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二ー37

クリストフはむくりと起き上がりその場に座ると、パンパンと体についた土を払い口を拭うと、リシャールをキッとした強い目で見つめる。


「今、ピュルテジュネ家と争うなど。ありえませんから。フィリップ様があなたに刺客を出すなど、絶対にしません。」

「・・じゃぁ、誰がやるっていうんだよ。お前らの紋章付けたやつがいたんだぞ。」

「・・・紋章? 刺客がですか? そんな間抜けな刺客が居るんですか? 」


クリストフの問にリシャールがたじろぐ。


「・・・いや、だって転がってた剣にカペー家の紋が・・・。」

「あなた刺客出すときに家紋のついた剣もたせます? 」

「俺は刺客なんかださねえ。そんな事したことねぇんだよ! 必要ねぇからなぁ! 正々堂々とぶちのめす! 」

「正々堂々とぶちのめさずに、隠れてするのが暗殺者、刺客の仕事です。家紋付けた物持ち歩くなんて、罪をなすりつけるために決まっています。」

「・・・そうか、言われてみりゃそうだな。・・・じゃ、誰が刺客なんか出すんだよ。」

「ウチの問題でないのではっきり申し上げさせていただきますが。おそらくアンリ様です。」

「・・・ア、アンリ?? 」

「はい。そうです。あなたの兄上のアンリ様です。半年ほど前、我が城にお越しになったおり、剣が壊れたからと2本ほど持ち帰られました。

 リシャール様になんの恨みがあるのかは知りませんが、フィリップ様が今リシャール様とそのような争いごとを起こすと、アンリ様は嬉しいでしょう。」

「・・・なぜだ?」

「フランドル伯です。フィリップ様の後見となられたフランドル伯タルザス様。 最近当家に熱心に足をお運びです。アンリ様はおそらくそれがお気に召さないのではないでしょうか。」


納得したように頷いたあと、リシャールは少し顔を曇らせる。


「アンリが、俺を・・・。」

「心当たりがお有りのご様子ですね。まぁ、あなたの場合心当たりがなくても人から呪われそうですけどね。」

「・・・お前・・・呪うって・・・。」


そうつぶやいたリシャールは、すこしバツが悪そうな顔をするとバシっと膝に手を置くと、クリストフの顔をまっすぐ見つめる。


「間違いだった。すまない。」


クリストフはその様子をキョトンとして見ると、下を向き肩を揺らし始めた。


「なっ! おい、泣くな。痛いのか? 俺加減したつもりなんだが、ちょっとやりすぎたかもしれねぇ。大丈夫か? 背中か? 壁、ちょっと凹んでんな・・・。お、おい、ほんと、ゴメンな。」


