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二ー14 レホネオ ※おまけ NO1.

 「手の上で転がされる」というのは、こういう事を言うのではないだろうか。

ベランジェールの作戦に乗せられているような気がするのは気の所為ではないだろう。

なるほど。

リシャールやジョーンがベランジェールの言うことを聞くのだと、以前ボルドーの執務室でディーターから聞いた話を思い出し、妙に納得する。

サンチョの特訓だと息巻いていたリシャールが、いつの間にか鍛錬場で雄牛の登場を待っているのだから。


眼の前には馬に乗ったリシャールとルーが円形の広場へと進み出ている。

柵の周りには多くの人たちが集まり始め、歓声もどんどん大きくなっていった。



数分前、気が合う馬を選べと、厩に案内された。


ふたりが乗る騎馬はナバラで特別に訓練されたアンダルシアンという馬らしい。

リシャールはいつものことだが、珍しくルーも興奮しながら馬を撫で回していた。

アンダルシアンという馬は背が高く胸も厚くどっしりとして、鋭い角を持つ大きな雄牛と並んでも迫力は負けていない。

それでいて軽快にステップを踏み、ウェーブのかかった長いたてがみと尻尾を揺らしながら機敏に動く姿が美しいとても馬だ。


「まぁ、俺のラトロアと比べれば劣るけどな。」


コートをバサリとおれに投げつけながら白いアンダルシアンにリシャールが乗馬する。


「そうだな。オレのヴィランティフのほうがいい。」


ルーもバザリとコートを地面に落とし、黒いアンダルシアンに乗馬する。


地面のルーのコートをひらいながら、二人に向けて応援の言葉をかけようと口を開きかけた所で、リシャールが不満気にルーに突っかかり始めた。


「・・・お前さぁ。前から思ってたんだけど、お前の馬の名前変えろよ。ローランの愛馬の名前なんてつけんなよ。」

「別にいいだろう。オレの馬にケチつけるなよ。」


二人はそのまま馬を広場の柵へと進みながら喧嘩を始めてしまった。


「ケチはつけてねぇだろ。あ。そうだラムレイにしろ。キング・アーサーの愛馬の名だ。」

「やだね。お前がキング・アーサーに縛られてるのはオレには関係ない。」

「関係なくはないだろう。お前誰の随従だと思ってんだよ。」

「ふん。別にお前じゃなくてもいい。」

「あ? 何だとこの野郎。ヤんのかコラ。・・・・・」


後半何を言っていたのか分からないが、愛馬の名前で揉め始めたようだ。

器用に馬を勧めながら足で互いに蹴り合い口論する姿を、ポールと並んで眺め二人で深いため息をついた。



馬に乗ったリシャールとルーが喧嘩しながら中央に出る。


柵の周りには多くの人たちが集まり始め、二人が柵を抜け中央に進むにつれて歓声がどんどん大きくなっている。

二人のあの喧嘩も、気持ちを盛り上げるためなのだろう。

しかし、そろそろ真面目になってもらわなければ。

そう思い、先程二人に掛けそびれた言葉を叫ぶ。


「二人共、頑張ってー! 」


その言葉にリシャールが片手を上げ「おう!」と返事をし、ルーはチラリと目線をよこしてくれた。


リシャールは上げた手をそのまま柄にもってゆく。

そして、ニヤリと不敵に笑い、剣をスラリと鞘から抜くと馬を歩ませ、柵の向こうで声を上げながら見物している者たちを剣で指差す仕草をしながらゆっくりと円を描く様に移動し始めた。

 差された者たちは威圧され、息を飲む。

リシャールは徐々に静まる群衆の視線を集めながら広場の中央で待つルーの側に行くと、皆に顔が見えるように馬をぐるりと小さく円を描くように歩ませながら、高々と剣を突き出して名乗りを上げる。


「我はピュルテジュネ国、ブルトン王で、ノルマンディー公、アンジュー伯であるアンリ2世が息子、アクテヌ公、リシャール、である。」


リシャールの声が大きく空に響き渡りその場を制圧する。


「ベランジェール姫に、この剣を捧げる。」


そう宣言すると、顔の前に剣をかざし、小さくキスをする。

隣でルーも同様に、しかし無言で剣で祈りを捧げると、それを合図に群衆たちが盛大な歓声を上げる。


「牛を」


ベランジェールの高くよく通る声がしたかと思うと ガッタン と柵の一部が開き一頭の大きな雄牛が場内に歓声と共に放たれた。

興奮状態で投入された雄牛は、中央にいるリシャールとルーに標的を定め、勢いよく突進していく。


二人はそれをするりと交わす。

突進した雄牛はぐるりと大きくカーブを描きながら二手に別れたリシャールとルーに体を向け直すと、雄牛の近くに居たリシャールに標的を定め、後ろから鋭い湾曲した角を白い馬の太もも目がけ突進してゆく。


