二ー21
次の日。
ウィリアムは旅を切り上げルーアンに帰るとの事らしいかったが、パンプローナまで送ってくれると言うので、その好意に甘えることにした。
道すがら、ウィリアムはルーの話をしてくれた。
「随分前の話だが、一度、ルーを誘ったことがあるんだ。」
「え。リシャールから、アンリ様の随従にしようとしたって事?」
「ああ。まぁ、結果的にはそうなるかな。アンリ様と私と共に、各地のトーナメントに参加しないか、と誘ったんだ。そしたらルーの奴、なんて言ったと思う?」
「うーん。断ったんだろうなとは、思うんですけど。でも、ルーはウィリアム殿の事大好きだからな。行きたいけど、辞めておきますとかですか?」
「ははは。好かれていたとは、嬉しいな。しかし、彼は即答だったよ。アイドルなんてやだね。っとね。」
「アイドル?*¹」
耳を疑った。
この時代にアイドルという言葉があるというのか?
それとも翻訳機能で変換されているだけなのだろうか。
「手厳しいよなぁ。彼に言われて初めて気がついたよ。崇拝対象となれという事が、ピュルテジュネ王がアンリ様と私に求めていた物だったのだとね。」
「・・・崇拝対象。」
今度は、崇拝対象と変化していた。
要は、アンリ様の金髪碧眼のアイドル的ビジュアルとウィリアム殿の騎士としての人気を使い、各地で宣伝活動してるって事なのかもしれない。
ピュルテジュネ王の冷ややかな瞳を思い出して、ゾクリとした。
「しかし、土地をもたない我々にはピュルテジュネ王の援助の元で各地修行の旅が出来るのだ。旨味はあるだろう。そう言うと、オレはピュルテジュネ王なんてしらねぇ。と、返ってきたんだ。」
ウィリアムは少し悲しそうに笑った。
「『オレはこう見えてもリシャールの事、尊敬してるし、世界一かっこいいと思ってる。ずっと、あいつの横に並んでられたらいいなとは思ってる。』・・・と。」
いつまでもメソメソしていてもしょうがないと、思うのだけど。
ウィリアム殿の言葉が自然とルーのセリフとして脳の中で再生される。
そんな事を言われたら、涙がポロポロとこぼれて止まらなくなる。
「すまない。どうしても、この言葉をリシャール様に伝えて欲しくてな。」
「・・・わかりました。伝えます。そしておれも、リシャールの横に並べられるよう、がんばります。」
「私も、アンリ様を、しっかりとお支えいたすつもりだ。次は、いつ会えるかは分からないが、リシャール様の横には君が必要だ。ピュルテジュネ家を支える仲間として、君にも期待しているよ。互いにベストを尽くそう。」
なんだか体育会系な先生の様なウィリアム殿のセリフに少し笑いそうになる。
ルーは幸せだ。
憧れの騎士と主に看取られたのだから。
一介の戦士の殆どはこの峠で亡くなった者たちのように、誰にも看取られる事無く墓も遺品も無く、ただの戦死者数として認識され消えていくだけなのだから。
ほうっと深く息を吐き出し、大きく息を吸うと自然と顔が上を向く。
きっと、リシャールも、同じ空を見ているのではないか。
そんな事を思いながら見上げる空は、ルーの瞳の様な碧空色で、雲一つ無くどこまでも拡がっていた。
仕事が忙しくいつもの半分しか書けませんでした。すいません。
そしてバージョン変わって上げ方わからん
アイドルの語源はラテン語っぽいです。
参考
*¹
https://www.etymonline.com/jp/word/idolatry(2024.03.08.観覧)
参考追加(2024.03.19.)