リシャールはそう言いながら急いでクリストフの近くにしゃがみ込み、顔を覗き込んだり壁を触ったりしている。


「す、すいません・・・。くっくっく。か、簡単に信じ過ぎでしょ。」


クリストフは笑っている。

それを見たリシャールはどっしりと床に座り込むと安心した表情で同じ様に笑い、クリストフの頭に手を乗せる。


「悪かったな。どこも痛くないか?・・・顔、擦りむいちまったな。 」


少しビクリと肩を動かし、クリストフは顔を上げる。


「背中は少し痛みますが、壁が木だったので大したことありません。」

「そうか。異変があればすぐ言えよ? 」


リシャールはクリストフの髪をかき乱しながら頭を撫でると、少し離れた場所に移動してゴロリと横になった。

いまだに激しい雨がバタバタと天井を打ち、風が木々を揺らす音がする。


「・・・ルーは、なんであんなむちゃをしたんだろうなぁ。」


リシャールの声が、さみしげに小屋に響いた。


「あなたに、死んでほしくなかったのではないですか?」


クリストフはそう言うと立ち上がり、棚にある布を引っ張り出して床に敷くとそこに座る。

リシャールは一瞬クリストフを見たあと、再び黙って天井を見ている。


「あなたを認めていて、自分には出来ない、あなたにしか出来ない事を成し遂げてほしかった。

だからこそ、あなたに付従う事を神に誓うのではないでしょうか。

それなのにあなたは一時の怒りに身を任せこんな事をしでかしてしまって。死を悼むのと死を理由に暴力に身を任せるのではおはこ違いです。

オレがルー殿の立場だったら、盛大なため息ついてます。」

「・・・そうか。そうだよな。まだまだだな。俺。」

「っふ。 そうかもしれませんが、オレの様なひよっこの言葉を聞き入れてくださるんですからマシな主ですよ。」

「はっは。ひよっこでヒョロガリのな。」

「・・・気にしてるのに・・・。でも今に見ててください。筋肉付けて立派に成長してみせますから! 」


そう言いながら拳をつくりながら腕をもんでいるクリストフをリシャールは肘枕でながめている。


「その顔でムキムキマッチョはちょっと・・・。似合わねえから程々にな。」

「そうかなぁ・・・。まぁ、別にいいですけど。誤解が取れたようなので、オレを開放してください。」

「そうだな。雨が止んだらな。お前、1人でに外出るなよ? 」

「そんなのオレの勝手です。」

「まぁ。そうしたいならそうすりゃいいが、そうすりゃ俺は獣に食いちぎられたお前の屍をフィリップのところまで持っていかなきゃならなくなるだろうな。そうなったら、あいつ、俺の事許すかな。はっは! 許さねぇだろうなぁ。・・・そういや俺、あいつの怒った顔見たことねぇな・・・お前ある? 」

「あるに決まってるじゃないですか。あなたの前だけですよ。そもそもフィリップ様はああ見えて表情豊かな方で幼い頃などクルクルと表情を・・・。」


クリストフは熱弁を始めていると、リシャールの頭がコクリコクリと動いていることに気がついた。

そのうちリシャールの頭はガクンと手から後ろに落ち、そのまま仰向けになって眠ってしまったようだった。

クリストフはため息を付くと自分もゴロリと横になり、静かに寝息を立て始めた。


次の日、クリストフにゆすられて目を覚ましたリシャールは、腹が減ったと言い出し、クリストフに飲み水を作るように指示すると外にでていった。

クリストフは言われるがまま溜まった雨水を蒸留し、近場で食べれそうな草やきのこを取って小屋にもどった。


「おう。お前なかなかやるな。」

「別に、あなたの為にやったわけではありませんから。帰れそうなら帰ろうと思っただけです。そのためにも飲水は必要なので。」

「まぁ、そう焦んなよ。俺がちゃんと帰してやるからよ。とりあえず、腹ごしらえな。」


そう言って腹を満たしたリシャールは、大物の獲物を見かけたと、駆け出していく。



そんな様子で、リシャールが小屋の扉を開けたのは森が薄暗くなった頃だった。


「リシャール様!! 日が暮れてしまったではないですか!! 」

「・・・すまん。 でも、すげぇ大物が狩れたんだぜ! あ、お前、この辺うろつく時気をつけろよ? 血抜きしたから獣が集まんだよ。だから、さすがの俺も夜はちょっと歩けねぇからさ。明日の朝、帰ろうぜ。」

「・・・もう、あなたには期待していません。とりあえず、助けが来るのを待ちます。この小屋にいたらいつか助けが来るはずですから。」

「まぁ、そう怒んなよ。お。お前燻製作ったの? 」

「暇な上に、肉がありますしたから。あ!! ちょっと勝手に!! 」

「んめぇー。え、お前すげえな。これ旨いじゃん。」

「オレ、まだ食ってないのに・・・。」

「ほら、食ってみろよ。うめぇ。」


そう言うとリシャールはヒョイとクリストフの口に燻製肉を放り込む。


「うま。」

「だろー?」

「・・・オレが作ったのに何であなたが自慢するんですか。」

「あっはっは。わりぃわりい。とりあえず、この新しい肉も焼いて食おうぜ。俺腹減ってっさぁ。えっと、お前名前なんだっけ。」

「・・・クリストフ。」

「よし、クリス、皮剥くのやったことあるか? 教えてやるよ。」






リシャールは森に入るとテンションが上がります。

おそらく1人でくまと退治しても全然平気なんではないでしょうか。

サンチョとリシャールに出会ってしまった獣の図を想像すると、ちょっと獣に同情してしまいます。


誤字修正(2024.07.09.)

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