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二ー24

初夏の乾いた風が土埃を舞い上げ、パンプローナの城の中にある演習場はいくぶん涼しい。

その中央、眼の前のジョーンは訓練用の防具をつけ、さも楽しみだと言わんばかりに軽快にその場でジャンプしている。

そして何故かその相手をする予定のおれは、彼女と同じ様に防具をつけ、訓練用の剣を渡されながらため息をついた。


演習場にはサンチョとベランジェール、そしてダニエル、そして城内の騎士数名が雑談をしている。


数刻前、ナバラの王子と姫に挨拶を終えたジョーンに、自己紹介と共にルーの顛末を報告した。ジョーンはやはりルーとも面識があり、話を涙を流しながら聞いてくれた。もちろん、おれも涙を流しながら報告していたのだが。しかしその後、どういう流れでそうなったのか、何故か涙を流しながらついでに汗も流すかと、二人で手合わせすることになったのだ。


流石リシャールの妹だ。

自分流れに自然に話を持っていく。

もしかしたら自分の兄の恋人と言うことで、試されているのだろうか。

そう考えるととても断れることなど出来ず、自分より20センチは背の低いであろう少女と対峙しているのだ。


この場合、負けたほうがいいのだろうか。

しかし、彼女がリシャールの妹という事は、忘れては行けない重要なポイントだ。

性格も良く似ているということだったので、おそらく負けず嫌いなはずなのだ。

それでいて、相手に手を抜かれたとわかると、憤慨するだろう。

ここ数年の実践で、剣の腕も随分と上がっている自覚がある。

力も随分とついた。

リュートの演奏の練習などもあるので、リシャールの様に毎日鍛錬で剣を振るっているわけでは無いが、そこそこ腕には自信がある。

わからないように手を抜いて、自然に、少し油断した、くらいの感じで。


審判を買って出てくれたサンチョが手を上げる。


開始の合図だ。


眼の前の少女の目の色が深い色に変わる。それと同時に自然に構えるその姿に、頭が真っ白になる。


隙がない。


躊躇する気持ちが読まれたのか、ジョーンが「くっ」と笑う。

感じたことのない羞恥に襲われ、安易に突き出した剣先はいなされ体制を崩した一瞬に手首に一撃を喰らう。

呆然と立ち尽くしたおれの前に、ジョーンが再び構える。


ああ。コレが舐めたプレーと言うやつか。完全にジョーンの事を舐めていたという事だ。


今度は自分に対して恥ずかしくなると同時に、心の奥で燃えるものを感じる。

純粋に、今この時間にワクワクする。

眼の前で剣を構えるジョーンがニヤリと笑う。


そう。その顔。たしかにリシャールにそっくりだ。


自然と体がほぐれてくる。

そうして無心に剣を交える事数刻。


試合としてははじめの1戦で勝敗も決まっているので、審判は不要とサンチョに伝えたが、ベランジェールと共にその場に残ってくれている。

剣技としてもジョーンの技は卓越しており、城内の騎士もしばらく見ていたが、いつの間にか彼らも各自鍛錬を始めていた。

一汗どころか十分に汗をかいた所で、ジョーンが剣を下ろす。


「そろそろ、良いか? ジャン。君がリシャール兄様の側にいる理由も良くわかったし、流石に疲れたな。」

「も、申し訳ございません! 旅の疲れもありましょうに。無理をさせてしまいました。 」

「うん。まぁそうだね。でも、ルーの弔いにはこれが一番しっくり来る気がしてね。 私も旅帰りのルーを捕まえて手合わせをせがんだ思い出もある。 ジャンの剣筋にはルーを思い出させる何かがあるし、また、機会があれば手合わせをお願いしたいよ。」

「はい! ジョーン様」


ジョーンは若々しく美しく、ベランジェールから布を受け取り、汗を拭く姿も絵になった。


「ジョーン様、滞在中、我々とも手合わせお願いいたしたく存じます。よろしいですか? 」


パンプローナの騎士達がここぞとばかりに臆することなくジョーンに詰め寄る。

ジョーンは「ああ。構わない。」と屈託なく笑うと、騎士たちが子どもの様に喜んでいる。

まだ年若い少女であるにも関わらず、彼女も人を惹きつけ心を簡単につかんでしまう。エレノア王妃やリシャールのように、王としての気質を持って生まれた存在なのだろう。


「ジョーン様。汗を流されてはいかがですか。案内いたします。」


ベランジェールにそう言われ、ジョーンを連れて演習場から出てゆく。

残された男どもは興奮冷めやらぬ状態でジョーンの剣技の見事さや動きの美しさを褒めていた。

なんだか自分身内を褒められている様な気持ちになりながら、退屈そうにしていたダニエルに話しかけた。


「ジョーン様、かっこいいね。エレノア様やリシャールににてるって言われるのも分かるよ。」

「ああ。そうだね。見ない間に随分と大人になられたよ。まぁ、もう騎士として一人前なんだから、当然か。あとは王妃として今後どう振る舞うかだな。いつまでも騎士のままでもいられまい。」


確かに、この世界では妾の子はただの子。

王妃の腹から産まれねば、嫡子とは認めてもらえず、嫡子に恵まれなければ、相続人が居ないという理由で領地を近隣の王に奪われたり、教会に寄進させられたりと厳しい状況となる。

ジョーンにシチリアの未来がかかっていると考えると、確かにダニエルの言う通りだ。


「ナバラ王も情勢の見極めを誤るまいと子どもたちの婚姻には慎重なようだが、それが裏目に出る場合もある。まぁ。オレには関係ない話だけどな。トルバドールにとっては今の恋愛を自由に謳歌するのが一番ってもんだ。なぁ、サンチョ殿。」


ダニエルが陽気に歌を織り交ぜた様な美しい声で側で話を真剣な表情で聞いていたサンチョに微笑みかける。

こうなるともうサンチョはダニエルの言われるがままだ。

赤い顔をしたサンチョを満足気に見つめながらダニエルが催促する。


「さて。今日も作曲の仕事の手伝いをしてくれるんだろ? その前に、腹ごしらえしなきゃな。ほら、ジャンも゙行くぞ。」


まるでこの城の主の様に仕切るとサンチョの大きな体に体当たりするダニエルを見ながら、トルバドールの恋愛の結末に思いを馳せかけ、急いで封印した。


まだ。

もう少し現実を見ないで、おれも謳歌していたい。

その為にはまだ、封印したままで・・・。






名前間違えちゃった。

ずっとショーンと書いていましたが、ジョーンでした。


ジョーン。さすがリシャールの妹って感じです。製作側としても。


ベレンガリアを゙ベランジェールに変更、ショーンをジョーンに変更(2024.04.12.)


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