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二ー35 

「フィリップ! ここに居たんだな! 」


ぴりりと張り詰めていた空気を打ち破ったのは叫び声とともに、階段を駆け上がってやってきたオレンジの髪の青年。

ポールはその姿を見るや、座り込んでいた態勢から片膝をついて叫ぶ。


「ジョフロア様! 」

「・・・ポール。話は後だ。 クリストフの居場所がわかったぞ! 」


ジョフロアと呼ばれた青年はポールに一言だけ言葉を投げると、フィリップの肩を掴みながら報告する。


「やはり森か! 」

「ああ。森に詳しい猟師が目星を付けている。今から人手を集めて救出に行く。」

「オレも行く。準備してくる。」


そう言うとフィリップは階段を駆け下りていく。

代わって鉄格子越しのポールの前にジョフロアが同じ様に片膝をつく。


「ポール。今回の兄さんはやり過ぎだ。身内としてオレもできるだけ穏便に話をまとめるように務めるが、攫われたクリストフの容態によっては、ただでは済まないと思ってくれ。」


そう言うとジョフロアはくるりと背を向けてフィリップの後を追いかけていく。


「クリストフ・・・。」


ポールのつぶやきにペランが反応する。


「やはり、前のフリップ殿の戴冠式でリシャールが一度絡んだ事があるあの子か。」

「ああ。そのようだな。確かに記憶に残る子だったが、あんな一瞬で気づくとはな。」

「はは。確かにリシャールはよく鼻が効くからな。」

「笑い事じゃねぇよ。フィリップ様の戴冠前の大事な時に、こんな事件起こしてどうなると思ってるんだあのバカは。」


ロベールが切れた口を痛そうに抑えながら、ペランの手を借り起き上がる。


「・・・バカは、死んでも治らないって、言うからな・・・。」

「ロベール。すまなかったな。」

「全くだぜ。まぁそうは言っても、ほぼ演技だからな。こんなの蚊に刺されたくらいのもんだ。」


謝るポールにヘラリと笑うロベールの腹をペランが軽く押す。


「いいいっっっ!!」

「はっは。痛いんじゃねぇかよ。まぁ骨まではやられてなさそうだな。」

「あったりまえだろ。誰だと思ってるんだ。」


顔をしかめて腹をさすっていたロベールだが、一つため息を付くと真剣な顔つきをした。


「・・・しかし、オレはすっかりリシャール様を狙ったのはフィリップ殿だと思い込んでいたんだが、違うのか?」

「違う・・・。」


ポールが少し言いづらそうにしているのを、ロベールはじっと待つ。


「・・・1番嫌な結果だのアンリ様だ・・・。残念だ。ここに来て確信したよ。」


ロベールは驚いた顔をして、すぐさま頭を抱える。


「そうか。・・・アンリ様か・・・。アンリ様の大口支援者のフランドル伯ダルザス殿は、フィリップ殿にの後継人に任命されたのだろう? 」


フランドル伯タルザスは、ランスから北に3日ほどの距離にあるゲントという街に居住を持ち、勢力を拡大し始め北部での権力の均衡を脅かしつつある人物だ。

以前アンリとリシャールがピュルテジュネ王に反旗を翻したときも、アンリの支援をしていた。


「ああ。フランドル伯はおそらく、アンリ様からフィリップ殿に乗り換えるつもりなのだろう。フィリップ殿と自分の姪との婚姻を根回ししているらしいとの噂もある。

 アンリ様のとって、リシャールとフィリップ殿が邪魔な存在だ、ということだな。うまく行ってリシャールが暗殺されたとして、犯人をフィリップ殿にすれば、フィリップ殿の王位継承が揺らぐ。彼の地盤は今不確かだからな。」

「でも、なんでアンリ様だと・・・。」

「リシャールが一度目に狙われた時に、バスク語を話す怪しい人物がいたと言う情報があったんだ。そんな時ルーが、アンリ様の側にバスク語を話す騎士がいたが、そいつを、パンプローナで見かけたらしいんだ。

ナバラ国でバスク語を話すやつなんて大勢いるし、アンリ様の側にいた騎士も、里帰りかもしれない。それでもルーが、なんとなく気になるからと言って一人で調べに行ったら、峠での襲撃だ。」

「・・・そうか・・・。」

「どうも最近のアンリ様はおかしい。やたらとトーナメントだ、なんだと開催して資金を湯水の如く使っている。アクテヌ公国で評判を落とすリシャールと対象的に、アンリ様の諸国公爵達の人気が高い。おそらく公爵たちに良いように乗せられているのだろう。そのせいで資金源のフランドル伯には愛想をつかれ始めたのだろうがな。」

「お目付け役のウィリアム殿が修行の旅とかでいないしなぁ。いたらきっと豪遊することは許されんだろう。」

「そのウィリアム殿だが、峠におられたよ。」

「襲撃一派の中にか? 」

「いや。ウィリアム殿は襲撃の件は知らされていないようだ。偶然居合わせたらしい。多分知っていたら止めていただろうよ。」

「そんな偶然あるか? 」

「オレもそう思ったが、襲撃を知らせてくれたのは他でもないウィリアム殿だ。そして・・・ルーを看取ってくださった。」

「・・・そうか。」

「うん・・・。それでその時、気になる死体があった。」

「死体? 襲撃犯のだろ? 」

「うん。顔が判別出来ないほど潰れていた。多分そいつが実行役の騎士だったんだろう。リシャールに悟られるのを恐れたウィリアム殿の仕業だと。」

「なるほど。・・・しかし、そんな近しいやつを襲撃に使うかね。」

「だから、最近のアンリ様はおかしいと言ってるんだよ。」

「・・・バレたのかな。」

「かもなぁ。暗殺くらい、したくなるよなぁ。」


長く話したせいで疲れたのだろう。ロベールはゴロリと眠るペランの横に寝転がるとヤレヤレといった表情をする。


「つくづく、バカだよなぁ。オレ達の主は。」

「口に出すな。気が重くなる。」


ポールはロベールに畳んで置いてあった布をバサリと投げつける。


「はっは! 死んでも治らねぇからなぁ。今回も大丈夫か? クリストフとか言う人物。印象に残るくらい目を引くんだろう? リシャール様が色仕掛けに乗らなかったのしても、掘られましたって嘘つかれたら、言い逃れ出来ないのではないのか? 」

「はぁ。毎度毎度の事だがなぁ。だが。オレの勝手な印象だが、クリストフ殿はその様な事はしなそうだがなぁ。」

「・・・ふぅん。」

「お前、もう寝ろ。見えんかもしれんが、ひどい顔してるぞ。」

「あー。嫁にまた叱られるんだろうなぁ。子どもたちも、お父さんだいじょうぶ・・・って・・・。」


ロベールがヘラヘラと笑いながら眠りにつく。


「バカなヤツ程、ほっとけねぇのかねぇ。そんなオレ達も、大概バカか。・・・・お前もそう云うだろう? なぁ、ルー・・・。」


静かな部屋に響くポールのつぶやきは、高い天窓から外に吸い込まれるように消えていった。




クリストフとジョフロアは

『《第一幕》テンプレ転移した世界で全裸から目指す騎士ライフ』の 

35話と36話あたりで登場のフィリップの友人です。

クリストフ君はフィリップ君と同い年で

ジョフロワ君はフィリップ君の2歳年上でリシャールの弟です。

ジョフロワのモデルとなっている人物に5歳ほど年齢操作して若返らせてます。

登場から2年。成長期の彼らも成長しました。

リシャール兄はクリストフを簡単に担いでしまいましたけどね。


本文修正、あとがき追加(2024.06.25.)

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