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二−22

ウィリアムと別れ数週間がたった。

その間、パンプローナの街では牛追いという祭りが開催され、普段は大人しいサンチョが闘牛の時の様に血をたぎらせていた。

そんな最近のサンチョの側にはダニエルが必ず引っ付いている。

かといって彼らがカップルになったのかと言うと、そうでもないらしい。

なんだか、おれはナバラ兄妹の恋愛相談を何故か受けるようになってしまっていて彼らの事は全てと言っていいほど把握しているのだ。

しかしサンチョに相談されても、いまいち判らないことが多いので、結局はベランジェールに聞きに行き、三人で恋愛の話をああだこうだとしているのが現実なのだが。

その点おれたちとは違うダニエルは、流石トルバドールというべきか、肝心な所になると煙に巻くようにわからなくなる。

以前居た宮廷での出来事などを考えると、浮世を流すダニエルはサンチョに対してはなんとなく一線を引いているような印象があり、態度や発言には好意を感じる場面が多いのに、決定打にかけるのだ。

そんなダニエルにおれたち3人は振り回されており、むしろそれを楽しんでいる感もある。

そして、音楽に関してもやはり素晴らしいのだ。

以前リシャールに教えてもらった曲は完成されており、聞かせてもらった時は感動して言葉にならなかった。

あまりの才能の違いに落ち込むどころか、別次元過ぎて気にならない。

そしてそれをひけらかすこともない自由気ままなダニエルはやはり人を魅了するのだ。




「あら。ダニエル。お買い物?」

「やあ。お嬢さん。今日もキレイだね。君との時間を過ごしたいけど残念だよ。用事があるんだ。」

「うふふ。ダニエルったら、いつもそう言ってくれるけど、いつになったら来てくれるのよ。」

「こう見えてトルバドールっていうのは忙しいんだよ。それじゃ、またね。」

「隣のお兄さんも、今度一緒に来てね。」


そう言って手を振る女性に二人で笑顔で手を振る。

パンプローナの街に降りると決まってこの様なやり取りになるので、なれたものだ。

リュートの弦を求めに街に出ると、皆気軽に話しかけてくる。

数週間前に来たばかりとは思えないほどだ。


「お前、演奏もオレのお陰で随分上達したけど、女の扱いも随分なれたな。」

「そう? ダニエルが居ないと多分何にも出来ないけど。」

「いよいよ脱童貞か? オレが居ない時に引っ掛けてみる気か? しかし、お前の相手した奴は男女問わずリシャールに殺されそうだけどな。」

「・・・童貞童貞うっさいな。おれが別に気にしてねぇし必要に感じてないんだから、いいじゃねぇか。」

「おいおい。何を言っているんだ。お前男ならなぁ・・・」

「ごほん、げほん、がは!! がは!!」


後ろで物言わぬ壁の様にしていたサンチョが突然咳き込み出した。

外套のフードを深く被りナバラの王子サンチョであることを隠そうとしているのだろうが、街の皆にはとうにバレている。

こんなに体格に恵まれた人物など、そうそう居たものではない。

それに何故か気が付かないサンチョなのだ。

サンチョ王子がお忍びで街におりてきて、おれたちは彼の用心棒だと、街の人たちは思っているのだが、サンチョはオレたちの用心棒のつもりでいる。

サンチョ王子は国の人たちに愛されているのだな、と感じることが多い。


「・・・もう一人童貞がいるか。」


意地悪な顔をしながらダニエルがサ咳き込んだ後喉を抑えていたンチョに視線を向けると、彼は慌てて手を大きく振り否定のポーズをすると裏返った声を出す。


「!?な! わ、私は!! 何も!!」

「・・・その反応、何だ。サンチョ王子は経験済みだぜ。ジャン残念だな。」

「お前、おれと一緒にするなんて、いくらなんでも失礼過ぎるだろ。王子でありナバラの王位継承者だぞ。」

「ははは。そりゃそうだよな。いくら情勢が厳しくて婚姻が遅れているとはいえ、ちゃんと機能するか確認しねえとだもんなぁ」

「うわ。ダニエル珍しく生々しい事言ってるな。そんな確認なんてするものなの? 」

「オレは王族じゃないから知らねえけど、どの道、正当な婚姻を結んだ妻以外に産ませた子供は継承者にはならないからな。」

「あ・・・。」


そう言われボルドーに居る幼いフィルの顔が浮かぶ。

リシャールの子どもだが、正式な婚姻もしていない状態でもうけたフィルは嫡子としては認めてもらえないのだ。

リシャールの嫡子として子どもを認めらてもらえるのは、婚約者のアデルだけなのだ。


「わ、わたしはその、自ら進んでというわけではなく・・・。」


サンチョが懸命に言い訳をしている。

そんなサンチョにダニエルは微笑みかける。


「その歳まで童貞って方が心配だろ。むしろ安心したよ。お子はなせたですか? 」

「それは、その・・・。まぁ。」

「そうか。そりゃ、ますます良かった。なぁ。ジャン。」


そう話を振られて適当に返事はしたが、なんだか気まずい空気のなか用事を済ませ、早々に城に帰るかと話をしていると、街の城門に賑やかな1団が見えた。

すぐに動いたのはサンチョだった。


「あれは、アルタヴィッラの家紋だな。シチリアの使者ではないかな? 」

サンチョはずんずんと城門へと歩いてゆく。

それに急いでついて行くと、門兵がサンチョに気が付き声を掛ける。


「サンチョ様。ちょうど報告に行こうとしておりました所です! シチリアより使者が参っております。確認も済んでおりますので、これから城内へ案内いたします。」

「ああ。」


そう言うと、サンチョはチラリとシチリアの使者を確認すると、コクリと頷く。

シチリアの使者達は先触れだろう。

総勢7名程度で、皆揃いの出で立ちだが、様々な人種で構成されてた。


「私が案内しよう。」


サンチョがそう切り出した。


「え? よろしいのですか?」

「構わぬ。」


そう言い一団の前にゆくと、一礼した。










くっっ。

ギリギリ間に合いました。

なんだか下ネタなセリフが多くて申し訳ありません。


ベレンガリアを゙ベランジェールに変更(2024.04.12.)


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