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第二幕 「モブオブモブ」

一話短め、間隔広めの読みやすさ重視の作品になっておりますので、苦手な方はブラバ推奨です。

実は、ユメと俺は『元・同級生』だ。

話は中学時代に遡る。


俺の両親は、芸能関係者らしい。

と言っても、母親は既に引退しており、父親は現役にも関わらず、出演作を見たこともない。

母曰く、『クソ底辺役者』らしい。

まあ、普段、父親の名前を出してみても誰も知らないと言うのでそうなんだろう。

正直、父親の容姿はそこまでいいとは言えないので、知らなくても当然とは思っていたが、子供としては少しくらい知られていてほしかった。


俺もその遺伝子を受け継いでいるのだろう、俺の目は小さく垂れ目、鼻も小さく丸め、バランスは悪くないが、本当にどこにでもいるような顔。

親友だったヤツ曰く、『モブオブモブ』。

ブが多い。言いにくいな早口言葉か。


けれど、中身も遺伝子を受け継いでいるんだろう、俺は演技の世界にどうしようもないくらい強烈に惹かれた。

小学校時代も父の紹介で子ども劇団を紹介してもらった。

劇団内では子どもも親も我が子が主役って感じでギスギスしており、正直苦しい思い出ばかりだった。

その上、クソ底辺役者である父には厳しい言葉をかけられ続け、優しい母にはやめた方がいいのではないかと諭された。


けれど、俺は信じなかった。

自分には才能があるんじゃないか。父と母の目が間違ってるんじゃないか。

そう信じ、中学に上がって俺は演劇部に入った。

そして、そこで俺は両親の言葉が間違っていなかったのだと痛感する。

俺と同じ新入部員で、七人の、俺と違う『天才』が入ってきたのだ。


どんな役者、どんな環境であったとしても、観客を泣かせるほどの舞台を作り上げる天才演出家、鬼寅新世界きとら しんせかい


文芸コンクールでも既に賞をいくつも取っていて出版社が争奪戦を繰り広げる天才脚本家、來田文らいた あや


動画サイトにあげた曲はもれなくバズり、既にCDデビューもしている音の天才、音羽洋琴おとわ ぴあの


学生の身でありながら個展も開く天才美術家、美作囲炉裏みまさか いろり


服、髪、メイク、どれもがプロ並みでウィンスタでは神と崇められるファッションの天才、羽衣縫はごろも ぬい


そして、あらゆる知識を持ち、あらゆる技術を身に着けた天才オールラウンダー、万能万まんの よろず



超高校級、いや、超中学級と呼ばれる彼らが普通の公立校に揃ったのは奇跡と言えるだろう。

そして、一年目からいきなり全国出場を果たす奇跡を起こしてもらった学校としては幸運と言えるだろう。


俺にとっては、不幸だった。

目の前で繰り広げられる天才たちの天才っぷりにより、俺は自分の実力のなさを思い知らされた。


彼らが活躍するのを尻目に、俺は一人、ずっと基礎練習をやっていた。


何故なら俺とユメが共演するとあからさまにユメが手を抜き始めるのだ。


「あ、あいしてるわ~」


それを見て可哀そうに思ってくれた当時の部長が、俺は基礎固めの時期にしようと基礎中心の練習を俺用に作ってくれたのだ。

まあ、普通新入生は基礎からなんだけど、ユメが天才過ぎた。

彼女は早速即戦力として、大会用の演目に出演が決まり、俺と違い立ち稽古中心だった。


「心配するなアクト! オレがいつかお前を舞台に立たせてやるからよ!」


見た目爽やかスポーツマンなキトラは俺を励ましてくれ、


「アクトっち……大丈夫? 最近、辛そうでウチ、心配だよ……」


カラフルなツインテールを垂れさせながらヌイは俺を心配してくれ、


「アクトくん! あ、あの! ボクね! 演技に関する本いくつか持ってきてからよかったら読んでみて!」


ヨロズは気を遣って沢山の演劇の本を貸してくれた。



みんな俺に同情的な目を送ってくれたがそれが俺にとっては逆に苦しかった。

何故なら彼らも又、即スタッフチーフに迎えられその天才っぷりを遺憾なく発揮していたから。

華々しいスポットライトを浴びる天才たちと、体育館のステージの隅っこで発声や筋トレをするだけの俺。


それでも、俺は役者がやりたかった。

基礎練習も自分で研究・改善し出来るだけのことをやった。

けれど、


「まだ、あんたは基礎練やってなさい。釣り合うレベルじゃないの分かりなさいよ! バカ!」


ピアノには、アイツの可愛い桃色の前髪のようにばっさり切られ、


「ごめんね……。わたし、アクトのレベルに合わせた面白い脚本書いてみせるから」


小さい体を更に縮ませたアヤにはよくわからない謝罪をされ、


「あ、アクト! あのー、なんだ、アレだったらよ、アタシのやってる美術手伝ってくれねえか!? ちょっと気分転換によ」


未熟な俺は悔しさを隠せなかったのだろう。それを見たイロリが気を使って作業に誘ってくれた。


そんな中、ずっとユメは眉間に皺寄せ俺を見続けていた。


俺の演劇部一年目は、基礎練習と作業の手伝い、天才達を眺め嫉妬する、それだけで終わった。

お読みいただきありがとうございます。


少しでも楽しんでいただければ何よりです。


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