第六幕 「もうやだこの人!」
一話短め、間隔広めの読みやすさ重視の作品になっておりますので、苦手な方はブラバ推奨です。
部室棟は賑やかだった。
演劇部のような新入生歓迎の為に、各部が色んなことをやっているんだろう。
お菓子を食べながらお話会とか、ユニフォームを着てみての体験会など様々な楽し気な文字が見える。
しかし、今、俺が誘われた『動画部』は、
『演技できる子がもう一人欲しいから演劇部の新入生に声かけて攫ってきて』
と、これまた新入生に頼むような部活だ。
……改めて考えると不安になってきた。
けれど、
「ん? どうかしました?」
サイドポニーを揺らしながら、その動画部新入部員の潮時信女さんが尋ねてくる。
彼女を一人そんなヤバい部活に入れてもいいものだろうか。
彼女はぶっちゃけ美少女だ。
すれ違う人たちは男女問わず二度見、もしくは、口を開いてぼーっと見ている。
何人かは積極的に挨拶をしてきており、彼女も元気に挨拶を返している。
それだけで、目がハートになる男子多数。
そのレベルの彼女を、人攫い推奨の部活に一人でいさせるのも不安だ。
せめて、どういう部活か確認し、彼女の安全が保障されるまでは頑張ろう。
そして、動画部にやってきた。
正確には入り口前に立っている。
なんか、怖い。
見た目は普通の入り口だ。
だが、虫の知らせというか、ゲームでいう所のボス戦前に、『本当に入りますか?』ってわざわざ聞かれそうなくらいの緊張感。
いや、ぶっちゃけ、理由は分かる。
多分、ドア一枚隔てた向こうに、誰かいる。
部室の中にいるとかじゃない。
多分、ドアに張り付いているといっていい位至近距離に立っている。
「あの、入りませんか?」
「あ、うん。ええと、俺が開けていいの?」
「開けてください」
潮時さんが顔を引きつらせながら笑っている。
知ってるというか多分やられたんだろうな。
俺は意を決してドアに手をかけ、ゆっくりと開けていく。
滑りの悪い音を鳴らしながらドアが開いていく。
ふんわりとした女性の髪が見え……小さな肩が見え……こちらを真っ直ぐ見てくる瞳が見え……俺は静かにドアを閉めた。
「……潮時さん。短い間だったけど楽しかったよ」
「まだ何も始まっていませんけど!」
「……あれ、誰?」
「部長です」
潮時さんが目を散々泳がせたのちぼそりと俺の耳元で囁いてくる。
良い匂いがするので勘弁してほしい。
「あー……あの、大丈夫な人?」
「大丈夫です! 多分! ……多分」
大事なことだから二回言ったのだろう。ありがとう、すんごく伝わった。
潮時さんを連れて、回れ右しようとすると、ドア越しに声が聞こえる。
「ねーえ、君、そのまま、帰って、大丈夫かな?」
よく分からない汗が噴き出してくる。
通る声が耳を貫いた。
え? そのまま帰ったら大丈夫じゃないの?
慌てて、潮時さんを見ると潮時さんが指を一本立てて『一度だけでも!』とお願いしてくる。
……覚悟を決めよう。
俺は、思い切ってドアを開ける。
「よく来たな! 一年生! 私が、三年一組部長の吝苦無だ」
吝部長は、腕組仁王立ちfeat.ニヒルな笑顔でこちらを見ている。
かなり成長著しい方らしく、身長も俺と同じくらいだろう170はある。
そして、組んでいる腕の上に乗っかっている胸がヤバい。
その上、緩やかなウェーブのふんわりロングで、ソース顔というのだろうか彫が深く整った顔立ち、ダブルと言われても違和感ない。瞳の色素も薄目でより日本人離れした感じだ。
でも、名前は苦無。
忍者のアレだ。
「両親が忍者大好きでね」
あれ? やっぱり海外の方? っていうか、俺声に出してないよね?
「目は口ほどに物を言う。あと、胸を見ても構わないが、気を付けたまえ。そういう視線に女性は直ぐに気づくぞ」
げ、バレてた。
そして、右側潮時さんの視線が痛い。刺すような視線だ。
なるほど、これが目は口ほどに物を言うってやつか。
「まあ、私の話はいい。さっさと話を進めよう。さて、微妙阿久人くん」
「ちょ! ちょっと待ってください!」
「……。はい、じゃあ、ちょっと待ったところで、さて、微妙阿久人くん」
「なんで! 俺の名前を知ってるんですか!? 俺がここに来るなんて知らなかったはずでしょう!」
吝部長の勢いに流されかけたが、なんとか引き戻すべく俺は声を荒げる。
すると、部長はにやーっと嫌な笑顔を向けてくる。
「私の趣味は情報収集だ。信憑性の低い噂から教員からの情報横流し、更には、SNSを徹底的に使いこなし、この学校で言えば、Tmitter利用している生徒の百人以上のアカウント特定を終了している。何が言いたいかと言えば、君の事をとても知っているということだ」
……あ、やべえ! この人本物のやべえ人だ!
「まあ、これもわが家がくのいちの家系だからなんだが」
「そうなんですか?!」
「嘘だ!」
「もうやだこの人!」
これが、後に人たらしの天才と知ることになる吝苦無部長との忘れられないファーストコンタクトだった。
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