アンダルシアンは闘牛用に訓練されているらしく、騎乗者が攻撃しやすい様に牡牛をギリギリまで引き付けつつ、その角を交わしているらしい。

リシャールもルーもそつなく乗りこなしているが、自分の体制を維持しつつ、激しく動く馬の手綱を操るの恐ろしく難しそうだ。


リシャールが体を浮かせながら小さく馬を跳躍させ、雄牛の角を避けると会場から歓声が上がる。

機嫌よく馬上で歓声に手を振ったその瞬間だった。


リシャールが突然体勢を崩し、馬が首を振る。


手綱が切れたのだ。

いや、もしや誰かに攻撃されたのか?

ざわりと背中が泡立つ。


剣を持ち、片手に手綱をもっていたリシャールの体は更にバランスを崩す。

馬が戸惑い再び首を振り、リシャールの手に持っていた剣がはるか後方へと飛んでいく。

リシャールはこのままでは振り落とされると判断したのだろう。

馬の動きに合わせながら素早く飛び降りた。


体の何処かを痛めた訳ではない様子に、見ているこちらが安堵する間もなく、事態は悪くなってゆく。

背中を見せていた雄牛がリシャールの異常に気がついたのだ。

リシャールは今、武器も手にもっていないし、乗っていた馬は走り去っている。

雄牛はそれを見逃さない。

素早く死角に回り込んだ雄牛は、後ろから角を突き出してリシャールへ突進していった。

振り返り応戦しようとするが、雄牛のほうが早い。

体勢の整わないままかろうじて雄牛の角を避けるが、次の攻撃は交せないのではないのか。

そう思ったとき。


雄牛の動き止める。

広い会場の対極にいたルーが駆けつけ、雄牛の横腹にリシャールの転がした短刀を投げつけたのだ。

新たな脅威に雄牛の標的がルーに変わる。


「リシャール!!」


その隙に主の名を叫びながら、ポール、ペランと共に柵の中に入り、急いでリシャールの側に駆け寄り無事を確認する。

ぱっと見た所、何処にも傷はない。

何かに攻撃をされた様子もなく、ただ、手綱が切れただけの様だ。


「ひとまず外に! 」


そう進めるポールにリシャールは無言で首を振る。

その視線の先には、ルーが雄牛との2度目かの接近を交わし、今まさに剣を高々と振りかざし打ち下ろそうとしている所だった。

攻撃をかわされた雄牛の体重が外に流れた隙をついて、馬の上でほぼ横倒しのような体制のルーの剣が雄牛の首元に差し込まれる。


その途端に大きな歓声が響いて驚く。

緊迫した事態に我を忘れ自分が今何処にいるのかも失念していたのだ。

観客たちが喜んで歓声を上げ手を叩いている。

その喝采を浴びるルーは、静かに馬をなだめながら止めると、今しがた剣を突き刺した標的に視線を注いでいた。


雄牛は首から血しぶきを上げながらそのまま走っていたが、次第にその迫力を弱め、力なく歩き始める。


ドウッ


と音を立てて前につんのめる様に土埃を上げながら、雄牛の体が地面に沈んでいった。













※※※※※※※※※※ お ま け ※※※※※※※※※※


愛馬の名前で喧嘩を始めたリシャールとルーの続き。


「ケチはつけてねぇだろ。あ。そうだラムレイにしろ。キング・アーサーの愛馬だ。」

「やだね。お前がキング・アーサーに縛られてるのはオレには関係ない。」

「関係なくはないだろう。お前誰の随従だと思ってんだよ。」

「ふん。別にお前じゃなくてもいい。」

「あ? 何だとこの野郎。ヤんのかコラ。(都合よくここからジャンには聞こえていない。)ジャンの随従にでもなるのかよ。」

「ふ。なぜそこでジャンが出てくるんだ。女々しい奴だな。」

「あぁん? もっぺん言ってみろよ。」

「女々しい奴だな。」

「おぅ。お前2回も言いやがったな。」

「お前が言えと言ったんだろ。」

「言えとは言ってねぇ。」

「言っただろ。」

「言ってねぇっ! 」

「言った。」

「言ってねぇッ! 」


子どもの喧嘩です。












タイトルのレホネオ(Corrida de Rejones)とは、現在で言う、闘牛士が馬に乗って行う闘牛で、闘牛に使用される馬は、勇敢な牛と戦うために特別に調教されてるそうです。

賛否両論ある祭典ですが、古代から雄牛と戦う戦士というモチーフは普遍的だったりします。

画家のピカソも闘牛が大好きだったそうです。


ベレンガリアを゙ベランジェールに変更、ショーンをジョーンに変更(2024.04.12.)

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