第九幕 「超ラブラブな二人! いってみよう!」
一話短め、間隔広めの読みやすさ重視の作品になっておりますので、苦手な方はブラバ推奨です。
準備が整い、いよいよ撮影が始まる。
流石に、今回は生配信ではなく、録画したものを編集して投稿するらしい。
舞台は、部室の奥にある小さなスペース。
俺には丁度いいサイズかもしれない。
今はまだ、文化センターのホールはおろか、体育館のステージすら怖い。
本願寺先輩がカメラをセット。撮影も本願寺先輩が担当らしい。
もはやベテランカメラマンと言ってもいいくらいの渋さを醸し出しながら、黙々と準備をしている。
他の三人はがやがやと悪だくみ中。
というのも、この作品は、
「あのー、この作品ってコメディなんですよね?」
「うむ、その通りだが?」
苦無先輩が相変わらず、胸を強調してしまうような腕組しながらこちらを見てくる。
「台本、ほとんどまんま『ロミオとジュリエット』ですけど、いいんですか? 話によると自称ロミオと、ジュリエットだったと思うんですが」
「……アクト、お前マジか……」
動画部のこ憎たらしいマスコット、きがちゃん先輩が腹立つ顔で肩を組んでくる。
「いいか、俺もそうだが、お前も間違いなくイケメンではない! そんなお前がロミオをやってみろ! 歯の浮く台詞を言ってみろ! それで十分なんだよ」
言ってることは腹立つが確かにその通りかもしれない。
ブサイクがイケメン台詞を言っても面白になるだけだろう。
しかも、演技が下手なら猶更か。
「まあ、なんだ。君は君の全力で、カッコイイロミオを演じるつもりでやってくれればいいんだ」
一生懸命なほど面白くなるってことか。
それなら気も楽だ。
顔に関しては自覚してるし、それでちょっとでもウケるんなら、あの無拍手舞台の何十倍もマシだ。
「ただ、君たちも不安な部分はあるだろうからな、そのあたりは、吉賀がなんとかしてくれる」
「その通り! 俺の役は、愛のキューピッド、『ムチャブリエル』! 色んな無茶ぶりを劇中お邪魔してぶっこんでやるから安心してくれい!」
いや! 安心が跡形もなく消え去ったんですけどぉおおおお!
という心の声が響いたのが、一時間前だ。
その後、台本を覚える時間があり、ようやく撮影となる。
ちなみに、この一時間というのも『ムチャブリエルからの指示』だった。
その動画も撮られていた。
なんなら、部室に入る前からカメラ回していたらしい。
で、さらなる悪だくみを、あの三人が相談しているというわけだ。
「つまりだな、洗濯ばさみを……」
「やっぱ物まねっしょ?」
「まーまー、最初はこのきばちゃんにおまかせあれ!」
不穏な会話に背筋が冷える。
しかしもう、始まってしまっているのだ。
やるしかない。
気楽にやろう。
なあに、大丈夫。
『どんな演技であれ、全力で臨んでくれるのなら、私は君に全力で拍手をするつもりだよ』
って、苦無先輩は言ってくれた。
なら、俺は全力を尽くすだけだ。
ただ、少し潮時さんには悪い気がするけど。
彼女の腕がどのくらいかは分からないけれど、俺が足を引っ張ることになるだろう。
なんせ、彼女は演劇部の新入生歓迎企画で、俺が共演したあの天才『広井結女』を棒読みにさせてしまうというド下手役者だと知っている。
そのせいだろう、表情には緊張が見える。
「あの、大丈夫?」
「え、あ、大丈夫です」
「ごめんね、俺なんかが相手で」
「いえ! そんなことは! それに……夢だったんです」
……動画配信者になるのが?
まあ、手軽にできるとはいえ、ハードルは高いのかな。
栗色のサイドポニーを揺らしながら、彼女は本当に幸せそうに笑っていて、ドキッとした。
そんな彼女の動画配信者という夢の一歩を俺で汚したくはない。
全力だ。
持てる全てを出し尽くそう。
「では、はっじめっるよーん! ルール確認! 何があっても芝居は続けること! ムチャブリエルの可愛い悪戯指令があっても続けてね☆」
俺と、潮時さんは部室奥の小さなスペースで向かい合う。
近い。
狭い部室での芝居なんだから当たり前なんだけど、ああ……ちくしょう、シトラス系の良い匂いがします!
なんかすごい瞳も潤んでて、顔もほんのり桃色に見えてきた。
うお、恋する乙女の演技うまいな! 潮時さん!
ま、まずい! これは、この子も天才なのかもしれない!
「物語は! ロミオが敵であるキャピュレット家の舞踏会にやってきたところから始まります! そこで出会ったロミオとジュリエットは互いに相手が敵の家の子だと知らないままに言葉を交わし始める」
本来はダンスを踊るんだが、潮時さんはダンス未経験なのでそこは変更された。
俺の下手なダンスなら、笑いを稼げたかもしれないからちょっと残念だが。
にしても、流石メインで出演しているきがちゃん先輩。
一つ一つの言葉が聞き取りやすく、そして、歌うように軽快なリズムで気持ちを盛り上げてくれる。
「それでは、自称ロミオとジュリエットはじまりはじまり~! 最初のムチャブリエルの指令は~『もう目と目があっただけで一目ぼれ! 超ラブラブな二人!』 いってみよう!」
「な!」
誰かの絶句した声が聞こえるが、俺も同じだ。
マジか!? そりゃ、傍から見てたら楽しいだろうけどさ!
潮時さんも顔を真っ赤にして焦っている。
くそう、ムチャブリエルが『フツメンでも美少女にモテる経験出来て良かったな、同志よ!』みたいな顔でサムズアップしてる!
余計なお世話だよ! でも、ありがとうございます!
お読みいただきありがとうございます。
間隔開ける意味ってあんまりない……?
一旦、今日出来上がった分一気に公開します。
一応、ちょっと恋愛要素が見えるところまで汗
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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