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二ー12 パンプローナ

次の日の早朝。

ポールに叩き起こされ、朝靄の中出発となる。

いつもおれの後ろに乗らせろとひと悶着しかけてくるダニエルが、今日はすんなりとペランの馬跨りながら口を尖らせて昨夜の文句を言い始めた。


「おいおい。お前らひどくない? オレの顔みてねぎらいの言葉一つ無いのかよ。お前らオレが何曲歌ったか知ってる? 」

「ペラン一緒に居たじゃん。何曲くらいだった?」

「あー。3曲くらいじゃね? 」

「ちょっと、ジャン! コイツに聞くなよ。ほぼ酔っ払ってたの知ってんでしょ。20曲は歌ってんぞ!!」

「タダで2時間、ワンマンライブだね・・・。うわ。そう考えたらなんかごめん・・・。」

「気づくのおせぇよ。おい。リシャール。これは貸しだからな。」

「なんで俺の貸しになるんだよ。」


リシャールがおれの少し前で愛馬のラトロワの上で彼の首を撫でながらめんどくさそうにが答える。


「お前ら外でイチャついてただろ。知ってんだぞ。」

「別に俺は部屋でもヤッても構わねぇんだけど、ジャンが嫌がっから。」

「はぁ? おれ? だってポールもルーも同じ部屋じゃん! 構うわ! 」


こちらの宿事情、というか基本的に客室は共同ベットなのだ。

富裕層になれば自室が持てるが、山の中の宿ともなれば、個室は無い。

しかも、リシャールが言うように、基本的に貴族達は周りに人間が常に居る状態なので、事情中も人が居ても基本的に気にしない。

が、おれは無理。絶対ヤダ。


「じゃぁ、ジャン。貸し1な。」

「・・・なんか、ダニエルに借り作んのやだな・・・。あ。そう言えば、クマみたいな人居たじゃん。話した?」

「クマ?・・・あぁ。居たけど。それがなんだ? 」

「おれ、あの人にダニエルの事任せたって、言ったんだけど。」


横からリシャールが馬首を並べながら怪訝そうな顔をしておれの顔を覗き込んでくる。


「・・・なんだそりゃ。知り合いだったのかよ。」

「リシャールの後を追いかけようとして店出るときに、クマみたいなでっかい人が入って来て、ちょっとぶつかっちゃったんだけどさ。なんか優しそうだったからダニエルの事を頼んだ。なんだかひつこそうな人居たじゃん? 彼、助けてくれたんじゃない? だから貸し借り無しだな。」

「ぶつかったのに優しそうって、何だよそれ。」


隣でごちゃごちゃ言うリシャールを無視しながら、ニッコリとダニエルに笑いかけると、モゴモゴと何かを言いながらも特に反論がなかった。

貸し借りはチャラという事にしてしまおう。

あの様子だと、彼は本当に困ってた所を助けてくれたのかも知れない。


そうやってたわいのない話をしながらピレーネ山脈をくだり、いくつかの町を横切り、石で舗装された道を進むと、パンプローナの城壁が見えてきた。

太陽が高い位置にきたこともあり、気温が上がってくる。

話によるとパンプローナは盆地の気候で、「1日で四季を感じられる」というくらい気温差があるらしい。

以前ピュルテジュネ王のクリスマス宮廷に招待され行ったルーアンなどと比べ距離で考えても随分南下しているので、暖かい。

街の人々も陽気で何処かから歌が聞こえる、そんな雰囲気の街だった。


街の中心にある城へ向かうと、門番に軽い質問をされただけで城内へと案内される。

先触れがすでにリシャールが来たことを伝えていたのだろう。

早速王宮へと挨拶へいく。

王宮では、留守である王の替わりにベランジェールが出迎えてくれた。

 スラリとした体を質素な衣服で身を包み、つややかな黒い髪をリボンでまとめ、凛とした佇まいの中に、優しげな目が印象的だ。

彼女はスカートをつまみ上げ礼をとると、よく通る声が広間に広がる。


「ようこそおいでくださいました。リシャール様。あいにく王が不在ゆえ、この様な簡素なご挨拶をお許しください。」


リシャールは儀式的な挨拶を返すと、懐かしげな面持ちでベランジェールを見る。


「簡素でいい。堅苦しい挨拶は苦手だ。」


リシャールはベランジェールの方に歩み寄ると軽くハグをすると、お互いに微笑みあった。


「久方ぶりだな。6年ぶりか。すっかり美しく成長されたものだ。王が不在でむしろ幸運であった。この様な美しい姫直々に、歓迎していただけるのだからな。ところで、サンチョは?」


