第三幕 「俺は、お前たちのことを友達だと思ってる」
一話短め、間隔広めの読みやすさ重視の作品になっておりますので、苦手な方はブラバ推奨です。
二年目。先輩が三年生ばかりだったことと、やはり天才達の才能に圧倒されたのだろう新入生がゼロだったことで、演劇部は俺と天才達だけになった。
居心地の悪さが一層増し俺は出来るだけ天才達と会話しないよう、そして、少しでも彼らに追いつけるよう、一番最初に練習を始め、一番最後まで残って練習を続けた。
ある日のこと。
居残り稽古をしていた俺は、今日は母親の誕生日だから早く帰ってくるよう言われていたのを思い出し、いつもより早く稽古を切り上げ、部室に戻ろうとした。
「私とアクトが共演? 役不足でしょ」
部室のドアの前から聞こえたのは、ユメの声だった。
役不足?
「だな。しょうがねえか。じゃあ、次の文化祭の作品は、ユメを外してアクトに一人でやってもらうしかねえな」
キトラのため息交じりの声。
は?
俺を出すために、ユメを外す?
「キトラ、お願い。わたしもなんとかアクトの為に脚本を書き上げてみせるから」
絞り出すようなアヤの声。
俺の為の脚本?
そんな苦しそうな声で?
「な、なあに! みんなで頑張ろうぜ! アクトがちゃんと輝けるように、な!」
「う、うん……ウチも頑張って凄い衣装つくるからさ! みんなもそんな顔しないでよ!」
「ボ、ボクもなんでもするから言ってね!」
ふざけるなよ。
お前ら天才達が頑張らないと俺は輝けもしないのかよ。
「ふざけないで! あんたたち、どれだけ難しいことか分かってるの!? みんなしてバカじゃないの! あいつにもはっきり言った方がいいわよ!」
こんな時、ピアノのああいう言葉は救われる。
ああ、そうなんだ。
俺は、
「俺は、お前たちのことを忌々しく思ってる」
「あ、アクト! お前、いつから……」
キトラが顔面蒼白にしてこっちを見ている。
ごめんな、天才のそんな焦った顔が見られてちょっと嬉しくなってるわ。
「けどな」
けどな、言いたい事はそれだけじゃない。
「俺は、お前たちのことを友達だと思ってる」
そう。それは偽りのない言葉だ。
俺は、コイツらにとてつもない嫉妬の感情を抱いてる。
けど、それだけじゃないんだ。
俺は知ってるどいつもこいつも無茶苦茶努力してる。
俺が最後まで残って稽古してるけど、こいつら帰ってからも色んな努力してる。
昨日より今日、今日より明日、こいつらは進化してるんだ。
目にクマつくって、手にマメつくって。
めちゃくちゃカッコいい天才だ。
本当に、大嫌いで、大好きなんだ。
「だから、俺のことは気にしないでくれ。俺は、卒業まで基礎練でもいいから」
お前らに認めてもらうまで、俺は努力し続けるから。
必ず、認めてみせるから。
俺はそれだけ伝えると、鞄をひっつかんで、制服をつっこみ、ジャージのまま足早に去ろうとした。
ドア付近に立っていたユメと目が合う。
顔を真っ赤にして、眉間にしわを寄せて、俺を睨むユメと。
すれ違いざま、ユメが呟く。
「……役不足なのよ」
役不足。
妙に熱のこもったその言葉が耳に残り続け、俺はずっとうわの空だった。
そのせいで、誕生日パーティーもぼーっとしていて母親に泣かれた。
ごめん、母さん。
そして、次の日。
演劇部は俺一人になった。
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