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二−7

「ジャン」


 心配げなリシャールの顔を見ているとクスリと笑みが溢れる。

怖い顔なのに、眉が下がった顔は可愛らしく見えてしまう。

恋人フィルターだろう。

クスクス笑っていると安心したのかリシャールが隣にドカリと座ってくる。


「ダニエルも一緒に行くことになってもいいか? 」

「もちろんだよ。旅は人数が多いほうが楽しいからね。」

「そうか? 俺は・・・お前と二人のほうが良かったけどな。」

「・・・リシャールが言うのかよ。お前の友達じゃん。まあ、おれももうダニエル殿とは友達だけどな!」


そう言うとおれは立ち上がり、様子を伺うようにこちらを見ていたダニエルに手招きした。


「ダニエル殿! こっちこっち。ここ座ってよ。」


おれも二人旅じゃなくなる予感がして、少し残念だったから、リシャールにあたりが強くなってしまったと、自覚があった。

リシャールはいつでも自分の気持ちに素直で真っ直ぐに表現してくれる。

だからおれも、できる限り自分の気持ちを隠さないで表した方がいいんだと、思える様になれたのだ。

まぁ、少しは人目も気にしてほしい時もあるけども。


 そうして、一泊二日の船旅をへて、目的地のバイヨンヌの港へとのんびりと進んで・・・と思ったのだが、ダニエルという人を甘く見ていた。

 彼は根っからのトルバドールだった。

船の上ではずっと演奏だ。

きっとこの船に乗った人たちはラッキーだったに違いない。

だが、おれはもう、いっぱいいっぱいだ。

 難解な旋律に、陽気な笑い上戸のキャラとは対象的な深い精神世界の詩の内容。

確かにダニエル本人の演奏を聞くと、リシャールのアレンジは簡単で分かりやすさがあったかもしれない。

修行? とでもいう位ダニエルの演奏についていくのは全く持って至難の技で、凹むを通り越して、もうなんとでもなれとやけになるほどだった。

 しかも、出身がおれのこの世界に落ちた村、リベラックという事が分かり、村でお世話になった神父様も知人だったようで、すっかりお兄さん気分の距離感のバグったダニエルがおれに構うものだから、リシャールが本格的に拗ね始めたのだ。


「ダニエル。あの、ちょっとリシャールがやばいんスけど。」


 一泊するために上陸し、張られたテントの前では焚き火の前でおれに手取り足取りリュートを指導してくれているダニエルに、哀愁を漂わせながら水辺で水面を眺めている大男、リシャールをチラ見しながら報告する。


「うん。そうだね。知ってる。」

「えぇ?? 拗ねたリシャール、やばいらしいけど、大丈夫? 」

「え。らしいってことは、ジャンは見たことないの? 」

「え、っと。う、うん。だって、おれが居ない時しかそうならないらしいから・・・。」

「わっはっは! なんだよそれ! じゃ、良かったじゃん。見れるよ! オレも見てみたい! 嫉妬で狂うリシャールとやらを! 」

「・・・もぅ、勘弁してよ・・・。オレ絶対嫌だよぉ。」

「くはぁぁぁ。ナニコレ、すっげぇ楽しいなー。」


 頭を抱えるおれを尻目に、体中で喜びを感じているのか、ダニエルはたまらず立ち上がり気持ちを噛み締めている。


ほんとにもうこの人、ヤダ。

ちょっとSっ気強い気がするし。

早くポール達と合流したい。


 そうしてその後は、リシャールも拗ねるを通り越してガウガウとダニエルに噛みつきはじめ、ダニエルはダニエルで、そんなリシャールにおれを餌にして戯れて遊ぶという、疲労度倍増の恥辱を繰り広げられながら、バイヨンヌにたどり着いた。


バイヨンヌの港にはすでにポールたちが着いており、おれたちを出迎えてくれた。


「げぇ。ダニエルじゃん。」


船からおりてきたおれたちを見るなり、ポールとペランが顔をしかめる。


「おいおい、久しぶりの友人にそれはないだろう。ポール、ペラン。久しぶりだな。おや。珍しくルーもいるんだな。」


気まずそうにルーがそっぽを向いている。

おれはダニエルに今回の旅の目的を話していなかったのを思い出した。


「そうそう今回の休暇で、ナバラ王国のパンプローナに行く予定なんだけど、ここでリンゴが結構作られているらしくって、シードルあるんじゃないかって話をしに、バイヨンヌに寄ってみたんだ。」

