。


そんな事を考えていると、ダニエルがニヤニヤしながらこちらを見ているのに気がついた。













参考

○https://omizu-water.hatenablog.com/entry/2023/03/11/180000#%EF%BC%92%E3%83%AD%E3%82%A6%E3%82%BD%E3%82%AF%E3%81%AE%E3%81%AF%E3%81%98%E3%81%BE%E3%82%8A


○https://en.wikipedia.org/wiki/Spermaceti#Etymology






鯨蝋・スペルマセティ←(英直訳で精液。マッコウクジラ等の鯨脳油が入っている器官を精子器官だと考えれられていたそうです。まだ明確に理解はされていないようですが実にダイレクトな名前ですね。)が開発されたのは17世紀になってからのようです。

鯨蝋は無臭で硬く、温度が上がっても曲がらず、溶けたロウが垂れないという優れた特徴があったそうです。

捕鯨が盛んになり、ヨーロッパでは鯨蝋が蜜蝋(蜂)より安価で使用されたとか。また、鯨蝋は明るさを比較する単位カンデラの起源だそうです。

クジラは油以外も、色々な場面で使用されたそうです。

ヒゲはコルセットとか、ヴァイオリンの弦とか、傘の骨。

筋は、テニスラケットのガットなどに使用されていたらしいです。


いつの時代も燃料物質は戦の原因です。

クジラも人間の利権にご都合主義に振り回されている種であります。






テンプレ騎士世界のマルチバース的な物語の歴史短編

「サガルドア」では、この8話でクロスオーバーしている設定となっています。

ざっくり言うとお酒作るだけの話です。

シードル好きが高じ書いちゃいました。

最近は料理の白ワイン代わりに使っています。(下戸なので飲みきらない)

お時間あれば御覧になってください。


あとがき追加(2023.12.19.)

誤字修正(2023.12.20.)


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