第十二幕 「かわいがりすぎて殺しちゃうわ」
Side:アクト
バルコニーのシーンが続いていく。
ロミオとジュリエットの愛を語り合うシーン。
相変わらず、潮時さんは初心な様子の可愛らしいジュリエットを熱演している。
途中からは、ロミオを離すまいという強い執念にも似た愛情を見せ始め、本当に感心させられる。
楽しい。
きがちゃん先輩の超絶うまい盛り上げテクニックによるものか、苦無先輩のどんな演技でも拍手を送るといってくれたことか、それとも、潮時さんの素晴らしい演技のせいか。
俺、こんなキャラだっけ? っていうくらいテンションが高い。
自由だ。
自由だー!!
途中、隣の部室から大声と拍手が聞こえる。
びくりと跳ねるジュリエット。
「ジュリエットの家の方もまだ眠れずに起きていらっしゃるんだね。随分と盛り上がっていてしあわせそうだ。けれど、僕の方が幸せだ。だって、起きていながら夢を見ているかのような幸せを今感じているもの」
ジュリエットが、目を見開き、そして、美しく微笑み、
「私もよ! でも、困ったわ。あっちの盛り上がりを聞いて、私、今、あっちの盛り上がり以上に舞い上がっていることに気付いてしまったもの」
恥ずかしそうに口を手で隠すジュリエット。
アドリブへの対応もうまい。
今までの演劇人生で感じることが出来なかった通じ合えているこの感覚。
ずっと続けていたい。
けれど、楽しい時間は終わりを告げる。
ロミオとジュリエットの短い逢瀬のように。
「ジュリエット、乳母がよんでるよ! ジュリエット、悪魔のような返事で答えてね☆」
きばちゃん先輩のムチャブリエルが現れ、それこそ悪魔のような指示を出してくる。
「私の幸せを邪魔する馬鹿は、消す」
冷えた。
なんかすっごく冷えた。
あれ? 春だよね、今。
消すの前の間が最高にクールだった。
「で、では、ジュリエット、さようなら」
別れを惜しむ言葉を繰り返し、行ったり来たりを繰り返すロミオとジュリエット。
そのジュリエットの顔は本当に苦しそうで悲しそうで、俺も心の奥底の何かを掴まれたように辛くて苦しい思いが溢れてきた。
演技は自分の中にある感情を膨らませたり、ゆがめたり、置き換えたりすることで成立させる。
彼女の中にあるあの悲しみは一体何なんだろう。
ふいにそんな思いに駆られた。
けれど、このシーンではもう深く踏み込むことは出来ない。
ジュリエットが別れを惜しむ言葉を紡ぐ。
「愛しているから飛んでいってほしくないの」
「君の小鳥になりたい」
「そうしてあげたい。でも、」
ジュリエットが小さく笑う。
「かわいがりすぎて殺しちゃうわ」
……うん、今日イチの感情を感じてしまいました。
殺意にも似た強烈な感情。
それがなんなのか分からないまま、シーンが終わる。
時間的にももう終わりだろう。
バルコニーを去ろうとしたその瞬間
ばん! という大きな音。
扉が開かれた。
苦無先輩たちの更に奥。
動画部の部室の入り口にいたのは、ユメだった。
「私が、ジュリエットだったはずなのに!」
え? 何言ってんの?
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただければ何よりです。
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今回の『ロミオとジュリエット』は、
作:シェイクスピア 訳:河合祥一郎 『新訳 ロミオとジュリエット』から一部引用させて頂きました。