そう言われてベランジェールは少し怒った様な、不満げな表情をする。


「兄上はちょうど、いつものようにふらりと山の教会に行ってしまわれましたの。使いの者を出してすぐ帰ってくるように申し上げましたが、・・・入れ違いだったようです。」

「なんだ、じゃぁ、俺たちが峠に居た時も、あいつ居たってことか。目立つなりしてるのに、相変わらず覇気ががねぇから、みつかんねぇな。」

「ふふふ。リシャール様の歯に衣着せぬ物言いも相変わらずですわね。兄上も以前リシャール様から教わった剣術を復習しながら、ずっと鍛錬を重ねていますのよ。ああ。そうだわ! リシャール様。また兄上の稽古を手伝っていただけないかしら。以前よりは随分マシになりましたが、まだまだですの。」

「ベランジェールも変わらず厳しいな。今回はアイツの体にあった剣を持参したんだ。腕の達つ剣士も連れてきたから、期待してろよ。」

「はい。リシャール様。頼りにしております。ところでジョーン様のご様子はご存知かしら。」

「いや。あいつ全然連絡よこさねぇし、こっちもしねぇし、ベランジェールは、連絡取ってるのか?」

「はい。シチリアでとても楽しんでいらっしゃる様子でしたよ。この度は初陣なさったとか。」

「へー。ヤルな。アイツ。」


ポールがリシャールに突っ込む。


「いや、ヤルなじゃ、ないでしょ。え? 初陣? 姫が? 」


それを見てふふふとベランジェールが笑う。


「そうですの。おかしいですわよね。まぁ、なんとなくそうなる予感はしていましたが、まさか本当に隊に入れてもらえるとは思いませんわよね。」

「いや。アイツ筋がいいからな。結婚っていってもまだ子ども作れる年齢じゃないし、王宮生活なんて息がつまるだろう。良かったんじゃないか。」

「ええ。王にもかわいがって頂いてる様子ですわ。まぁ、騎士として、ですけれど。」


やれやれといった顔でポールはため息をつく。


「騎士見習いするために嫁に行ったわけじゃ無いんだけどな。ジョーン様らしいが。」


ふむ。とリシャールがつぶやく。


「シチリア王。確か前線にはあまり出てこないイメージだな。王宮で細かな指示を出すタイプだろ? 信頼できる武人が前線に出てくれれば何かと捗るか・・・。あー。ジョーンの騎士叙任式俺がやりたかったのになー。」

「・・・文によれば、シチリア王は随分と美しい御仁のようですわ。時のトルバドールダニエル殿も裸足で逃げ出す程だと、書いてありました。」


リシャールの最後の言葉は黙殺され、ベランジェールが新たな情報をぶち込んできた。

それを聞いて後ろに控えていたダニエルがここぞとばかりに前へ進み出る。


「ほほう。それはそれは。ああ見えてジョーン様はオレを多少なりとも評価してくださっていたということだな。」


ダニエルはベランジェールの前に跪き騎士の礼を取る。


「お初にお目にかかります。私が噂のトルバドール、ダニエルでございます。」

「リシャール様の随従は皆様勇敢で面構えが良いと門兵たちが申しておりましたが、ダニエル様もご一緒でしたのね。ジョーン様から噂は伺っております。なんでも、ジョーン様に20戦20敗だとか?」


先制パンチを食らったダニエルは少し苦笑いすると、ベランジェールの手の甲にキスをした。


「幼い姫に花をもたせたまでの事でございます。貴方様にも花を持ってまいりました。どうぞお受け取りください。」


そう言うとダニエルはいつの間に用意したのか、一輪の美しい花を差し出す。

ダニエルのその仕草は美しく、広間に控えていたナバラの国の者たちからため息が漏れた。










お辞儀


女性がスカートをつまみ上げてするのが

カテーシ− curtsey


男性が立ってするお辞儀が

ボウアンドスクレイプ bow and scrape

男性バージョンは小説該当時代にあったのかどうかはわかりません。

皆貴族は騎士だし。

ダンスも皆で輪になって踊るタイプで、手を取り合って二人でステップというは数百年後の文化ではないかしらと思ってます。(未調査デス)


ベレンガリアを゙ベランジェールに変更、ショーンをジョーンに変更(2024.04.12.)


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