二ー31
「マルマンドに? 」
ボルドーの城に帰るとウィルとダニエルと分かれて執務室に向かわされ、ディーターがコリンヌ手製のティザーヌ*¹を差し出しながら、現状報告をしてくれていた。
「はい。建設中の城壁の工事が遅れているとの事でして、ランスからそのままマルマンドに直行したとのことです。」
「そっか。じゃ、おれもマルマンドに行く準備しなきゃな。マルマンドはまだ野営みたいなもんだろ? 結構準備しなきゃだよね。」
久々のティザーヌを堪能しながら気楽に話すと、ディーターが少し低い声で言いにくそうに答えた。
「実は、ジャン殿にはボルドーに残って近衛長代理をするようにと。ロベール様帰還後もその手伝いをせよとの命令がでています。」
「え? なんで? ロベールになんかあったの? ポールの指示なんでしょ? 」
「いえ、リシャール様、直々の命令です。」
「・・・なん、それって、おれに来るなって・・・事なの?」
「簡潔に言うと、そうなのですが・・・。私も詳しいことは聞いていませんのでわからないのですが、ポール様の手紙では、リシャール様の様子がおかしいという事で・・・。」
「じゃあ、なおさらおれが・・・」
「どうやら、そこが問題のようで。」
「おれ?」
「ええ。ジャン殿が安定していないマルマンドに来ることに、リシャール様は不安を感じているのではないかと、手紙には書いてありました。」
「別に、今更そんな不安を感じるようなことなくない? 単部隊だって任してもらったこともあるし。」
「ええそれはもちろん、ジャン殿の能力がどうこうという話ではなく、ここからは私の推測ですが、ルー様の件も関係あるのではないでしょうか。」
目の前でかけがえのない仲間を亡くしたのだ。様子がおかしくなることもわかる。まして、目の前で、リシャールの命を救うために。
だから、すぐにでも逢いに行きたいのに。
「どうして・・・。」
愕然として、ソファーの背に体を任せてため息をつく。
一度だけ見たことのある、他人を排除した、自分の領域に誰も踏み込ませない、リシャールの冷たい目を思い出す。
そう、あれはルーアンでのピュルテジュネ王の前で見せた顔だ。
「・・・それとは別に、ランスでのフィリップ様の戴冠式は延期になったそうです。」
「え?? 」
「詳細はわかりませんが、フィリップ様の体調が芳しくないという事です。」
「そんな・・・延期って・・・。戴冠式とか、相当準備いるし、リシャールみたいに賓客だって何人も呼んでるだろうし・・・。結構大事だよね。フィリップ様、重病なのかな? 」
「戴冠式自体は延期という事で、中止ではないみたいですけど、どうなのでしょうね・・・。」
「・・・。」
なんだか、もやもやする。
こんな気持ちでここボルドーでリシャールを待つことなんて、出来ない。
しかし・・・。
「・・・おれ、マルマンド行ったら、命令違反だよね・・・。」
「そうですね・・・。リシャール様ご自身からこういう形で命令を発する事は少ないですから。」
「・・・そうだよね・・・。」
戦闘中意外のリシャールは鷹揚で、細かな事は全てポールやディーターなどの側近の者達が采配をしている。
この様に人事について命令を発する事は異例だ。
それを考えると、とりあえずはランスから帰って来るロベールを待つしかない。
恋人だからといって、リシャールの命に背くなどという越権行為など、あってはならない。
それくらいわきまえているつもりだ。
ロベールから状況を聞いて、それからどうするか・・・。
ざわざわと胸騒ぎがする中、まるで足枷をつけられたような気持ちで再び口にするティザーヌは、ぬるく、香も感じられない飲み物と化していた。
体調崩しまして、文字数すくなくなりました。
申し訳ないです。
でも、とりあえずいつもの時間に間に合う様頑張りました。ギリギリです。3分前です。
誰か褒めて。
なんて、いつもの半分しか書けなかったクセにおこがましいですね。えへへ。
*¹ティザーヌ お湯にハーブの香りをつけた飲み物(二ー5参照)