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二ー18

書斎のテーブルに椅子を並べ、二人向き合って座ると、ベランジェールが嬉しそうに話し始める。


「ジョーン様との出会いは、私が10歳でのときでした。パンプローナで開催されたトーナメントに、リシャール様と、ジョーン様がお越しになったの。」

「えーっと。まさかとは思うけど、ジョーン様トーナメントには参加しないよね? 」

「流石に無理ですわね。でも、年少者の部というものがありまして、それに参加されましたわ。剣技の腕前は8歳とは思えないほどでした。同年代の者は皆太刀打ち出来ずに、あっさりと優勝なさいました。それで、その後・・・ふふふ。」


ベランジェールは我慢出来なくなって、思い出し笑いを始める。


「失礼。最初はとっても驚きましたけど、後から思い出すとジョーン様らしくって・・・。あのね、その大会の貴賓席にいた大きな兄上を見つけて、『おい。クマ! 私と対戦しろ! 』と、挑んで来られて。私が止めましたのよ。」

「えぇぇぇ。なんか、リシャールの妹っぽさが随所に感じられるエピソードだね・・・。」

「その時は、なんて横暴な王子なのかしらと、思っていたのだけど、その後の祝賀会で、ジョーン様がドレスを着て参加していらしたのを見て、姫だったのか、と驚きました。」


外が少しづつ暗くなり始めた頃合いだったので、使用人がやってきて室内にロウソクが灯され、尚且つおれが好きだと知っていて、温かいお茶をだしてくれる。


「兄上たちもすぐにこちらに来ると思うから、兄上達の分も用意してくれるかしら。」


ベランジェールのこの気配りは素晴らしく、使用人にも丁寧に接する姿勢は非の打ち所のない立派な姫だ。

その姫がリシャールと瓜二つという、ジョーンに恋をしているのだ、やはり気になる。


「ベランジェール様は、ジョーン様のどこが好きになったんですか? 」


使用人が下がるのを見計らって聞いてみる。


「うーん。そうですねぇ。・・・ジャン殿はリシャール様のどこがお好きなの? 」


ベランジェールは恥ずかしそうに少し悩むと、まっすぐな瞳で質問してきた。


「え??り、リシャールの?? んー。 そうだなぁ。」


思い出すのは初めて合った日の夜。

教会から脱走してきたリシャールに鉢合わせ、財布代わりに連れて行かれた日だ。


「おれも最初に出会った時のリシャールって、怖い顔でぶっきらぼうで、すっごく印象悪かったんだ。だけど、一緒に泊まった宿で詩を歌ってくれたんだけど、それが馬鹿みたいにカッコよくってさ。それでいて優しい声と笑顔がキレイで・・・。」


そしてその夜そのまま二人、夜明けまで互いの欲を吐き出して・・・。


そこまで思い出してしまい、耳に火がついたかのように熱くなり、その熱が顔中に広がるのを感じて思わず手で顔を扇ぎながらごまかしてみる。


「や、やっぱり、かっこいい所かな! 」

「へぇぇぇ。 そうですか。私も、ジョーン様のかっこいい所が好き・・・。ですね。でも、無邪気で可愛らしい所もあって、自分の欲望に素直なところなんかも、魅力的で。」

「うん。うん。分かる分かる。」


自分の欲望に素直と他人に言わしめるあたり、やはり二人は良く似ているのだろう。


大きく頷いて聞いていると、ベランジェールが両手を差し伸べてくる。

思わず手を差し出すと、ギュッと握られ、まっすぐに見つめてくる。


「ジャン殿。お願いがありますの。聞いていただけるかしら。」


こんな美しい姫にこうしてお願いされて果たして断れる人間がいるだろうか。


「貴方様の願いは、全て聞き、この身を捧げましょう。」


少し、気取ったダニネルの真似をして、精一杯カッコつけてみる。


「ふふふ。流石、ジャン殿はトルバドールですわね。悪い人。リシャール様にその身は捧げていらっしゃるくせに。」

「これは友の証としてです。・・・それとも私の独りよがりでしたか?」


ここ何年かで培った貴族への騎士の振る舞いは随分と板についたはずだが、彼女に通用するかわからない。

けれど、友の証という言葉は本心だ。


「・・・友。嬉しい。それでは、私達は晴れて友人になった、という事ですわね。それでは、ここに盟友と、お誓いいたしましょう。私の事は、ベランジェール。と呼んでくださいね。」