「へー。シードルねぇ。」

「ルーはシードルの本場ノルマンディーの出身で詳しいだろ?で、ついてきてもらったんだよ。」


話しながらルーを呼び寄せるように手招きしたが、ルーはふるふる首を振ると、無言のまま歩いて先に行くリシャールの横に並ぶと二人で街の方に進み始めた。


「・・・へぇぇ。あの、ルーが、ついてきてくれたんだ。珍し。」

「ダニエルお前なんでここに居るんだよ」


ダニエルは何か言いたげな顔をしていたが、ポールに小突かれ意識をルーからポールに切り替えた様で、ポールの肩に腕を絡みつけている。


「おい、ポール。ナバラ行くならオレも連れて行けよ。」

「は? めんどくせぇ。嫌だよ。リシャールがへそ曲げてんのお前のせいだろ。何したんだよ。あいつへそ曲げると大変なんだぞ。」

「あ、それねぇー。そうなんだよ。ジャンとオレ、同郷でさー。弟みたいで嬉しくって可愛がってたんだけどさ、そしたらリシャールが拗ねちゃって。」

「・・・お前はなんでそう・・・、マジでめんどくせぇ野郎だな。」

「だって!! ポールお前ッ!!」


ダニエルは笑いを堪えられないという様子で口を手で抑えながら心底楽しそうにしている。


「あのリシャールが! あんなに嫉妬するなんて! こんな面白い事ないだろ! 」


・・・おれはこれ以上ダニエルと一緒に居るのが得策だと思えなかったので、急いでリシャールとルーを追いかけることにした。


「おれ、ちょっと行ってくるー! 」

「おい! ジャン! どこ行くんだよ。」

「リシャールとルーの所! 」


ポールに報告してから、リシャールを走って追いかけようと思ったら、ペランが追いかけてきた。


「オレも行く。ジャン、単独行動はするな。」

「でもすぐリシャール達に追いつくよ。」

「それでもだ。お前、ここはアクテヌ公国内とはいえ、国境付近なんだぞ。これからは他国にも渡るんだ。ちゃんと身の安全を確保しながら行動する習慣を付けてくれ。でないと困るのはリシャールだからな。」

「・・・そうか。ごめん。」

「わかったなら、良い。」


 ペランは笑いながら、背を伸ばすと手をおれの頭に載せ、グイッと引っ張り寄せると、拳でゴリゴリとこめかみをしごいた。


「いててて。痛いよ。ペラン。」


 リシャールの近くに居ると言うことは、自分が取引の対象になる場合もあるということだ。

この時代では、領土を持つ者が一様に気をつけなければならないのが、捕虜になることだ。

 戦い以外でも、日常的にかどかわされる危険性がある。

それは女、子どもだけでなく、名のある家を持つ男も対象となるのだ。

身分が分かれば、身代金を目的にさらわれるなんてことは日常的だし、騎士で随従であれば、仲間を餌に脅されることも頻繁にある。

 おれが捕まりでもすれば、リシャールはきっと黙ってはいないだろう。

もちろん、おれもリシャールが捕まったりしたものなら、この命なげうつ覚悟で助けるに決まってる。

が、きっとおれなんかが出る幕もなく、エレノア王妃や、リシャールのお姉さん達が全力で助けてくれるだろうと簡単に想像がつくのだが。

 とにかく、迂闊に行動してはだめだという事をペランに言われたのだ。


 ペランはこの時代の人間にしては珍しく、両サイドを刈り上げにした、いわゆる元の世界でいうモヒカンヘアで、出会った頃は同じ位の背丈位で、髪も普通だったのだが、いつだったかおれに背を追い抜かれた事に気が付き、悔しがり、モヒカンにして髪を立てることで勝とうとした。

それでも勝てないとわかると、普通のソフトモヒカンになったのだが、ファッションセンスのおかしい人物という事になってしまい、そのままになってしまったらしい。

 最近では、あえて奇抜な事をしてみる事にしているらしく、彼とのファッション話はとても楽しいのだ。

なにより、ペランには人の心を和ませるオーラのようなものがあり、安心する。









ペランはモヒカンでした。今後もモヒです。

ペランは心配性ですが、戦においての捕虜はカードなので、気をつけなければいけません。

因みにリシャールの兄アンリの随従騎士ウィリアムも捕虜が転機となり、無名の次男坊から皇帝嫡子アンリの教育係にまで駆け上がっています。

目立てばスターダムにのし上がるチャンスはありますが、同様にカードにされる危険性もはらんできます。

カード自ら捕虜先でもうまく立ち回らなければならず、叩き上げには大変な時代です。

だから、ウィリアム殿はみんなの憧れなのです。



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