盟友。

なんだかかっこいい響きで、恥ずかしい気もするが、ベランジェールの真剣な表情を見ていると、愛おしさが沸き起こってくる。

友人というより、妹って、こんな感じなのだろうかと考えてしまう。


「わかりました。では、ベランジェール。お願い事とは? 」


握った手のひらがギュッとさらに強く握られ、顔を赤らめたベランジェールが恥ずかしそうにうつむく。


「ジョーン様がここに来られたら、思いを打ち明けてしまおうかと思っていますの。ジャン。見届けてくださらないかしら。」

「・・・うん。わかった。それまで、ナバラに滞在して欲しい、という事だね。」


握られた手をしっかりと握り返すと、ベランジェールが顔を上げて微笑む。

可愛らしい少女の微笑みだ。

ボルドーからやって来るロベールには悪いが、姫のたっての願いだと言い、少し滞在を延ばして貰いおう。


二人でにこにこと笑っていると、サンチョがやってきて部屋入るなり大きな声で叫んだ。


「お。おい。何をしているんだ! 」


焦るサンチョに、ベランジェールはキラキラとした顔を向ける。


「ジャンと新友になりましたの! 」

「し、親友に? し、しかしジャン殿は男ではないか? 」

「あら。おかしな事を仰っしゃる兄上ね。恋に男女の垣根がないのなら、友情も同じでしょう? 」


図星を突かれて顔を赤くして慌てるサンチョの後ろから、ダニエルが笑いながら手を叩いている。


「おめでとうございます。ベランジェール様。ジャンは友人枠としてはもってこいの人物ですよ。恋人枠にするには、ライバルのリシャールがジャンに執着してるからきっと大変でしょうからね。」

「リシャール様の敵になるなんて、恐ろしい事言わないでください。あの方に勝てる人物なんて、ここにいるジャンくらいでしょう? 」

「もう。辞めてよ。今はおれとリシャールの話はいいだろう? 」

「あら。ジャン。照れていますの? ふふふ。赤い顔して。お兄様と同じ顔をしてますわね。」

「ベランジェール! 」


サンチョが再び大きな声を出した所で、騎士の者らしい、強い口調での報告が入る。


「サンチョ王子。よろしいですか? 」


サンチョは「コホン」と咳払いをすると、居住まいを正して騎士に振り返る。


「なんだ。」

「サンチョ王子に急ぎ報告があると、門外に騎士が1名転がり込んでまいりました。日も落ちたので、明日にせよと申すのに、断固として今すぐ報告させろと騒ぎはじめまして。」

「どんな奴だ。」

「は。かの大騎士、ウィリアム殿の名を語っておるらしいのですが、会ったことが有る者がこちらに居らず・・・。」

「え? ウィリアム殿? 」


意外な名前に思わず声に出して反応してしまい、報告をしていた騎士が「はい」と返事をする。

ウィリアム殿とは以前会ったことがあった。

数年前ボルドーでクリスマス宮廷を開いたおり、主賓客として招いたリシャールの兄アンリの随従騎士として付いていた人物だ。

ここ数年程、トーナメント行脚をしているらしく、更に名声が各地に拡がり大騎士ウィリアムの冒険と題して詩にするトルバドールもいるらしい。


サンチョが「それで?」と報告を促すと騎士は再び口を開く。


「その者が、明日まで城に入れぬなら、ジャン殿に今すぐ会わせてくれと主張しておりまして。が、ジャン殿をお守りせよと仰せつかっている手前、それも承諾出来ず。如何したものかとご相談に伺いました。」

「・・・ふむ。」


悩む様子で唸るサンチョの声に綺麗な声が重なる。


「オレが行こう。」


ダニエル声だ。

それをサンチョが慌てて止める。


「刺客かもしれないんだぞ? 」

「だが、今ジャンを連れて行くわけには行かないだろう。リシャールから預かってる命だ。下手すりゃ国益問題だ。」

「しかし。」

「オレはウィリアム殿と一時期同じ城に居た間柄だ。一目見れば分かる程度に接点もある。大丈夫だよ。」

「では、私も一緒に行こう。剣技の苦手な君では何かあったとしても対応出来ないだろう。」


そう言うサンチョの肩をダニエルは笑いながら叩く。


「王子がトルバドールの護衛なんて聞いたことねぇよ。あんたはオレたちを信じてどっしりと構えてなよ。じゃ、行ってくる。」


ダニエルの言った「おれたち」という言葉は、王族と自分たちとの隔たりを線引したようなニュアンスで、胸がチクリと傷んだ。




まずい。0.5フラグがまた出てしまった。コレは書きそびれた初夜の事ですからね。書く時間が取れたら書くかも知れませんね。

そんなことより相関図のほうが急務か。

懐かしい名前が16話から数名出ていますものね。


※人物紹介を一番最初のページ(第1部分)に投稿しました。こいつ誰だっけ、ってなったら見てください。(2024.03.04.後書き追加)


ベレンガリアを゙ベランジェールに変更、ショーンをジョーンに変更(2024.04.12.)

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